#13.以和為貴、其即最強也!


かち、かちと、針の音が進む。

そのたびに時計をみては、まだかまだかと気持ちがはやってゆく。


約束の時間から、もう5分すぎている。

それでも不思議なことに、不安には感じない。

彼女達ならきっときてくれる、そう信じていたから。


15分くらい過ぎた頃。ようやく、玄関のドアがゆっくりと開かれ……


「すみません、遅くなりました……ってお嬢様?」


「おかえり! みんな!!」


アサカ、マヒル、サヨの3人が、中へ入ってくる。

そんな3人を、私は笑顔で出迎えた。


なぜ3人が来るのを待っていたのか、それは今日は待ちに待ったお食事の日だからである。

距離を縮めることはできたものの、この日まで彼女達四人が集まることはなく、相変わらずの時間が続いてばっかりだったから最初はどうなることかと思ったけど。

でも、来てくれた。そのことが何より私は嬉しくて仕方がなくて……


「お嬢様……もしかして、ここでずっと待っててくださったのですか?」


「うん! みんなをお迎えしたくて」


「なんと寛大な……丁重なお出迎え、感激いたしました」


「ほんと、変わった子ね。相変わらず」


「か、勘違いすんじゃないわよ! あんたのために来たんじゃないんだから! 仕方なく! 仕方なくだから!!」


ああ……今の今まで私を毛嫌いしていた3人が、こんなに……

こうしてみると、自分頑張ったなぁなんて思ってしまう。

いやぁ、長かった!! ここまでほんっとに……


「ほ、本当にきた……すげーな、お嬢……」


「何よその言い方! そんなに言うなら帰るわよ?!」


「ああ、ごめん。信じられなくて、つい……じゃあ、始めようか」


「始める? ご飯は用意されているのではないのですか?」


「どーせならみんなで作って食べようって、お嬢が」


そう、私が企画した食事会は、食べることだけでない。

共に同じものを作る、すなわち共同作業をすること!!

共同作業はカップルにとって必要不可欠!

フラグがないのなら、こちらから立てればいいのだよ!


「とりあえず作るのは、カレーライスにしようと思うんだ。工程もそんなに多くないし、みんなで作るにはうってつけだろ?」


そう言いながら、ユウナギが使うものをシンクへ並べてゆく。

カレーライス、前世でかなぁりお世話になった食べ物だ。

なんと親切なことに、作り方はほとんど前世と同じ。

違うのは材料の名前とか、そんな感じだろうか。

まあ私は子供だから、見てるだけでいいんだけどね!


「まずは野菜の皮剥きだな。アサカ、頼めるか?」


「かしこまりました、皮を剥けばいいんですね」


ユウナギに言われたアサカは、片手で野菜をつかむ。

皮を剥く。私にもできそうだな、なんて呑気に思っていたのにー

彼女は包丁を持ったかと思うと、木っ端微塵に野菜を切り刻んでしまい……


「……おかしいですね、野菜がなくなりました」


「えーっと、アサカ? 確認だけど、料理したことは……」


「初めてです。包丁で皮を切る方法があると、書籍にかいてあったので」


「まああるにはあるんだが……そのやり方だと、野菜が何個あってもたりねぇな」


そういうと、ユウナギはそばにあったピーラーを彼女の手に握らせる。

すると彼女は、アサカの後ろからそっと手を握って……おおおお!!?


「皮剥きは、こいつを使うんだよ。まっすぐな野菜は、まず横向きに置く。で、ここにアゴがあるだろ? そこを食材に当てて、力を入れずに横に動かすんだ。そしたら均一にむけるぞ」


「……成程、勉強になります」


嗚呼……いい、いいですねぇ。

これぞ共同作業のなせる技!! やはり女子同士の絡みは眼福そのものだよ……


「マヒル、魔牛肉を食いやすいように叩いてくれねぇか? 柔らかくなったら、食べやすい大きさにしてくれれば」


「仕方ないわね。こんな肉、すぐに柔らかくしてあげるわ。おりゃりゃりゃりゃ!!!」


待ってました、と言わんばかりにマヒルが極めて大きい声をだす。

その叩きっぷりはもはや狂気そのもので、叩かれてる肉がちょっとかわいそうにみえるくらい。

そんなマヒルをなんとも迷惑そうに顔を顰めているのは、わざわざ人間になってくれたサヨだった。


「うるっさ……少しは場所をわきまえてくれる? 耳障りだわ」


「文句言ってないで、あんたも何かしなさいよ!」


「言われなくてもやってるわ。まったく、なんでうちがこんなこと……いった」


はっ! 小さな悲鳴!!

何事かと慌てて私は、彼女の元へ近寄る。

そこには、野菜を切っていたサヨの手に、少し赤いものが滲み出ていて……


「サヨ、大丈夫!?」


「……別にたいしたことないわ」


「指、切っちゃったのか。そんなに深くないし、アサカの回復魔法で……」


「はぁ? あんた達、正気? 貸して!!」


心配するユウナギを跳ねのけるように、マヒルがサヨの間に割って入る。

彼女のことだ、きっとこれくらいたいしたことないとか言って、作業を続けるに違いない。

だがしかし次の瞬間、彼女はサヨの指の傷を舐めて……ふぁ!!!!?


「ちょっ、あなた何するの!」


「傷を負ったらすぐ消毒! 基本中の基本でしょ!? 救急箱持ってくるから、待ってなさい!」


「だからって急に舐めなくても……」


心なしか、サヨの頬は赤い。

やった本人であるマヒルはなんとも思ってない、というように救急箱をとってくる。

手慣れたように手当てをする姿は、いつも怒ってる彼女からは想像できなくてー


「はい、これで大丈夫」


「て、手慣れてるんだな、マヒル……」


「あたしは戦士よ! このくらいの傷は日常茶飯事だわ。それにこんな傷、魔法なんかなくたって処置さえちゃんとすれば治るもんなのよ」


「……下手な包帯の巻き方ね。いっとくけど、礼はいわないから」


「ふん、別にいいわよ」


「無事で何よりですね、私の出る幕がなくて残念ですが……ところで、お嬢様が鼻から血を出していますが、こちらの処理は私がすればよろしいですか?」


「……え、なんで!?」


おっと、私としたことが。隠していたつもりが体は素直なようだ……

今の今までなぁんもなかったのに、まさか二連続でみれるとは……

こちらとしては、もうご馳走様です。ありがたや……


「お、お嬢はもう座ってていいから! 3人も無理しないで、やれるだけ手伝ってくれればいいから!」




そこから数分後、私達はようやくご飯にありつけた。

結局あんな騒動があったこともあり、カレーはほとんどユウナギが作ってくれたんだけど。

初めてに近い食卓を囲み、できたカレーを初めて口にした時、意外にもみんな口を開いてくれてー


「……うま。こんなに美味しかったのね……ちゃんと食べたの、初めてだわ」


「でしょ?! ユウナギはすっごいんだよ!」


「なんでリンが得意げなの? でも、本当に美味しいわね……どこかで習ったの?」


「え、一応独学だけど……」


「さすが、主様お墨付きなだけはありますね。ちなみに私は、たくさんご馳走になってますよ」


「地味にマウント取ってんじゃないわよ!」


笑って、怒って。また喋っては、笑って。

たわいもない時間が、今この場で広がっている。

今の今まで喧嘩ばかりで、種族だって違う。

そんな四人がようやく同じ食卓に並んで、同じことを会話してる。

やっぱり、仲良くなれるもんなんだよ。だって、みんな素直になれなかっただけなんだから。


「ねえ、みんな。これからも一緒に食事したり、お話ししたりしない?」


気軽に、いつもの調子で言う。

四人は気まずそうに、顔を見合わせる。

まるで今まで意地を張っていたことが、なんだったんだろうというように。

しばらく沈黙が続く中、一番にマヒルが照れたように


「ま、まああんた達がどーーーしてもっていうなら? 食べてあげてもいい、けど?」


と、わかりやすい反応をしてくれた。


「……ほんとあなたって、面倒な人ね。そんな言い方しかできないの?」


「なっ! あんたにだけは言われたくないわよ!!」


「いいんですよ、無理に来なくても。ユウナギ様のご飯は私がたくさん食べるので」


「独り占めしようとすんじゃないわよ!」


「まあ、気が向いたらきてあげるわ。毎日作るの、大変だと思うし」


「じゃあそのときは、今日みたいに手伝ってくれよ。誰かと一緒に作る方が楽しいから」


四人がそう言いながら、少し私に笑ってくれる。

こうして、私の努力もあいまって、四天王同士の絆は少しだけ、近づいたのですー


(つづく!!!)

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