#25.“Be yourself”

魔王、ディアボロス。

人間と共存する世界、ウヨシンテを作った本人でもある、魔族の王。

強さや魔力、何をとってもそれはそれで頼りにされていて、魔族で彼女を慕わない人はいないんだとか。

女性なのに、話し方や行動がかっこよくて、まさに理想の王!って感じの人だけど……


そんな人が、いかにも悩んでるって顔してるんやで?

こちらとしては、てっきり国の財政とか、絶対難しいことを相談される覚悟で言ったのに……


顔曇らせるほど悩んでることが、避けられてるかもって? しかも、巳胡さんに??

は?? 可愛いんだが???


「………何か言いたげな顔をしているな。おおかた、そんなことで、とでも思ってるのだろう」


「え? そんなことないよ?? むしろ魔王ともあろう方から、そんな発言がでることにびっくりしてます」


「相変わらず変わった奴だな」


「いや、だって、お母さんとママってすごいラブラブだよね?? 避けられることに、心当たりはないの?」


「それがわかったら苦労しない」


まあ、そうだわな。うん、聞いた私が悪かった。

両親と過ごしてきた時間は、決して長くはない。

それでも二人の仲がいいことは、見ているだけでわかる。

四天王のみんなも、それはそれはうんざりしているほどに見えたし……


「やはり、悪魔族である我が人間の娘と契りを交わすのは……悪いこと、だったのだろうか……」


なぬ??? 


「例え共に暮らしていたとしても、魔族と人間が結ばれるのは異例。当時は非礼や不満が飛んだものだ……それでもここまでこれたのは、あいつの人徳があってこそ……彼女に嫌われたら、我は……」


そういう魔王はどこか弱々しく、全然らしさすら感じられない。

玉座に頭を抱える彼女は、魔王というよりは恋に悩む普通の女の子に見える。

そんな彼女に、私は思わずー


「ママ。好きになる人に、性別も種族も、何も関係ないよ」


と、思いの丈をぶつけてみせた。


「ママは、お母さんを好きになったんでしょ? そのことが悪いなんてことはない。誰がなんと言おうと、ママ自身がその思いを否定しちゃダメ。ちゃんと、話そう? お母さんなら、きっとわかってくれるよ」


「……お前は、否定しないんだな……」


「もちろん!! なんだったら私、二人の仲介しても、いいよ!?


あれ……?

気のせいかな、私前にもこんなこと、言ってたような……


「……あらあら、見事にリンネちゃんに一本取られちゃったわ」


そんな時、だった。

巳胡さんが、ドアを開けてやってくる。


「まさか、ディアちゃんがそんな風に思っていたなんて。お母さん、ちょっとびっくり。


「巳胡……なぜ……」


「あなたは魔族に選ばれた、この国の王様でしょ? かっこいいディアちゃんじゃなきゃ、お母さん嫌だわ」


そういう彼女の手には、お盆が抱えられていた。

その上には美味しそうなケーキが飾られたティーセットがのっていて……


「そんなディアちゃんに、お母さんからプレゼントで〜すっとと!!」


運がいいのか、悪いのか。

案の定、巳胡さんはバランスを崩してしまう。

あ、やばい、落ちるー!!

思わず目を瞑ったが、一向に音はせず……


「大丈夫か、巳胡」


その光景に思わず声が出そうになる。

なんともあろうことか、魔王は巳胡さんとティーカップ、どちらも華麗に受け止めていたのだ!!

しかも! カップ一つ落とさず!! 


「す、すごい!! ママ、かっこいい!!」


「……そんな目で見るな」


「あらあら、照れちゃって」


「……このティーセットは、我があげたものか?」


「そ。ディアちゃん、もうすぐ誕生日でしょ? お返しに何か作ろうかなぁって、ユウナギちゃんに相談したの。そしたら、四天王のみんなも手伝ってくれたのよ? バレないように内緒にしてたんだけど、それがダメだったわね」


はぁぁ、なるほどそゆことか!!

って、今四天王が手伝ってくれたっていわんかった?? ユウナギだけじゃなくて??

それって、私だけ除け者やん!! やりおったな、あの四人!!


「ありがとうね、リンネちゃん。ディアちゃんに、寄り添ってくれて」


一人勝手にメラメラ怒りを燃やしている中、巳胡さんがにこやかに笑う。

感謝されるとは思ってなかった私は、思いっきり首を振った。


「え?? いやいや、大したことしてないよ!」


「あのディアちゃんが、リンネちゃんに本音を話すんですもの。お母さんにすら、そんな話なんてしてくれないのに、妬いちゃうわ」


「当の本人に相談はしないと思うが?」


「んもぉ、そうなんだけどぉ〜」


「……目……リンネの目をみていたら、こいつになら話してもいい……そう思っただけだ」


魔王が、物思いにふけったような口調で巳胡さんに話す。

あー、この感じなんか懐かしいなぁ。

昔もよく言われたよ、私の目を見てると、話したくないことまで話しちゃうって。

そのせいか、やたら恋愛沙汰の悩みが多くて……


『お願い! 縁に、私の恋を叶えて欲しいの!!』


そうそう、こんな感じで……

……あれ? 

まてまて。今なんていった??

なんか、とんでもねぇことが脳裏に蘇ったような……?


『縁はあれだね、うちらの恋のキューピットだね!』


「ああああああああああ!!!!」


私の大声が、その場でこだまする。

ぎょっとしたように、二人の視線が向くのがわかる。


「そうだよ!! 私、そうだったんだよ!! だとしたらやってること変わらなさすぎやん!!?」


「……リンネ? 一体、何を……」


「思い出したの!! 私の本当の名前も、前世で何をやっていたかも、全部!!」


リンネ、それは私のここでの名前。

だがそれは、私であって私ではない。

桟 かけはし えん。それが、私の本名だ!!!!!


(つづく

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