#19.我こそは! 魔王のむす……え?


「あなたが魔王様の娘さんねぇ〜見ない間に大きくなってまぁ」


「あん時の子供がこんなになるとはなぁ! 長生きしてみるもんだ!」


「なんとも可愛らしいお顔……きっと、魔王様に似て美人になりますわ」


「ねえねえリンネ様、一緒に写真撮ってくださいよ!」


「あー、ずるい! わたしも!!」


様々な種族の人達が、私の元にやってくる。

老若男女問わず、誰もが私に挨拶をとばかりに、笑顔を向けてくる人たちばかり。


「そ、そんなに焦らなくてもリンネはにげないよぉ〜順番順番、何事も平和にねぇ」


そう言いながらも、嬉しさで自然と頬が緩んでしまう。

私ーリンネは、ただいま絶賛お披露目中でございます。


建国記念式典が始まったと同時に、巳胡さんが紹介したことにより私は魔王の娘として認知された。

城の中にはすでに、魔王や私に挨拶にきた人たちで溢れている。

右には竜族、左には巨人族と、見渡す限りの多種多様な種族がいる。

これぞ、まさに異世界!!

しかも私に話しかけてくる人々は皆、やれ可愛いだの美しいだのと、とにかく私を褒めてくれて……


いやぁ、これだよこれ!!

魔王の娘ってのはこうでなきゃ!!

アサカがあーんなこというもんだから、正直怖いなぁなんて思ったけど、なんだかんだで大丈夫そう!


「すっかり人気者だな、お嬢」


「へへへ〜いいでしょぉ〜」


「こんなにたくさんの方々が来るとは、正直予想外でした」


「言っとくけど、この人だかりはディアボロスの信頼あってこそだから。調子に乗るんじゃないわよ!」


へへっ、いいもーんだ。チヤホヤされれば、それでいいんだもーん。


「あれ、そういえばサヨは? もしかして、まだおうち?」


「サヨ様なら、もう向かわれてますよ。そろそろ始まるのではないでしょうか」


「はじまる???」


「そういや、お嬢には話してなかったよな。あそこに、特設ステージがあるだろ? そこで住民が出し物をしてて……」


ユウナギにいわれ、バルコニーにでてみる。

そこからは街の中に簡易的に用意された、ステージをみることができた。

たくさんのギャラリーが、ステージ上に注目している。

そんな中、ステージに立ったのはアラビアンな衣装を見に纏ったサヨでー


「今宵の歌とダンスを、魔王と女王陛下に」


レースやフリルが、ハラハラ舞う。

しなやかな踊り、柔らかな舞が奏でられる音と共に繰り広げられる。

その身のこなしは軽く、まるで世界に引き込まれるかのように見入ってしまう。

そして、彼女の口から、切ないような、どこか綺麗な歌を口ずさむー……


「人魚族に伝わる歌と舞でさ。平和を祈るために、式典では毎年やってるんだよ」


ほええええ……

やっば、語彙力失うくらいやっば。

サヨ、綺麗だなぁ。さすが人魚というべきか……


「……本当、舞台上じゃ別人よね。あいつ」


それがマヒルの声だと気づくのに、時間はいらなかった。

彼女の目は、ずっと彼女に向いていた。

その顔はドワーフに好かれていたマヒルを見ていた、サヨと同じ目をしているように見えてー

彼女が、一礼する。

舞台が終わってもなお、サヨを称えるかのような、割れんばかりの拍手がなり続いていたー




「まったく、毎年目玉にされるのも困ったものだわ。見せ物じゃないっていうのに」


水が入ったバケツに尾鰭をつけながら、サヨがいう。

あんなステージをかましたくせに、彼女は至っていつも通りだ。

こんなに人が多い中でも、人魚であることを隠そうともしない。

結果、彼女の正体も相まって、結構注目の的になってる気もするけど……


「お疲れ様でした、サヨ様。タオルはご入用ですか?」


「ええ、お願いするわ。お腹すいたんだけど、あなたのケーキ余ってないの?」


「ああ、ちょっと待っててくれ。とってくるよ」


ユウナギが、ケーキを取りに行く。

今日のMVP同然のサヨを、マヒルとアサカが囲む。


パーティーも終盤。すっかりみんなお片付けモードだ。

今年も楽しかったね、来年も迎えられたらいいね。

そう笑い合っている場は、なんとも平和で……転生してよかったって、思わせてくれてー


「ひひーーーーん!!」


そんな時、だった。

馬のような鳴き声が響いたのは。

何事かとバルコニーに出ると、そこにはなんと馬が飛んでいて……


「すまない、もうパーティーは終わってしまったかな?」


絹のような白い体、背中に生えた翼をはばたかせた馬ーいや、ペガサスが空に舞う。

その上に乗っていた人が、地に降り立つ。


すらりと伸びた手足、整えられた顔つき。

一つに縛られた、とにっっかく綺麗な緑色の髪がなびく。

そしてなんといっても、煌びやかなタキシード衣装……


「遅れてしまって申し訳ない。君が、魔王の娘だね?」


い、イケメンきたぁぁぁぁぁぁ!?

いや、まて。喉仏ない、まつ毛ある! 女性じゃん!

え、この美形で男じゃないって何事!?

めちゃくちゃかっこいいやん! 

宝塚とか、ミュージカルとかの男子役そのものじゃん! 

乙女ゲームの攻略対象だったら、絶対一番人気だね! 間違いない!


「君たちが四天王だね? 一人足りない気がするが……」


「今、席を外しております。失礼ですが、どちら様ですか?」


「あぁ、すまない。挨拶がまだだったね。僕はスキバ・ユサ。エルフ族を代表して、魔王の娘に挨拶にまいりました」


ほえぇ……この人、エルフ族なんだ。

よくみたら、耳が長い気がする。ちゃんとしたエルフを見るのは、初めてだ。異世界万歳!


「四天王は美しい人ばかりだと聞いていたが……会えて嬉しいよ。是非とも僕のお姫様になってくれないかい?」


「はぁ? 何言ってんのあんた。もう式は終わりよ。挨拶なら別でやりなさい!」


「嗚呼、そう興奮しないでおくれ。美しい姫に、そんな顔は似合わない……子猫ちゃんには笑顔でいてほしいんだ」


「……エルフ族なら、村が滅んだ際、他の国に移動したと聞いております。族長も昔に亡くなったと聞きましたが……」


「僕のことをしらない子猫ちゃんがいたとは……僕もまだまだだね。出会えた記念に、共に食事でもどうだい?」


わぁ、すっごぉい。これでもかとばかりの王子セリフ連発……

城内では彼女の存在に、あの人誰? などとざわめく声が聞こえてくる。

まあこんだけかっこよくて、紳士的なセリフ言われたら、そりゃ騒ぎたくなるよなぁ。

ただ……その、ね。なんかちょっとぉ……言いにくいんだけど……


「は? 何こいつ、きっっっも」


「……すみません、先ほどから彼女は何を言ってるのでしょうか」


「残念なイケメンとは、このことを言うのね。この人、うち苦手だわ」


ちょっとそこ! 正直に言わない!!

確かに私も、残念感あるなぁとか思ったけど! 思っただけだから! 私、言ってないから!


「え、えっと、ユサさんだね。はじめまして! 私、リンネ! 娘です!」


「そうか、君が……実に可愛い子猫ちゃんだ。女王様に似て、とても儚い……」


そういうと、彼女は私の頬を触る。

えっと反応する間もなく、彼女の瞳が赤く発光した気がして……


「さあ、君も落ちてみないかい? 僕という沼に」


きゅんっ………❤︎


……はっ! いや、きゅんって何だ、きゅんって!

確かにかっこいいよ!? かっこいいけどさ!? ちょっと単純すぎやしないかね、私!! 

それに私は、百合を見るのが好きなだけで、自分自身に百合要素は……


「きゃーーー! ユサ様よ!!」


「ユサ様……素敵……」


「かっこよすぎぃ! 結婚してぇぇ!」


そんな時、だった。周りの人に、異変が起きたのは。

皆が皆、彼女を崇め奉るかのように叫びだす。

しかもそれは、女性だけでなく男性も。


何かが、おかしい。

そう思った矢先、サヨの使っていたバケツが、ガタンと音を立てて倒れてー


「リン! そいつの目をみちゃだめ! 彼女はエルフ族なんかじゃない……人を魅了する悪魔……サキュバスよ!!」


サヨの声が、する。

ニヤリと笑う彼女ースキバ・ユサの体からは、悪魔の尻尾がはえていたー


(つづく!!)

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