#15.百合展開の前振りをしよう。
なんだか、緊張する。
意識してないと、自然に頬が緩んでしまうのがわかる。
そんな自分に鞭を叩くように、自分の頬をパチンとたたく。
……よし、平常心を保て。
私はリンネ……何も知らない、純真無垢な魔王の娘……
「待たせたな、四人とも。入ってよいぞ」
魔王ディアボロスの声が、城間に響く。
ドアが開かれ、四人の姿が見えるとすぐ私は、
「おまたせ! みんな!」
と、元気よくリンネを演じてみせた。
二人と話して、どれくらい時間が経ったのだろう、気がつけばすっかり夕方になっていた。
待たせていたとはいえ、てっきり帰っちゃうんじゃないかと思ったけど、魔王の命令ともあれそんなことはしないようだ。
やっぱり忠誠心は少なからずある、ってことなのかな? 素直じゃない奴めぇ〜
「待たせたな、じゃないわよ! 待ちくたびれたわよ! このあたしを待たせるとは、いい度胸ね!?」
「ご、ごめんなさい。ママと会えたのが嬉しくって話し込んじゃった」
「どーでもいいけど、早く本題に入ってくれない? うち、飽きたわ」
うん、そんなことないね。
魔王に忠誠誓ってたら、こんな早々に文句言わんわ。
「で? 一体何をどう話したらこんなに長くなるのかしら? 説明してもらおうじゃない」
若干半ギレ状態なマヒルの言葉に、思わずぎくりと肩を揺らしてしまう。
戸惑いながらも、私は必死に目を逸らし、
「えー、ただの世間話だよーひゅーひゅー」
と全く鳴らない口笛をふいた。
い、言えない……言えるはずもない……
転生&オタクバレした挙句、みんなの百合をみたいがために条件を飲んだなんて……
しかも相手が、リンネを産んだ実の両親なんだもんなぁ。いやはやこんなことがあっていいものか否か……
四天王には、好きな人がいる。
もう一人の母からの情報のせいで、頬が緩んで仕方ない。
ろくにフラグも立っていない昨今、それを確定的にできる何かを探さねば……!
「もぉマヒルちゃん? そんなにかっかしないの。お母さんずっと寝てたから、リンネちゃんとまともに会うことすらなかったのよ? 親子水入らずで積もる話くらいしてもいいでしょぉ?」
彼女の隣から、声がする。
薄暗い玉座に腰掛けながら私たちを見据えていたのは、いうまでもなく巳胡さんだ。
彼女を見た瞬間、四人中二人が「げっ」と顔を顰めさせる。
「あっ、巳胡様。お身体の具合、よくなったんですね」
「お目にかかれて光栄です、女王陛下」
「あら、アサカちゃんにユウナギちゃん。嬉しい言葉ありがとぉ〜お母さん、嬉しいわぁ」
「……あんた、なんでまだ生きてんの? てっきり死んだと思ってたわ」
「随分長いと思ったら、あなたがいるとわかって納得したわ。無駄な長話のおかげね」
「もぉ、どうして二人はそんなことしか言えないのぉ? せっかく可愛いのが台無しよ?」
巳胡さんが不満そうにぶつくさいうのも、二人は気にしない。
この二人って魔王だけじゃなく、女王にもこんな感じなんだなぁ。
まあ性格柄仕方ないというか、わからなくもないというか……
「待たせてしまって申し訳ない。お前達には、頼みたいことがあるのだ」
「頼みたいこと、ですか?」
「もうすぐ建国記念日だろう? そこで、皆にリンネのお披露目を行おうと思ってるのだ」
ん?? オヒロメ?? なあにそれ。
「……簡単に言えば、お前が我の娘だと紹介する式典みたいなものだ」
え?? それってみんなの前でなんかする系なの?
ちょっとまってぇ、ママ。キイテナイヨォ?
「本来はもう少し先と思っていたのだが……魔法とはいえ、こんなに立派に成長したのだ。少し早めても、問題はないであろう?」
うん、そうなんだけど。
こうみえて私、転生してまだそんな日が経ってないねん。
ちょっと気が早い気がすると言うか……なんというか……
「そういうわけだから、みんなにはその式典の準備とか、仕事をしてもらいたいのっ♪」
魔王の言葉を受け取る形で、彼女がにこにこ笑みを浮かべる。
なるほど、だから四天王に残ってもらっていたのか。
こういうことは、やっぱり四天王の仕事なんだろうなぁ。はてさて誰が何をするんだか。
「四人それぞれの仕事を今から割り当てる。式典の料理はユウナギ、お前が作れ」
「えっ、オレが……ですか?」
「今回の式典には隣国のものも呼んである。身だしなみ等のリンネの世話はアサカ、お前に頼もう」
「かしこまりました。主様と陛下の命令とあらば、このアサカ、命に変えても遂行します」
「そしてサヨ、お前は舞台のレクレーションを、式典中の主な警護はマヒルに任せよう」
ん? レクレーション?? なんだそりゃ。
私が首をかしげてる横で、サヨはふうんとつぶやくだけ。
料理、世話、護衛……四天王に任命した本人とだけあって、どれも適役だなぁ。
……ってあり? 私の役目は??
「ああ、そうそう。マヒルちゃんとサヨちゃんには、資材の調達を頼まれてはくれない? 物は頼んであるんだけど、手が足りなくてぇ」
「はぁ? そんな雑用をあたしに押し付けないでくれる? ていうか、なんでこいつといかなきゃなんないのよ!!」
「同感ね。商店街くらい、うち一人で十分なんだけど」
二人がやんやいっても、魔王は聞こえませんとばかりに目をつむる。
相変わらずだなぁ、ほんとこの二人は仲が……
……ん? 今、なんか巳胡さんの口が動いた気がする。
なになに……? 一緒に行けば、だとう?
「はい!! 私、一緒に行きたいです!!」
言いたいことがわかった私は間髪入れず、思わず手を上げる。
そんな私に、案の定四天王の驚いた声が重なって……
「あんた正気? これは遊びじゃないの! ガキはガキらしく、おとなしくしてなさい!」
「私もお手伝いしたいもん!」
「それならユウナギかアサカといなさいよ!」
「邪魔しないならいいんじゃない? あなたと二人で行くよりよっぽどましだわ」
「なんですって!?」
「二人とも、その辺に……お嬢、本当に行くのか?」
ユウナギが心配そうに聞いてくる。
心配してくれるだけ、すごくすごくありがたい。
だがしかぁし! 私は百合をこよなく愛するもの!
一人ずつより、二人一組という可能性に満ちた方を見たいに決まっている!
それに何より、今フラグはこの二人に立ってるのだから!!
「構わん。好きにさせてやれ」
「ま、マスターがそういうのなら……」
「リンネ。くれぐれも、仕事の邪魔はしないようにするんだぞ」
横で女王がニコニコしているのに、気づいているのかいないのか。
かくして私は、あくどすぎる狙いのため、二人とともにお出かけすることになったのです!!
(つづく!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます