#26.レミニネンス・マイメモリー

「思い出したの!! 私の本当の名前も、前世で何をやっていたかも、全部!!」


私の声が、城内にこだまする。

驚いたように目を見開く二人の視線が、痛いほど突き刺さる。

ぶっちゃけ、私も驚いている。

まさか、こんなことで、前世をはっきりと思い出すとは……


「前世?? ってことは、リンネちゃんがこの世界に来る、前の名前ってこと?」


「うん!! そう!! 桟縁かけはし えん、それが私の名前です!!」


「桟、縁……いい名前だな」


でへへぇ、それほどでもぉ〜


「ねえリンネちゃん、よかったら色々聞かせてくれない? もっと知りたいわ、リンネちゃんがどんな子だったのか」


おっ? 聞いちゃう?? 聞いちゃう??

よかろう!! ならば、聞かせてしんぜよう!!

私、梯縁の武勇伝を!!!


「私の家、とにっっかく明るかったの。毎日とにかく笑いがたえないようなお家でね。そういえば、私が百合が好きって言った時も、否定も何もしなかったなぁ」


「あら、好きってことを隠さなかったの?」


「好きなものを好きという! それが私のポリシーなんで! 好きなものに、理由なんていらないでしょ?」


「……お前らしいな」


思い出せば思い出すほど、私という人間はとにかく周りに恵まれていたと思う。

普通は百合が好き、なんていえるはずもないし、隠すのが普通だ。

それでも言おうと思えたのは、親や友人の優しさもあってのこと。

その結果、手に負えないくらい百合が好きになってしまったんだけど……まあ、結果オーライだよね!


「ちょーど中学生の頃かな? 友達がすごく悩んでた顔してたんだよ。聞いてみたら、恋愛のことだったんだよね。しかも相手は女の子! そっから、かな? 割と他人の相談事うけることが増えたんだよね」


『縁ってすごいね。縁と話してると、話したくないこともぽろっと出ちゃうの。なんでだろ』


些細なことがきっかけで自分の才能が分かるなんて、よくあると思う。

悩みを察知して、それを解決しようと動いて。

うまくいくことが続いた時は、恋のキューピット、なんていわれたこともあったっけ。


だがそれで調子に乗って、ということは比較的しないのが私のいいところ。

私はとにかく勉強した!

人の心理とか、恋の云々とか、とにかくありとあらゆること全部!!


恋愛で、人を笑顔にしたい。

せっかくの恋愛で、悲しい顔をしてほしくない。

かつて、父がいっていた。

縁という名前は、人と人を繋いでいけるような、そんな人になって欲しいって。

その名に恥じないようにするため、誰かのためになれるような仕事ができたらいいなって、頑張ったのに……

それなのに……


「職探しに苦節すること三十年!! よぉぉぉやく定職につけたと思ったのに!! トラックに轢かれて無業の死を遂げるなんて! 嗚呼なんて残酷なのかしら!!」


「なるほど。その衝突のショックで、記憶の一部が欠落したわけか」


「リンネちゃんは、きっとお母さんやお友達に、たくさん大切にされてきたのね……あなたのお母さんには感謝しなくっちゃ。縁ちゃんを産んでくれて、ありがとうって」


おお……なんて嬉しいセリフ……

おかん達が聞いてたら、きっとハイテンションになるくらい喜ぶよ……


「桟縁。前世を思い出してもなお、お前はリンネとして、これからもこの世界で生きてくれるか?」


ふいに名前を呼ばれ、思わずびっくりする。

心なしか、ディアボロスが遠慮がちにみえた。

思い出したことで、元いた世界に戻りたいって言い出すと思ったのだろうか。

そりゃあまあ、前のお母さん達に会いたいって気持ちは、少なからず生まれたけど。

けど今は、そんなのどうだっていい。


「何言ってんのママ。私はリンネ。魔王と女王の間に生まれた、リンネだよ? それに、四天王の百合全然みれてないもん。あの四人が幸せになるまで、絶対諦めないんだからね!?」


だってあの四天王、揃いも揃って不器用なんだもん!!

よーーやくフラグがたったのに、何もしないわけないじゃない!!

前世の記憶も戻ったことで、より進展に近づけるかもしれないし!


私は縁、百合をこよなく愛する者!

人と人を繋ぐ存在に! ……なる予定だったんだから、それくらい……


「面白そうな話ね。うちらも、混ぜてもらえないかしら」


おっ、いいよいいよ! 武勇伝ならいくらでも……

……ん? 今うちら、も? って言わなかった?

両親どちらも、自分のことをうち、っていわないはず。

というかこの声……まさか……


「……ここにいらっしゃったんですね」


「す、すみません。盗み聞き、するつもりはなかったんですけど……」


「どういうことか説明あるわよね? リンネ」


見慣れた顔が、怒ったように向く。

なんともあろうことか、そこにいたのは四天王四人だったー


(つづく!!)

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