#12.懇ろ愛護未熟少女


「ふふふふん〜♪ ふふふ〜ん♪」


鼻歌まじりに、今日の一人前講座担当者とかかれたルーレットを眺めみる。

この日を、私はどれだけ待ち構えただろう。


「随分ご機嫌ね、リン」


水盤から顔を出したサヨが、物珍しげに私を見つめる。

リン、というのはもちろん私のことである。

彼女の言葉に、私はにやけた頬を戻すことなく、


「えへへ〜一人前講座が楽しみすぎてつい〜」


と思ったことをそのまま告げた。


現在私は、隠された百合を探すべく、四天王と仲良くなろう作戦を決行中だ。

一時はどうなることかと思ったが、アサカ、マヒルと日が経つごとに進んでいる。

しかもつい先日、四天王では一番難関だと思っていたサヨを、攻略できたのである!!


「お気楽な人ね。ま、あなたが一人前になろうがなるまいが、うちには関係ないけど」


「そんなこと言わないでよ〜あ、サヨも講座一緒にうけない?」


「結構よ。じゃあね」


……うん、攻略できたよね。できたはずよ、きっと……


そんな私が喜んでるのは、そのことだけではない。

アサカ、マヒル、サヨと講義……というよりお話を経て、ようやく回ってきたのは待ちに待ったユウナギだ。


日頃からよくしてもらっている彼女に、今更気に入られようとか仲良くなる必要もない。

ご飯を一緒に食べたい、なんて言ったら、きっと一番に賛成してくれるに違いないし〜


「そういえば、ユウナギどこだろう? 洗濯物かな?」


「わんっ!! ワンワン!!」


彼女を探して、なんとなく外に出た時だった。

十字の模様が入った大きな狼? 犬? みたいなような生き物が、走っている。

ん〜正直、可愛いとは思えないような……


……ん? てゆーか、こっちにむかってきてたりしなぁい??

よくよくみると、その獣にはさぞご立派な牙が生えていて……

ま、まさか私噛まれる!!? 

いやぁぁ、せっかく転生したのにこんなところで死にたくなぁい! 


「うわっ、なんだお前か……そんな勢いできたら危ないだろ」


……あれ? 痛くない??

目を開けると、ごろごろ喉を鳴らした狼の姿がある。

その隣には、私が探していた彼女の姿があって……


「あれ、お嬢。こんなところにいたのか。驚かせたか? 悪い、こいつらいつもこんな感じで……」


洗濯かごを持ったユウナギが、大丈夫か? と手を差し伸べてくれる。

よくよく見ると、彼女の周りにはたくさんの魔物がいた。


一見、馬や蝙蝠、鹿などの動物に見えなくもないけど、角が尖っていたり、色が違ったりと多種多様。

おそらくこれが、魔物と呼ばれる類なのだろう。

そんな魔物達と息がかかるほど近くにいて、しかも撫でたり餌をやったりと、かなり慕われているご様子。

こ、こいつ、できるぞ……!


「びっくりしたけど、大丈夫! その子たちは?」


「国の外で暮らしてる魔物だよ。たまに面倒見てるからか、オレのこと慕ってくれててさ。よく遊びに来るんだ」


「へぇ~いいなあ~」


「せっかくだし、撫でてみるか?」


その言葉に、つい「いいの?」と言いながら手を伸ばす。

いや、待てよ。このまま普通に撫でちゃっていいのか、私。

相手は犬なのか狼なのかわからない生き物だぞ??

ていうか私、生前ペットとか飼ってないから撫で方とかわっかんないじゃん!!


「わん!!」


「お嬢、背中を撫でて欲しいってさ」


え?? 背中??

いわれるがまま、そうっとその背中を撫でてみせる。

すると気持ちよさそうに、のどまで鳴らしてくれて……

な、なんやこれ、可愛い……!!


「こいつ、ずっとお嬢に会いたがってたさ。撫でられて嬉しいってすごい喜んでるよ」


「もしかしてユウナギ、魔物の言葉がわかるの?!」


「まあ、一応な」


そういう間も、彼女の周りにはたくさんの魔物が寄ってくる。

どうやら言葉がわかるのは、本当らしい。

はたから見ても、会話してるように見えるし、心なしか距離も近いように見える。

まあ、ユウナギの性格柄ってのも影響するのかもだけど!


「あ、そうだユウナギ! 私ユウナギを探してたんだ! 今日はユウナギに教えてもらう日だよ!」


「……ああ、それで……お嬢は何について学びたいとかあるか?」


「魔法!!!!」


間髪入れずにその言葉が出たのは、おそらく魔法使いに任命されたからである。

現に私は、上級魔法なるものを赤子の状態で使えたのだ。

きっと才能があるに違いない! 正直他の3人は教えてくれなさそうだったし、頼りの綱はもうユウナギくらいしか……!


「魔法、か……魔法なら、サヨかアサカに頼んでくれ。もし無理そうなら、他に教えてくれそうな人を探しておくよ」


「ほえ?? ユウナギは教えてくれないの?」


「……ハーフエルフ、ってわかるか? 人間とエルフ、どっちも血が入ってるんだけど……オレは人間の血が強くてさ。魔力がないから、一つも魔法が使えないんだよ」


ほえ〜そんなこともあるんだ。

そういわれても見た目は普通の人間っぽくて、エルフと言われてもあまりピンとこない。

ハーフエルフには色々なパターンがあるみたいだけど、奥が深いなあ。

魔法が教えてもらえないというのなら、私に残された選択肢は一つ!!


「じゃあじゃあ、今度一緒にお昼食べない? みんなで一緒に!!」


本業をまっとうするのみ!!


「また唐突だな。それ、みんな許可したのか?」


「もっちろん! 私が言ったら、少しならいいって!」


「そっ、か……好かれてんだな、お嬢は。でも、オレはいないほうがいいんじゃないか?」


あり??


「どうして? ユウナギ、みんなと仲良くなりたくないの?」


「うーん、仲良くなりたくないわけじゃないんだけど……多分オレ、四天王として、認められてないと思うんだよな」


「なんでなんで?」


「……オレ、あの3人の中じゃ一番弱いんだよ。就任したって時も、周囲から非難ばかりで居心地悪くて……その証拠に、ここにも集まってくれないんだろ? まあ普通に考えたら嫌だよな。魔物や動物の声が聞こえるなんて奴と、一緒にいるの」


正直、意外だと思った。

彼女がそんなことを気にしてるなんて、思いもしなかったから。

確かにあの3人の当たりは強いし、嫌われてるって思うのもわからなくはないけど……


「そんなことないよ! ユウナギはみんなにいっぱい優しくしてるじゃん! 家事したり、ご飯運んだり! むしろ嫌われてるのは私の方だよ!」


「あ、あれは、みんな自分のことに一生懸命なだけで……」


「それに、動物の声が聞こえるってだけで、私は絶対嫌いにならない! 私、ユウナギ大好きだもん!」


ひたすらに言葉を投げかける。

それもこれも、彼女の存在はなくてはならないものだからだ。

彼女の優しさに、何度も助けられたことか数知れない。


それに話してきてわかった。

四天王全員、お互いにお互いを気にしてるってこと。

ただ、すれ違ってることに、気づいていないだけ。

だからきっと大丈夫。

四天王は、一人も欠けてはいけないのだから!!


「……お嬢は優しいな。お嬢を見てると、同じように慰めてくれた人のことを思い出すよ」


……ん? 同じように慰めてくれた人ですって??

これは! 特大級の百合フラグを受信しちゃったんじゃないですか!!?

みなさま、長らくお待たせいたしました。ついに恋愛面、発掘です!


「その人、どんな人?! 魔界の人?」


「……なんかすげー食いつくな。ご飯の話じゃなかったっけか?」


「はっ! そうだった!」


「でも、家にさえいたくないって言ってた二人が、一緒でもいいって言ってくれたんだもんな……久しぶりに、腕によりをかけて作るか」


そういいながら、手伝ってくれるか? と私に聞く。

その言葉に、思いっきり頷いてみせる。

事情は深く聞けなかったものの、その後私は彼女を慕う魔物たちと、ゆっくり時を過ごしたのだったー


(つづく!!)

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