#29.綺麗な月夜を四天王と共に

煌びやかなシャンデリアが、天井で輝いている。

眩い光に照らされ、置かれてゆく料理はどれも高級品ばかり。

周りで談笑する人々は皆、綺麗で麗しいドレスに身を包んでいて……


「やばい……めちゃくちゃファンタジーじゃん……」


じゅるりとよだれが垂れるのを抑えながら、あちこちへと目線や首を動かす。

はい、みんなにここでリンネくーーいず! 今私はどこにいるでしょーーか!

正解はそう!! 舞踏会です!!


舞踏会といえば、貴族しか立ち寄れないレア中のレアプレイス!!

ゲームや漫画でしか見たことなかったけど、実際にこれちゃうなんてさすが異世界!!


それもこれも、発端はユサさんの手紙である。

ユウナギに魅了の能力が効かなかった故なのか、やけに興味を示した彼女はことあるごとに手紙を渡してきていたらしい。


やれ会いたいだの、やれデートしたいだの……正直ユウナギが嫌になるのも無理はない、と思うような随分と積極的な内容ばかりで……

返事もせず、最近は中身すらみていなかったらしいが、運良く私が見た内容が、「婚約者を紹介する舞踏会への招待」というわけだ。


フラグが生きていると思っていた私としては、彼女がどう言う魂胆で、この場にユウナギを呼んだのかはわからない。

なにか考えた上でのあれなのか、それとも単純に諦めて本当に婚約者がいるのか……

どちらにしても、なんか動きありそうじゃない!!? オラ、ワクワクしてきたぞ!!


「……行くって言わなきゃよかったわ……まさか、こんな格好させられるなんて……」


隣で、マヒルが不満そうに呟く。

仮面の下からでも、彼女が怒ってるのは丸わかりだ。

それもそのはず、悪魔族主催の舞踏会に参加したいと魔王に話したところ、それを聞きつけた巳胡さんが、


「じゃあ正装しないとねっ!」


と半ば強引的に、着替えさせられたからである。

つまり彼女達は、いつもと違うドレスになっている。

巳胡さんが彼女達用に仕立てていたものらしく、その中から自分で選んだんだとか。


マヒルが着ているのは、ワインレッド色のAラインドレス。

動きやすいようにと、膝くらいの短めの丈をチョイスしたのがなんとも彼女らしい。

そしてなんといっても、ホルターネックからはっきり見えてしまうあれの形……マヒルって意外にやっぱ持ってるよなぁ……


「ちょっと、何じろじろ見てんのよ。何か文句でもあるの?」


「もぉ、そんな喧嘩腰でいわないでよぉ〜かわいいからみてたのに、せっかくのドレス姿が台無し〜」


「うっさいわね! こちとら着たくて着てないの! 仮面もあつっくるしいし、武器も取りづらいし……いい迷惑だわ!」


「まあまあ、そう怒らずともあなたは十二分にいいものをお持ちじゃないですか。ねぇ、ヒィルちゃんっ」


「ひゃあっ!! ちょっと!! 変なとこ触るんじゃないわよ!! この変態!!!」


この仮面舞踏会は、あくまでも素性を明かさずに参加するらしい。

それに応じて、私達はそれぞれ名前を文字ってヒル、アサ、ユウ、ヨル、そしてリンとして、この場に参加することとなった。

正直呼び慣れないけど、こんなとこに四天王と魔王の娘だって分かったら、後々面倒そうだしねぇ。


「悪魔族主催の式典では、長の婚約者になる方の紹介をするのが主流……そう主様はおっしゃっていました。前科はありますが、スキバユサは長の家系です。くれぐれも粗相のないようにお願いします」


無表情に不釣り合いな、ふりふりしたドレスを揺らしながらアサカがいう。

元ぬいぐるみの影響なのか、彼女が選んだのはフランス人形が着ていそうなアンティーク柄の白色ドレスだ。

胸元や袖、スカートまで、しっかりとレースやフリフリで象られている。

参加者はほぼ楽しそうにも関わらず、彼女の表情はいつもと変わらなくて……


「……やっぱりあんた、その顔にその服はあってないわ。せめて笑いなさいよ、可愛げがないって思われるわよ」


「笑う………笑うとは、これでいいですか?」


「あは、アサってば変な顔〜」


「そういうの、よそでやってくれない? 一緒にいるこっちが恥ずかしいわ」


ワインを片手に飲みながら、やれやれとうんざりしたように笑う。

全面肩だしのオフショルダー、青色のマーメイドラインスカートをまとった、サヨだ。


さすが人魚。四天王随一の美しさとだけあって、やっぱ目を引くものがある。

彼女の存在のせいか、やけに色々なところから視線を感じる気がするし。

いやぁ……改めて思うけど、四天王偏差値高いなぁ。


「私は参加されている方へ一言挨拶をしてまいりますが、皆様はどうされますか?」


「お腹減ったし、そこらへんの飯でも食べとく。ヨルは?」


「ここ、人が多くて疲れるのよね。外で風に当たってきていい?」


それで性格もよければなおよかったのにね!

そんなに来てから時間もたってないってのに、相変わらずの自由さ……もはや感心しますわ、うん。


「それにしても、ユサさん遅いね。まだかな?」


「……随分浮かれてるな、お嬢」


「だってぇ舞踏会なんて初めてだしぃ」


「ここには文句を言いにきたってことを忘れてないか? 女王様も女王様だ、なんでオレまでこんな格好を……」


自由すぎる3人の傍ら、1人ふかぁぁいため息をつく。

男らしい性格故なのか、ユウナギは最後の最後までドレスを着ることを頑なに断った。

しかしお呼ばれしたパーティー会場でそんなわけにもいかず、巳胡さんに取り繕われたんだけど。

彼女が着ているのは、まさかの着物をあしらった和風ドレス! これぞ! ザ・日本美女!!


「やあ、子猫ちゃん達。僕のためのパーティーに、ようこそ」


凛とした、声がする。

燕尾服のようなキッチリとした白いタキシードを着た、サキュバスースキバユサだった。

あれ、気のせい、かな? 今、目が合った気がする。しかも、ニヤリと笑っているような……


「紹介しよう、彼女こそが僕の婚約者だ」


次の瞬間、さらにスポットライトが照らされる。

そこに現れたのはーなんとー!


「あ、えっと、ユサ様の婚約者、カイマツ、と申します」


黒色のロングヘアの女性が、しどろもどろに話す。

いや誰!!!!!??

こんなこといっちゃあかんけど、絵に描いたような地味キャラじゃないですか!!

しかも、なんか……ユウナギに似てるように見えるんですが!?


「あれが……婚約者……じゃあ、やっぱり……」


すぐ隣で悲しそうな、どこか悔しそうな声がする。

誰の声かなんて、考えるまでもない。

その横顔を見た途端、私は黙ってられなくて……


「み、みとめーーーーーん!!!」


気がついた時には、声が出ていた。

何事かと周囲の目線が、私に向く。

それでも私は、構わずにみんなに向かってすうっと一息吐き……


「そ、そんなのより、ここにいるユウの方が婚約者に断然ふさわしいじゃん! 失礼だけど、ユサさんに地味な人は似合わないと思うね!」


「おや、子猫ちゃんは僕が選んだ婚約者に不服というのかい?」


「不服も不服!! 断固反対!!」


「あら、庶民にしては意見が合いますわね」


そんな時現れたのは、帽子に貴族のドレスを見に纏った女性だった。

くるくるカールヘア、手には扇子、周りに取り巻き。絵に描いたような貴族令嬢だ。

その彼女を見た途端、ユウナギの顔つきがまた変わった気がしてー


「ユサ様の婚約者は、エルフ族の生き残りにして、族長の娘であるわたくし、レイジョーです。何処の馬の骨かもわからない方に、ユサ様は渡せませんわ」


「そ、そうだそうだ!!」


「今宵は舞踏会、どうでしょう? ユサ様の前で綺麗な舞を踊った者が、ユサ様の婚約者になれるというのは?」


お、おう? なんか思わぬ方向に風向きが……


「ちょっと待ちなさいよ!! 何を勝手に決めてるわけ!?」


さすが切込隊長、といったところか。

離れたところにいたマヒルが、ずかずかやってくる。

四天王相手だとしらないからなのか、彼女もひけをとらず、むしろタイマンを張るように続けて見せた。


「ここには魔王陛下の四天王も参加している、とお聞きしました。今日この場で、このわたくしがユサ様にふさわしいと証明してみせますわ!!」


「あんたねぇ、黙って聞いてれば勝手にきめて! 相手に迷惑だと思わないわけ!?」


「あらあら、やけに威勢がいいのですね……もしかして、負けるのが怖いのですか?」



さながら悪役令嬢を思わせるようなそぶりで、レイジョーさんが勝ち誇ったように笑う。

な、なんだ、この私好みすぎる修羅場展開……

私もしかして、すんごいいいパス投げちゃったんじゃ……


「カイマツ様だって、あのユサ様の婚約者になる方なんです。自分がふさわしいと思うなら、お受けになりますよね?」


「え、あ、えっと……ユサ様がよければ……」


「ふふ、物分かりがよろしくて助かりますわ。もちろん、あなたも参加致しますわよね?」


半ば強引に相手へ許諾を得ながら、レイジョーさんがくつくつ笑う。

その先にいるのは、いうまでもなくユウナギだ。

私がユウナギの方がふさわしい、なんて言っちゃったし、当然なんだけど。

いつもなら、勝手に決めるなって怒るんだろうけど……大丈夫。私の勘が正しければ、ユウナギはー


「わかった。その勝負、のらせてもらう」


よしきた!! そうこなくっちゃ!!


「嗚呼……子猫ちゃん達が僕を取り合っている……なんて光栄で、素晴らしい……! さぁ、子猫ちゃん。ぜひ僕の前で華麗に踊ってくれ」


自分が決めた婚約者を、勝負にかけられる。

普通なら迷惑と思われるであろう行為にも関わらず、彼女はもはや喜んでいるような……そんなふうに見えた。


(つづく!!)

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