第2章 落とそう、百合フラグ

#14.最強にして信頼なる共犯者



豪華なシャンデリアが、天井できらめいている。

どこをみてもキラキラしていて、上を見上げているだけで目が痛くなるくらい。


「失礼します。マスター、お嬢を連れてきました」


隣にいたユウナギが、ノックと同時に大きな大きなドアを開ける。

長く大きなカーペットの先にある、豪華絢爛な玉座に腰掛けていたのはー


「見ない間にでかくなったな、リンネ」


肘置きに腕を置いた彼女ー魔王が、鋭い視線を向ける。

その雰囲気がまるで怒っていますよと全力で伝えているかのように見えた私は、おもわずユウナギの後ろに隠れながら、


「は、初めまして……」


といいざるをえなかった。

どうも皆さん、こんにちは、リンネです。

現在母親である魔王、ディアボロスと絶賛面会中でございます。


なぜこうなったのか、ことの発端は昨日に遡る。

四天王四人と仲良くなり、あの日からみんなでご飯を食べることが多くなった。

ウキウキルンルン、まさに絶好調! ……だったのも束の間。私達のもとに、


「主様より伝達です。今から城にきてほしい、と」


と、アサカあてに通信が入ったのだ。

魔王が知っているのは、赤ん坊だった私。

10歳の体になって数日たったというのに、すっかりそのことを言うことを忘れていた私達はどうするべきかめちゃくちゃ話し合った。

結果、あの魔王なら全部話せばわかってくれる……なんて全員が言うから、一応来てみたんだけど……


「かすかに魔力を感じるな。確かに一人前にしろとはいったが……誰の仕業だ?」


「お言葉ですが主様、これはお嬢様自身で行った行為です。にわかに信じがたいとは思いますが、お嬢様には魔法使いとしての才能がおありかと」


「ほう」


ひぃぃぃぃ! 目が、目が怖い!!

そりゃそうだよね、この前まで私赤ん坊だったものね!

みんなは大丈夫いうけどさぁ!? こうみえて私主犯やねん! 罰せられる気しかしないねん!

もしかして、断罪されちゃったりする?? さ、さすがに殺したりとかはしないよね、娘だし!


「あたし達だって、急に大きくなった時は驚いたわよ! 泣くだけでもうるさかったのに、いい迷惑だわ!」


「おかげで面倒ごとが増えて仕方ないわ。ご飯を一緒に食べたいだとか、うちらについて知りたいだとか……さすが、"魔族たらし"ってあだ名をつけられたあなたの娘なだけあるわね」


「……共に食事をするようになったのか?」


「ええ、一応。お嬢のおかげ、ですかね」


ユウナギが、優しく微笑んでくれる。

マヒルとサヨだけは、納得いかないとばかりに顔を逸らしてるけれど、なんだかこそばゆい。

結果はともかく、全部百合のために動いてましたー、なんて言えないもんなぁ。


「……少しリンネと話したい。四人は外で待っていてくれないか?」


あ、あれ? もしかして、呑気なこと言ってる場合ちゃいます?

まさか、本当に死刑!!?

や、やめてくれ! 私はまだ百合ライフを送れていない!!


そんな私の心の叫びに気づくわけもなく、四人は部屋を去る。

広い部屋で、二人だけの空間になってしまう。

ここまでくると、出来ることも限られてくるな……とりあえず、逃げる手立てを……


「自分で行った、か……まさかここまでとは……ここまで立派になるとは、たいしたものだな。我が娘ながら、誇りに思うぞ」


ん???


「お、怒らないの?」


「こんなことで、死刑になるとでも思ったか?」


よ、よかったぁ、なんとか一命を取り留めた……

さすが魔王様……もう怖いったらないのよ!!


「リンネ、お前に会わせたいヤツがいる」


ん? 会わせたい奴とな??

首を傾げざるを追えない私を気にしもしないように、彼女はとあるドアを開ける。

すると、そこからでてきたのはー


「こぉんにちはぁ。あらやだ、いつの間に大きくなったの?! さらに可愛くなっちゃって、お母さんびっくりだわぁ」


「……大袈裟なことを。あらかた予想通りだったのではないのか?」


「ふふ、さてどうかしらねぇ? 初めましてぇ〜ディアちゃんの奥さんでぇ、あなたのお母さん、衣通巳胡そとおり みこでぇす。よろしくねぇ」


金色に輝いた短いウェーブヘアが、ふわりとゆれる。

ディアボロスに手を引かれながらやってきたのは、満面な笑みをうかべたピンク色のプリンセスドレスを身に纏った女性だった。

ふんわりとした喋り方から、やっさしそうな雰囲気が伝わってくる。


……って、私の母? ディアボロスの妻??

ちょっとまって、ここって女性同士で結婚ありなんですか!!?

何その異世界設定!! ありがたい!!

ていうか名前がめちゃくちゃ日本人なんだけど! もしかしてこの人……


「ふふっ、リンネちゃんったらびっくりしてる。ディアちゃんは悪魔族だけど、お母さんは人間なのぉ〜。だからリンネちゃんは、悪魔族と人間のハーフになるのかしら?」


「へ?? そうなの? ってあれ? 私もしかして口に出ちゃってた??」


「お母さん、元々占い師って職業だったから、色々わかっちゃうのよ〜」


え、何その設定ずるい……

占い師かぁ。きっと心の中とか、未来とか見えちゃうんだろうなぁ〜……

……ん? まてよ、てことはつまり……


「だからお母さん、リンネちゃんのことはよぉくしってます。あなたはリンネちゃんじゃない。別の世界からやってきた、死した魂さん。でしょ?」


ぎくっ! 


「そして、三度の飯より女の子同士の恋愛が好き……なのよねっ❤︎」


ぎくぎくぅ!

ちょ、ちょっと待って、これってこんな立て続けにばれていいこと!?

百合好きはね、まあ百歩譲ってオタバレみたいなもんやし? 隠してもないから別にいいんやけどね?

転生してますぅ、は序盤でばれちゃいかんくない!? しかも身内にて!!


「そんなリンネちゃんに、お母さんから頼みたいことがあるの」


「た、たのみ?」


「四天王みんなを、幸せにしてほしいの♪」


四天王を、幸せに???

予想の斜め上をいく言葉に、いまいち頭がついていかない。

それでも彼女からは、冗談を言っているようには見えなくてー


「……察しているかもしれんが、あの四人は歴代四天王の中でも異質でな。過去に色々あった者ばかりで、魔族内で浮いている者もいる……その分実力は高いのだが、我の命令は聞かずにやれ用意した家が狭いだの、共同生活は嫌だのと……協調性もなければ会話もせん……どうにかならないものかと、考えていたのだ」


「おかげで、今の四天王は不仲すぎる〜って噂まで広がっちゃうしねぇ。あの四人でいいのかって、他の子達からクレームまできちゃったわよぉ〜」


うん、他の四天王の人がどうだったかしらないけど、容易に想像できちゃう。

だってあの四人、自分のことばっかりだもん。

現に全然可愛がられなかったしぃ。


「でもね、みんな悪い子じゃないの。リンネちゃんなら、わかるでしょ?」


ま、まあ……話してきてそれは十二分に伝わってるけど……

四天王を幸せにする頼み事と、私の百合好きに、どう関係が……


「ここだけの話なんだけど……あの四人にはね、それぞれ好きな女の子、四人を好いてる女の子がいるのよ❤︎」


女の子……だと!!!?


「だから、四人を仲良くさせちゃったリンネちゃんをみて、ビビってきたの。リンネちゃん、四人の恋を叶えてくれないかしら? お母さん達も、協力するから」


『……お願い! ……に、私の恋を叶えてほしいの!!』


……一瞬、誰かの顔がよぎったのは、前世の記憶か何かだろうか。

普通の人なら、ここまで言われてしまってはと、仕方なく言うことを聞くのだろう。

転生バレ、オタクバレ……どうみても脅迫にはもってこいのネタばかり。

だが、私はまったくそんなことは思わない。


「はい!! 喜んで、させていただきます!!」


何故なら私の目的は、百合ライフを満喫することなのだから!!!

え? 前世の記憶の掘り下げ?? そんなもの今はどーーだっていい!

だって百合を見れるかもしれんってことでしょ!? そんなの願ったり叶ったりじゃないですか!!

私にとって転生もオタクも、バレたってなぁぁんも怖くないんだから!


「…… 本来なら、赤の他人とわかっている者に頼むべきではないと思っていたが……まさか、あっさりと許可されるとは……」


「ね? 大丈夫だったでしょう?」


「……世の中には様々な人がいるからな……受け入れよう」


心なしか、魔王から変な目で見られてる気がするけど……気にしない!! 気にしない!


「リンネ、四人をよろしく頼むぞ」


信頼や希望を宿した目が、私に向く。

その大きすぎる期待と、これから起こるであろう幸せに思いを馳せながら、うんと大きく頷いてみせたのだった。


(つづく!)

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