#11.お澄まし美麗気まぐれ乙女
前略、前世に住んでいるであろう知り合い様方、いかがお過ごしだろうか。
私ーリンネは自分の名前や記憶という大事なものを思い出せないにも関わらず、転生世界でも楽しくやれています。
ここ、ウヨシンテにきてからどれくらいの月日がたったのだろう。
たとえ短かろうと長かろうと、目まぐるしく私の環境は変化している。
それが、四天王との関係性だ。
「お嬢様、朝食ができましたよ」
「はーーい、今行く〜」
「ちょっとガキ!! また剣ほったらかしたでしょ! ちゃんと片付けなさいよ!」
あれからというもの、私はアサカだけでなく、マヒルにも構われるようになった。
といっても、ほとんど説教じみたものだけど。
今まではそんなに怒らなくてもぉ、とか、近づきがたくて怖いなぁとか思ってたけど、今は違う。
なぜなら彼女はツンのデレ! そうと分かれば、怖くもなんともないのだよ!
「ガキ?? ガキってだぁれ?」
「あんたのことに決まってんじゃない! わかってて言ってるでしょ!」
「私、ちゃんと名前あるもーん。名前呼んでくれなきゃお片づけしなぁい」
わざとらしく、純粋な子供のふりをする。
せっかくだから名前を呼んで欲しいという、私なりの反抗だ。
我ながら姑息な手段やなぁ……あーでもこういうタイプは、躍起になって意地でも呼ばない恐れも……
「……あーー、もうわかったわよ!! り、りん、ね……」
ぐはっ!!!?
「はい、これでいいでしょ!? さっさと片付けなさい!!」
うん、ごめん。正直ツンデレなめてた。
こうみえてマヒルは、意外と優しいもんね……ツンデレイイネ……サイコウ……
「……地に落ちたような堕落っぷりね」
声がする。
いつからいたのか、水盤から顔を覗かせたサヨがいた。
まるで見てはいけないものを見た、というような蔑んだ瞳を向けていてー
「無様ね。最恐の悪魔と謳われた鬼が、聞いて呆れるわ」
「い、いいいいつからそこにいたのよ!」
「ガキって誰? ってとこからかしら」
「全部じゃない!!」
「いいところにいらっしゃいました。本日の一人前講座は、サヨ様が当番ですよ」
「うち、あなた達みたいに暇じゃないの。他を当たって」
そういうと、彼女は水盤へ姿を消す。
後を追いかけようと顔をつけるも、そこにはすでに彼女の姿はなかった。
これが人魚のなせる技かぁ、かっちょええ!
「ったく相変わらずね。今のあんたに、あいつはちょうどいいと思ったんだけど」
「? どういうこと?」
「人魚族は、職業の適性検査ができる魔法道具を扱うことができます。そのため、少し前までは転職ができる神官を代々務めていたといわれていますよ。今は、違う種族ですが」
ほえ〜そんなことできるんだ。
確かに自分の適性を知れるのは、結構いいかもしれない。
ついでに、異世界ライフを満喫するのも悪くないだろうしね!
「私、サヨのとこ行ってきてもいい?」
「はぁ!? 正気? あいつに何話したところで、無駄よ。やめときなさい」
「やってみなきゃわかんないもんっ。アサカ、地図ちょーだい!」
「かしこまりました。多用で私はついていけないので、念のため加護の守りをつけさせていただきます」
そういわれ、アサカから何かの魔法をかけられた私は、彼女がいるであろう場所へ向かった。
森の、ずっとずぅと奥。
水の音を頼りに、私は歩いていた。
以前ユウナギが連れていってくれた、彼女がいた場所だ。
たった一回しか行っていないというのに、なんとなく覚えているのは魔族故なのだろうか……
「さ、サヨ〜いませんかぁ?」
とても清らかで、綺麗な滝がゴーゴー流れている。
誰か来たとばかりに、周囲からケラケラ笑い声が聞こえてくる。
姿が一切確認できないせいか、まるで幽霊がいるようだ。
歓迎されていないことなんて、重々承知だったけど、ここまでくると嫌だなぁ。
せっかくの神秘スポットなのに、聞こえてくるのは笑い声ばかりだから異様に怖さを倍増させてくるような……
「この中に行けば、会えるのかな……」
恐る恐る泉の中を、覗き込んでみる。
ここからじゃ、中の様子なんてわからない。
選択肢として私の脳裏に浮かんだのは、この中に一度入ってみることだけど……
「やめときなさい。その水、浴びただけで、蒸発死する魔族も少なくないみたいだから」
聞き慣れた声に、はっとする。
滝のすぐそばにあった岩場、そこにサヨが腰掛けていた。
私の姿を見るが否や、彼女ははあっとため息をついて……
「大した子供ね。こんなところまで一人でくるなんて」
「今日はサヨに教えてもらう番だから!」
「魔王さんにきいたのでしょ? うちの職業はシーフっていって、物を盗んだり、宝を探したりするの。あなたに教えられることなんて……」
「この前、サヨ人間になってた! あれ、どうやったの?」
帰ろうとする彼女にあえて近づく。
誘拐から助けてくれた時、彼女の足は人間のようになっていた。
あれがもし魔法というのなら、私にも何かできるかもしれない。
そう信じてマジマジと見つめていたせいなのか、若干迷惑そうに顔を歪ませながらも、彼女ははぁっとため息をついた。
「変化魔法の一つよ。あの程度なら、うちの一族はみんななれたわ」
「それってもしかして、魔法ってこと?」
「まあ、そうね。みてなさい」
そういいながら、彼女は目を瞑ってみせる。
途端白い光が溢れ、サヨの足元を包んでゆく。
光がやむと、尾鰭だったものが二つの足にかわっていて……
「わぁ〜!!! すっごい!! それで人間になってたんだ!! 私もできる?」
「……あなた、興味あるの?」
「うん! ほら、大きくなる魔法使えたし!!」
私がいうと、彼女はふうんと興味なさげに相槌する。
それでもじーっと眺めてくるあたり、少しは関心を持ってくれてるのだろうか。
しばらくすると、彼女は海の中から水晶玉をだしてみせて……
「なぁにこれ?」
「やらなきゃやらないでしつこそうだもの。仕方ないから、あなたにふさわしい職業をここで与えてあげる」
あらやだ、意外にも子供の扱いをわかってらっしゃる……
もしかして、これってファンタジーでよくある転職ってやつでは!?
彼女に言われるがまま、そっと手を翳してみる。
なんて考えているのも束の間、水晶玉は紫色に輝き出す。
その光は私の周りをウロウロ飛び回り出したかと思えば、しばらくすると私の体に溶けるように光はきえていって……
「やっぱり、上級を使えただけはあるわね。魔法使いだそうよ」
え、今ので終わり? 転職簡単だな、おい。
格好もなにもかわんないから、実感わかないけど。
まあなんだ、これでなれたのなら百人力ってことかな。
あわよくば恋が叶う魔法とかないかなぁ、なんつって。
「それにしてもすごいね、サヨ! そんなこともできちゃうんだ!」
「これくらい、人魚族には誰でもできたわよ」
「それでもすごいよ!! 人魚って綺麗だし、神秘的だし、存在自体が特別に感じられるっていうか!」
「あなた……本当に変わってるのね」
そういいながら、彼女はくすっと笑う。
え……なに、その綺麗な笑い方……
そういえば初めて見たかもしれない、サヨの笑ってるところ。
なんて美しいんや……同性の私でもドキドキしてしまう……
「人魚族は魔族の中では異色で、聖なる存在っていわれててね。村も仲間もみんないなくなっちゃったから、うちだけ結構浮いてるの。四天王に選ばれたことだって、異例なのに……あなたみたいに、自分から寄ってくる人は珍しいわ」
「そんなことないよ! 言わないだけで、他の3人もきっと同じだと思う!」
「そんなものかしら」
「ねえ、たまにはおうちで一緒に過ごさない? みんなもサヨのこと、知りたいと思ってるよ」
「あそこ、窮屈なのよね。うるさいのもいるし。人魚の生活圏が水の中なくらい、みたらわかるでしょ?」
ぐすん、そこまでいわなくても。
「まあでも……気が向いたら帰ってあげる。リン」
それは初めて、彼女が私の名を呼んだ瞬間だった。
澄ましたように笑うその顔はとても綺麗で、息を呑んでしまうほど。
こうして私は、一番手強いと思っていた第三関門も、無事に突破したのです!
(つづく!!)
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