#27.雨 のち 虹
小鳥の囀る声が、窓から聞こえる。
それくらい静かな沈黙が、城内を包んでいた。
その間、ひたすらに言い訳と、この場から逃げ出す方法を探り出し始める。
はい、リンネです。たった今、前世を思い出しました。
ずっと忘れていたことへの嬉しさもあったのか、唯一転生を知る両親へ話し終えたところである。
それはもう意気揚々に、私という人間についてあますところなく……
そこまではよかった、そこまでは……
「……四人勢揃いでくるとは、珍しいな」
「お話中のところ、申し訳ありません。女王陛下の贈り物がうまくいったか、様子を見にきました」
ナンデココニ四天王ガイルノォ???
そりゃあね、巳胡さんのことに絡んでたってのは聞いてたけどさ??
ここに居合わせるなんてこと、ある?? しかもこのタイミングって……
ま、まさか聞かれた? いやいや、そんなこと……
「あらぁ、お母さんのためにきてくれたの? 嬉しいわぁ」
「それも、あるんですが……実はお嬢が部屋にいなくて。様子を見た後探しに、と思っていたんですけど……」
「まさか、ここにいたとはね。探す手間が省けたわ」
「どういうことか、説明してもらおうじゃない。ねぇ、リ・ン・ネ?」
四天王全員から感じ取れるのは、動揺と怒りの視線。
特にマヒルは、聞いたことのないような猫撫で声だった。
無理に笑おうとしてるのか、口角とまゆげがぴくぴく動いていて……
ま、まずい! とりあえずここは……!
「わぁ、みんなーー! すごーい!! ぐうぜんだねーー!」
必殺!! 子供のふりで怒りを収めて、乗り切ろう攻撃!!!
「私も、今帰ろうと思ってたんだよーせっかくだから、みんなで帰……」
「この期に及んで、まだしらをきるつもり? 残念だけど、あなたの話は聞かせてもらったわ」
デスヨネーうん、シッテタ。
「ごめんな、お嬢。聞くつもりはなかったんだが……」
「とはいえ、ドア越しできくには限界があり、曖昧な部分がいくつかあります。私達にもわかるように、説明をしてくれませんか?」
ま、まずい。どう言い逃れしよう。
だってさ、四天王的はずっと、「魔王の娘・リンネ」を育ててきたわけじゃん?
実は私、リンネじゃないんです!! なんて、今更言ったらぜぇぇったいただじゃすまない……
「こいつはリンネであって、リンネではない。リンネの中には、別の魂がいる」
およ??
「わかりやすくいうとぉ、見た目は子供だけど、頭脳と中身は大人! って感じかしら?」
およよよよ!?
ちょ、お母様方いいんですか!? 大々的な問題を、軽々いっちゃって!
あ、でも思ってたより説明雑だな……ワンチャン分かりませんでした、とかないかな〜なぁんて……
「……つまり、お嬢様はお嬢様ではなく、別の世界からきた人間の魂、ということですか?」
そんなことはないね! はい、さーせん!!
「そうそう! さすがアサカちゃん、物分かりがいいわぁ」
「お嬢様が生まれた日……僧侶や賢者が、城を行き来していましたので。てっきり女王様の介抱目的だと思っていたのですが」
「え、えーっと? お嬢はもう死んでて……その中に別世界の人が入ってて……? やば、訳わかんなくなってきた……」
「つまり彼女は魔王の娘の皮をかぶった、赤の他人、ってことでしょ」
や、やだぁ、みんな頭さえすぎぃ。
ああ、もうだめだ。詰んだわ、完全に。
きっとよく騙したな! って拳が飛んでくるに違いない。
あーあ、私、百合すら見れずに転生ライフ終わるのかぁ……
「……それで?」
……あれ?
「何かと思ったらそれだけ? どうりで自分から大きくなったり、言葉も流暢に話せてたと思ったけど……腑に落ちたわ」
「お、怒らないの?」
「怒るも何も、リンはリンでしょ」
「さ、サヨ……!」
「そもそもあなたが誰とか、うち興味ないし」
んん!! その一言言ったかな!?
「お嬢様には、しかと魔王様の血が流れています。騙していた罪は重いですが例え中身が別人でも、お嬢様を一人前として育てるという任務は、変わりません。変わらず、接しさせていただきます。騙していた罪は重いですが」
や、やだアサカまで……
騙していた罪がぁってのが二回出てきた気がするけど、気にしない!!
「ちょっと驚いたけど、お嬢の言葉に嘘はないんだろ? オレはお嬢を信じるよ。マスターの娘ってのには、変わらねーしな」
嗚呼、なんということでしょう!
ユウナギはともかく、サヨとアサカ二人が優しく許してくれるなんて!!
もしかして私、四天王に意外と評価されちゃってるんじゃ……
「リンネ、歯くいしばんなさい」
振り返ると、マヒルがいた。
ぐーに固めた拳を、私へ一直線に向かってくる。
やっべ!! マヒルがいたの忘れてた!!
あ、あかん、これは殴られるー!
次の衝撃に備え、思わず目を瞑るがー
「ふんっ」
あ、あれ……全然痛くない……?
やわすぎる衝撃に、恐る恐る目を開ける。
なぜか彼女は、固めた拳をしまっていた。
人差し指を、おでこへぴょんっと弾く。いわば、デコピンだ。
えーっと?? これはつまり??
「バカね、殴るわけないでしょ」
「ま、まひ……」
「言っとくけど、これで済んだなんて思わせないから! このあたしを、今の今まで騙してたんですもの! 罰として、筋トレ明日から十倍よ!! 解放されると思ったら、大間違いなんだからね!」
おお……こんなところまでツンデレを発揮するとは……
なんだかんだ、四天王は皆優しい。
そりゃあ言葉に棘があるのはかわらないけど、それだけじゃないのは私が一番よく知ってる。
まったく。殴られる、なんて思ってたの誰だよ。そんなこと、全然ないじゃん。
「私ね、思い出したの。誰かの笑顔が見たかったこと……そのために、悩みや問題を解決してきたこと!」
「リンが悩み解決ねぇ……そうにはみえないけど」
「い、今はそうかもしれないけど……でも、今は全部思い出したから! 昔勉強したものとか!」
「成程、前の記憶が呼び覚まされたことで、よりお嬢様が一人前へ近づけたということですか」
「ていうか、いつまでガキのふりしてんのよ。今度こそ、本気で殴るわよ?」
おっとそうか。もうこの話し方しなくていいんだっけ。
それならそうと、話が早い。
この際だ、もう全部曝け出してやる!!
「では改めて……おほん。というわけで、みなさん! 恋愛してますか!!?」
「………は?」
「騙してたお詫び、っていっちゃなんだけどさ。私、みんなの恋愛を叶えたいの!! みんなの、笑顔が見たいから!!」
「お嬢……何言って……」
「だぁいじょうぶ、だぁいじょうぶ。恋のキューピットって異名もってるリンネ様に、まっかせなさい!!」
リンネとして、桟縁として。
新たな物語が今、始まるー!
(つづく!!)
*次回の更新以降、
毎週火曜日に更新します!
詳細は29日公開の近況ノートにて
ご確認くださいませ*
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