第3章 加速せよ、百合ロード! 前半戦!
#28.この平和な世界に百合を!
朝日が、登る。
ほかほかな朝ごはんが、湯気をまとったまま食卓に並んでゆく。
真っ青な晴天が窓から垣間見える中、ここーシェアハウスではー
「ちょっと、誰かあたしの靴下知らない? 見当たらないんだけど」
「え、おかしいな。カゴに入れてたつもりなんだが……誰か間違って入ってなかったか?」
「靴下なら存じませんが、赤赤しい派手な下着でしたら、先ほどみかけたので拾っておきました」
「ちょ!! それあたしの!! なんであんたが持ってんのよ! ていうか靴下は!? 誰か取ったでしょ!?」
「人聞き悪い言い方ね。そもそも投げ散らかしてばかりなあなたが悪いと思うけど」
「なぁんですってえ!?」
と、今日も今日とて賑やかな会話が広がっている。
のんびり、ゆったりとした日常がまた始まる。
なんて平和で、穏やかな日々なんだろうー……
「……いや平和すぎるわこれ。暇すぎて死にそうなんですが??」
なんて思っているまもなく、私は自分でつっこみをかわす。
はい、皆様こんにちは。リンネです。
転生して、なんやかんや半年。
ついこの間、前世の記憶まで蘇りました。
しかも転生のことが四天王にもバレて……なんやかんやあったものの、今の所お咎めなし。
前世のこともあいまって、百合に向かってさらに進める! なぁんて思ってたのに……
「あのぉ、アサカさん? 今日もまた、一人前講座やらないんですかね?」
「はい。お嬢様は私達と同じくらい、またはその上の年とお聞きましたので。一人前講座などなくても十分だと、判断しました」
「で、でもこの前は二倍にって……」
「しつこいわね、そんなにやりたきゃ一人でやればいいじゃない!」
なんともあろうことか、唯一の交流の場だった一人前講座がなくなりました。
百合フラグの動きすらない昨今。この状況を打破するには、私が行動するしかない。
二倍にする、なんて言ってたマヒルはどこへやら、あっけなく放置プレイです。悲しすぎる……
私が大人だとわかったから?? わかったからなのか??
この前まで、リンネはリンネとか、変わらず接するぅとか言ってたのに……あれは嘘だったの……?
「そ、そりゃあそうなんだけどさぁ? あくまでそれはあっちの世界での年齢で……現に私、魔法の使い方とか、この世界のこととか、わかんないし……」
「……教えても、5分もたたずに寝てしまうのは、気のせいでしょうか」
ぐはっ!
「教えるも何も、あんた魔法しか使えないじゃない! 武器すらろくに使えないポンコツ、あたしじゃ手に負えないわ」
ぐぐぐはっ!
「そもそもあなた、うちらと無駄話したいだけでしょ? 上達する見込みすらないし」
ぐすん、そこまでいわなくても……
そりゃあ私才能ないよ? ないけどさぁ……
「しょうがないじゃん! こうでもしないも話してくれないのそっちでしょ!? 私はみんなの恋愛を叶えたいだけなのに……みんなが私をいじめる〜ってママに言いつけてやるんだからね!?!」
「なっ!?? こ、こいつ……前に増してめちゃくちゃ生意気……!」
「随分いうようになったわね。ま、リンらしいけど」
「これがお嬢様の本性、ということですね……しかと、受け止めさせていただきます」
ふん、なんとでも言えばいい。
これが私、桟縁の本音だもん。
子供のふりをしなくていいっていったのは、マヒル達だしね!
若干みんなから、失望の念が読み取れるような気するけど……否、気にしたら負けだ!!
『郵便ー! 郵便ーー! ユウナギ様宛にお手紙でごぜえやすー!』
「……げ、またかよ。毎度ご苦労さん」
その言葉に、ん? と首を傾げる。
目線だけ動かすと、ユウナギがペリカンのような鳥からから手紙を受け取っていた。
なんとも華美な装飾だ、遠くから見てもキラキラしてる。
すると彼女は、中身をろくにみようともするだけでなく、乱雑にゴミ箱へ投げようとして……
「えっ、捨てちゃうの!? なんで!?」
「……中身見ても、どーせ大した事ないってわかってるからな」
「わかってるって……もしかして、毎回きてるの? ちなみに誰から?」
「あのスキバユサとかいうサキュバスだよ。あのパーティー以降、毎週のように手紙がきててさ……最近は写真やら花やら、一方的に贈ってくるし……困るのなんの」
な、なんやて!!!?
「それ! みして!!」
そう言いながらほぼ強引に、彼女から手紙をとる。
スキバユサ、というのは式典で襲いかかってきたサキュバスである。
それはそれは紳士的でかっこいい人なんだけど……かなりのナルシストという残念なイケメン。
でもでも最後の最後、ユウナギにキスしたり(手のひらだけど)、落とす発言したりと、ほっとけない存在なのだ!!
そんな人から手紙が送られてた、なんてフラグの他ない!!
早速!! 中身を拝見……
『ごきげんよう、子猫ちゃん。いかがお過ごしかな? 僕に会いたくて、1日が長く感じるって時はないかい? そんな君に、僕の写真をあげよう。僕の美しさに、儚くなること間違いなしだ』
あ、あかんこれ。なんか腹立ってきた。
いるよねーーこういううざいナルシスト……相手にするだけでイラッとしちゃうような……
正直、捨てたくなる気持ちがわかった気がする。
あんなにイケメンなのに、残念すぎるよユサさん……
『時に、来週、悪魔族主催で、仮面舞踏会が開かれる。そこで、僕の婚約者をお披露目しようと思っているんだ。もちろん、お友達も連れてきて構わない。僕の婚約者にふさわしい子猫ちゃんを、共にみてくれないかい? 会場で待っているよ』
……ん? 婚約者、だと?
「ちょ、え、あの、ユサさん、仮面舞踏会で婚約者をお披露目するとかいってらっしゃるのですが……?」
「……は?」
戸惑う私から、ユウナギが手紙を取る。
それを他の3人も覗き込むように読んでいく。
いやどーー考えてもおかしいやろ、これ!
ユウナギが嫌になる程手紙送っておいて? 他に婚約者がいました宣言?? どゆことやねん!!
せっかくの百合フラグが!! ここで一本消えるってこと!?
「婚約者、たしか結婚の約束を交わしたもの……でしたか。山ほど手紙が送られていたので、てっきりユウナギ様に気があるのかと思っていたのですが」
「はんっ、いいじゃない! あんな奴、こっちから願い下げよ! やぁっと鬱陶しいのがいなくなってよかったじゃない、ユウナギ」
「……んで……あの人は、もう……」
その時のユウナギの手は、わずかに震えていた。
それでもハッと我に返ったように、マヒルの声に半歩遅れて「そうだな」と返す。
おや? おやおやおやおや??
「ユウナギ。あなた、もしかして気になるの? 彼女がいう、婚約者について」
いち早く気づいたのは、サヨだった。
彼女は一番勘が鋭い。それでもユウナギは、動揺を隠すように目線を逸らした。
「別に、あんなにご執心だったくせに、乗り換え早いな、とか……そう思っただけ」
「それにしては随分動揺してるようにみえるけど?」
「そ、そんなことは……」
「……はぁ。リンネ、準備なさい。あんた達もよ」
するとマヒルが、サヨの言葉を引き継ぐようにいう。
気のせいか、他の3人の心はもうすでに決まっていてー
「準備って、え、マヒルどこいくの?」
「決まってるでしょ、文句をいいにいくのよ。直接本人に」
「まさかマヒル、舞踏会に乗り込む気か? いや、でも……」
「一方的に手紙送られてきて、こっちだって迷惑してんのよ! 一言言わなきゃ気が済まないわ!」
「仮にも、襲ってきた危険人物だもの。効かなかったとはいえ、あなた一人に彼女の相手をさせるのは酷でしょ? お友達もいいってかいてるし、面白そうだからうちもいってあげるわ」
「悪魔族主催のでしたら、主様が何か知ってるかもしれません。一度話をしてからいくのが一番かと」
まるで一致団結、とばかりにみんなが頷く。
一人、ユウナギだけは複雑な面持ちのまま、おぼつかない声でありがとうと礼を言う。
全くこの四天王は……こんな時まで仲良しアピールするなんて……
「よぉし、じゃあいこう! 舞踏会へ!!」
何やら、フラグが動き出しそうな予感です!
(つづく!!!)
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