#16.すべては彼女の赴くままに……

「最っ悪……なんでよりによって、こいつと行かなきゃなんないのよ……!」


これでもかというほど、両目が吊り上がっている。

隣で歩きながら、私は彼女の怒りをみないふりすることしかできなかった。


ウヨシンテの建国記念日。

その準備のため、私達は現在食材の調達に城下町にある商店街にきている。

そんな重要な役目に、魔王と女王が頼んだのは、まさかのマヒルとサヨだ。

なぜこの二人なのか、なんて考えるまでもない。


「ちょっと! おっそい!! もうちょっと早く歩いてよ!」


「相変わらずうるさい人ね。うち人魚なんだから、歩くの遅いのよ。文句があるなら先に行っといて」


この二人には、何を隠そう百合フラグがたっているのだ!!

……え? そうにはみえない??

わかる!! 私もそう思う!! だが事実だ!

まあいうて? 手を切ったサヨの指を、消毒のためにマヒルが舐めただけなんですけどぉ。


最初は確かに四天王全員が仲悪かったけど、割とマシになった今でも特にこの二人は、終始険悪。

私が知るところじゃ、お互いに名前すら呼んでない気がする。

巳胡さんがアイコンタクトしてたあたり、何かあるんじゃないかとは思うんだけどなぁ。


「大将、いるー? ディアボロスが頼んでたものを取りにきたんだけど」


「おおっ、マヒルちゃ……じゃなかった、マヒル様! ご足労ありがとうございます! 今お持ちしますので、少々お待ちを」


そんなことを思っている中、ようやく辿り着いた場所は小さなドワーフが営んでいる店だった。

この商店街は主に、ドワーフ達が店を切り盛りしているらしい。

けれど中には経営してる人間もいたり、種族関係なく買い物を楽しんでいる光景が目に入る。

ああ……やっぱいいね、平和って感じで!!


「おや、マヒルちゃんじゃないかい?」


そんな時、だった。

マヒルに、通りすがりのおばあさんドワーフが話しかけてきたのは。

ま、まずい! マヒルのことだ、きっと四天王相手に話しかけるな! とか言うんじゃ……


「珍しいねぇ、今日は買い物かい?」


「まあ、そんなとこよ」


「そうかいそうかい。せっかく来たんだし、ゆっくり見ておいき。マヒルちゃんによさそうな武器もあるんだよぉ」


あ、あれ……? そんなことない……?

赤ん坊時代、ユウナギといた時はあまり話しかけられなかったから、てっきり怖がられたり、一目置かれていると思ってた。

意外にも話しかけてくるのは、おばあさん故なのか? というかマヒルも、全然普通やし……

そんな私の予想なんてつゆしらず、彼女は急にああっ! と大きな声を出した。


「ってちょっと! また重たいの運んでるじゃない!! それで腰やったらどうすんのよ! ったく仕方ないわね。店主、ちょっと外すわよ! あ、物はこのガキに持たせればいいから!」


え? ちょ、私の許可は??

私のことなんててんで無視、とばかりに彼女は広い通りの方へ出る。

何をしに行くのかと覗いてみると、そこにはとんでもない光景が!!


「ごめんねぇ、マヒルちゃん。いつも手伝わせちゃって」


「いいのよ、そんなこと! で、あっちの部屋に運べばいいの?」


「あ、マヒル姉じゃん!」


「おぉ、マジじゃん! マヒルぅ、ちゃんばらごっこしようぜ!」


「ちょっ、こっちこないで! わかった、わかったから!!」


なんとなんとそこには、たくさんのドワーフに囲まれてるマヒルがいるではあぁりませんか!

信じられます? あの怒ってばっかりで、文句しか言わないマヒルが!


「やれやれ、みんなかわんねーなー。四天王だってーのに」


「おじさん、マヒルのこと知ってるの?」


「ああ、うちの一族は鬼族と親交があるんだよ。四天王になる前からの付き合いだから、うちらにとっちゃ孫みたいなもんさ。特にあの子は俺たちみたいなおじさんだけじゃなく、年寄りや子供にも優しくしてくれてね。四天王になったって時は、みんなでお祝いしたよ」


な、なんて推しポイント高めなことを……

これがギャップか!? ギャップ萌えってやつなのか!?

王道ツンデレにプラス優しい、は高得点よ奥さん!!


「用事、終わった? って、リンだけじゃない」


ようやく辿り着いたのか、サヨがやってくる。

私があそこだよ、と指をさして教えてあげると……


「………普段からあの顔だったら、少しはマシなのに。勿体無い人ね」


と、誰にいうわけでもなく呟いてみせる。

彼女の瞳は、まっすぐマヒルをむいていた。

この顔、この目つき……ひょっとして!!?


「はい、おまたせ。重たいから気をつけてね。あと、これはお前さんにプレゼントだそうだよ」


「え、あ、ありがとう……って、お、おじさん、これ……!」


「魔王様のメモに書いてあったよ。魔法使いになりたいのだろう?」


にかっと、おじさんが笑う。

託された荷物の中、極めて重たいものが私の両手に乗る。

『魔法全書 新刷』。

それは、アサカが持っていたものよりはるかにたくさん記された、下級から上級まで魔法が乗っている本で……


「あ、あんたやっときたのね! 悪いけど、この荷物一人じゃ持ちきれないから、手伝いなさい!」


そんな時、だった。たくさんの荷物を抱えながら、マヒルが声をかけてくる。

それを呆れたようにサヨがため息まじりで、皮肉めいた言葉をかけた。


「持ちきれないって、考えなしに引き受ける貴方が悪いんじゃない。ここに来た目的、忘れてない?」 


「うっさいわね!!! いいからさっさと持ちなさいよ、バカ!」


「はいはい、どこに運べばいいの?」


仕方ない、とばかりにサヨが彼女の荷物を半分持つ。

相変わらず仲の悪い二人の向かう先には、運ぶべき一つの部屋があるのがみえる。

不仲……二人だけ……部屋……


「やってみる価値あり……ってやつか……」


誰に言うわけでもなく、私は一人呟く。

持たされた荷物をそっと置き、本をパラパラめくり出す。

探していたものがバッチリのっていることを確認し、

その辺に落ちていた木の枝をおもむろに掴んでみる。

正直できるかどうかはわからない。

ただ、やらなきゃと思った。

フラグがたたないんだったら、こっちからたてればいいのだよ!!


「ロック、インルーム!! かぁらぁのぉぉ、バニィィッシュ!!」


二人に聞こえるか否かくらいの声量で、書いてある呪文を唱えてみる。

途端、ガチャリと音がした。


……え? ガチャリ?? 

まさか……まさかだったりする?

慌てて私は、彼女たちが入った部屋へ、耳を澄ましてみると……


「はい、これで全部?」 


「そうみたいね。さ、ガキを連れて帰りましょ……ん?」


「どうかしたの?」


「……この部屋、開かないんだけど……」


「……は?」


魔王の娘であり、魔法使い、リンネ。

促進魔法の次に使った魔法は、彼女達を部屋に閉じ込めるものだったー


(つづく!!)

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