#17.不仲二人組を部屋に閉じ込めてみた
『ちょっとなによこれ!!! どうなってんのよ!!!』
内側から、どんどん叩く音が聞こえてくる。
その音や声だけで、怒っていることがかなり伝わってくる。
ご機嫌よう諸君。私の名はリンネ、魔王の娘に転生した、百合好き一般女性である。
つい最近、母である巳胡さんから頼まれ、四天王を幸せにしよう作戦を密かに遂行中だ。
それまでもただ百合がみたくて、地道に……地道に行動してきた。
その結果、ないに等しいフラグをどうにかできないかと式典の資材調達へ出かけた二人に、無理やりついてきたのだが……
『壁に、変なの書いてるわね……仲良くならないとでられない部屋……?』
サヨとマヒル。唯一フラグが立っていた二人を、魔法を使って密室に閉じ込めちゃいました。てへぺろ。
いや我ながらよう思いついたと思わん!? よくやった自分!!
え? このネタわかんない? 二次創作では結構見るネタやつなんだけどぉ……あ、調べる時は気をつけてね! 際どいのとか出てきちゃうから!
リンネちゃんとのお約束!
「それにしてもよく魔法が使えたな……私、なんも練習してないのに……」
一人でぶつぶつ言いながら、おもむろに本のページをめくりまくる。
この前の促進魔法といい、やはり私には才能があるようだ。
これなら、中の様子を見ることができる魔法とかないかな〜なんて探していると、一枚のメモが目につく。
そこには、なんとも可愛らしい丸文字で……
『やりすぎには注意してね♪ お母さん、陰ながら応援してるわ(*´∀`*)尸"』
とかいてあり、そのページには、違う場所で起こってることが見える魔法がのっていた。
お、おっかぁぁぁぁぁ!!!
なにこの強すぎる味方……ありがたすぎない!?
実のお母さんじゃないのに、私がやろうとすることすらお見通しなんて……強い!! 強すぎる!!
とはいえ、さすがに道中でやるのは迷惑だと思ったので、その辺にあった座れる石に腰掛けてみる。
唱えた魔法で出てきたのは、まるで携帯のような小型テレビで、映像には彼女―マヒルの姿があった。
なんと彼女は、ドアを意地でも開けようと、かたぁい拳で叩いていて……
『ぜんっぜんダメだわ! びくともしない!』
『本当脳筋ね。やるだけ無駄だってわからないの?』
『はぁ!!? どういう意味!?」
『わずかだけど、魔力を感じられる。おとなしく、解けるのを待つしかないわ』
『そんなの……そんなの……納得いくかぁ!!』
咆哮のような大きな声が、部屋中に響く。
素手でダメだとわかったからなのか、背中にさげた斧を両手に取る。
『いい加減! 出しなさぁぁぁぁい!」
その斧を大きく振りかぶると、ドアに向かって攻撃をかます。
えぇ、そんなん、ありですかぁ??
だってさぁ、仲良くすれば出れるんだよ?? 武器使うのって反則じゃない!?
ど、どうしよう! これじゃあもう破られるのも時間の問題だよ!
『あなた、うちの話聞いてた? このドアには魔法がかかっているの。頭ごなしにぶつけるだけじゃ、意味がないわよ』
『分かってんのよ、そんなことくらい!』
『じゃあどうしておとなしく待てないの? これだから脳筋は……』
『だってもうすぐ、魔力がつきちゃうじゃない!!』
サヨの目が、驚いたように見開く。
それでも彼女はドアへの攻撃を、やめなかった。
『ディアボロスに呼ばれた時から加算したら、そろそろ切れてもいい頃合いはず……! ここに来るのが遅かったのだって、もう限界が近いってことでしょう!? このまま放置したら、生死にかかわるかもしれないのよ!?』
『……そんなことのために、わざわざ……?』
『そんなことって何よ! 死んだら元も子もないじゃない! あんたはいつだってそう。人魚が異質だからって、人間のふりばっかりして! 少しは考えなさいよ! 自分が死んだら、悲しむ奴がいるってこと!』
マヒルが話していることは、私には詳しくわからない。
それでもサヨは、ずっと驚いたような顔をしていた。
まるで、どうして知っているのとばかりに。
現に、私もびっくりしている。
いつもケンカ腰だったのはマヒルの方だった。そのマヒルが、実は自分を心配していたなんて知ったらー
『……あなたも……あなたも、悲しんだりするの?』
『はぁ!? 何言ってんの!? 当たり前じゃない!』
サヨの顔が、一瞬だけ赤く高揚する。
すると我に返ったように、マヒルは勢いよく振り返り……
『い、言っとくけど同じ四天王の仲間だからなんだからね! 別に、戦力が減るとかそういう意味で言ってるだけで! あんたがいなくなったって、どうってことないんだから!! 勘違いすんじゃないわよ!?』
『……相変わらず馬鹿ね。自分で自分の墓穴を掘るなんて』
『うっさい!!!』
『気遣いはありがたいけど、闇雲に攻撃したって傷がつくだけ……あなたも人に言えないじゃない、他人だけじゃなく、自分にも気を使えって』
そういうと、サヨは彼女の手を取って見せる。
さっきまで攻撃していただけはあって、彼女の手は赤く、豆までできていて……
『……汚い手。傷だらけじゃない』
『い、今できたやつじゃないわ! それより離しなさいよ! あと少しで、このドアを……!』
『その気持ちだけで、十分よ。……………ありがと、マヒル』
初めて彼女がマヒルと呼んだ。
私が気付いた時にはすでに、マヒルの顔はリンゴのように真っ赤になっていて、パクパク口を動かしていてー
『う、あ、い、いい気になってんじゃないわよ、この澄まし魚ああああああああ!』
恥ずかしさゆえの勢いなのか、彼女の今までの攻撃の成果なのか。
彼女が放った斧の一撃が、部屋のドアを吹き飛ばしてしまう。
外で見ていた私なんて気にも留めずに、彼女はどこかへ行ってしまった。
ドワーフたちが、引き留めるのも聞かずに。
これは……ひょっとして、ひょっとすると……
「回収、できちゃった……」
この日、ようやく私は百合のフラグを見事に立てることができたのです!!
(つづく!!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます