#10.勝ち気無敵天邪鬼ムスメ

「お嬢様、起きてください。朝ですよ」


ふみゅう……誰だよぉ、こんな朝早い時間に。

子供はまだ寝る時間なんだから、まだ寝かせてくれよぉ〜……


「現時点で四回目、いまだ呼びかけに応じる気配なし。時間まで残りわずか……仕方ありませんね」


……ん? 何が仕方ないって??

重すぎる瞼を、うっすら開ける。

耳にはかちゃりと何かを構えるような音、視界に入ってくるのは、お腹の中から出てきた黒く大きな細長ーーいもので……


「わー!! よくねた!! おはよう!!」


さっきまでの眠気が嘘のように、勢いよく体を起こす。

私が身を挺した動作すらさも不思議だというように、彼女はきょとんとした顔をうかべつつ、


「おはようございます、お嬢様」


と軽く会釈してくれた。

彼女ーアサカはあの日以来、少し変わった。

毎朝こうして起こしに来てくれたり、服を用意してくれたりと、まるでお姫様かってくらいのVIP待遇である。

現にお嬢様って呼んでくれちゃってるし〜

そこまではいいんだよなぁ、ほんとそこまでは。


「お、おはようアサカ。えーっと、それなぁに?」


「バズーカです。人間は大きな音で起きると聞きましたので、私のお腹に常備されているものを使おうかと」


「そ、そうなんだぁ。とりあえず危ないから、他のもので起こしてくれるとありがたい、なぁ」


私なんかよりも断然知能は高いはずなのに、なぜかとんでもないことを思いつく。

今のバズーカもそうだけど、この前なんて鶏を何羽もこの家においてユウナギに怒られたほどだ。

こうしてみると、アサカって意外と天然なのかなぁ。まあ、そう言うギャップは意外と可愛いけどね! 


「本日の朝食はこちらです。どうぞお召し上がりください」


「わぁ、ありがと〜! いっただきまーす!」


「早々に申し訳ないのですが……支度を済ませたら、すぐに外へ来てほしいそうです」


「え?? なにか用事?」


「本日の講座担当からの言伝です。詳しくは聞いておりませんが、何分彼女は短気かつせっかちなので、遅れたりサボったりしてはどうなるか……」


「本人がいる前で堂々と悪口なんて、いい度胸してんじゃない」


声がする。

パッと振り向くと、そこにいたのは木刀を下げたマヒルだった。

両腕を組みながら立つその姿は、不機嫌極まりないとばかりに目が吊り上がっているような……


「私は事実を言ったまでです。仮にも彼女は魔王様の娘……くれぐれも、危険な真似はなさらぬようお願いいたします」


「はんっ、命令しか聞けない人形なんかにいわれなくたってわかってるわ。安心なさい。このあたしが、あんたを一人前にしてあげるわ。さあ、きなさい!」


え? ちょっとまって?? 私まだ朝食食べてる途中よ??

腹は減っては戦はできぬ、ってことわざあるし? 食べなきゃやってられ……


「ちょっと何してんのよ、ガキんちょ! いくわよ!」


そんな私に構わないとばかりに、彼女は強引に私の腕をひっぱりだす。

その力はなんとも強引で、子供の私にはなすすべもなく……


「え、あ、ちょっ、まだご飯たべてないのにぃ〜マヒル、朝ごはんは??」


「そんなの時間の無駄よ! アサカ! いつもの!」


その言葉と同時に、アサカから小さな容器を左手にもらう。

少量のエナジードリンクを掴んでいないもう一つの手で、彼女は私を引っ張り出す。

どうやら、逃げる術はないらしい。

彼女に引きづられながら、私は外に連れ出される他なかった。



剣や槍を交えている音が、あちこちで聞こえてくる。

どこからか聞こえてくる掛け声はまるで、運動系の部活動のよう。

その光景や音に、ありし日の青春さえ感じさせられる中私はというと……


「にじゅー……にじゅう……いち……あれ? 今、何回だっけ?」


「そこ! 勢いを使おうとしない! 腹に力を込めることに意識しなさい! あとワンセット!」


「も、もう無理だよぉ〜……」


「あくまでこれはウォーミングアップよ。本筋は武器の稽古なんだから!」


「えぇ? まだあるのぉ?」


「モタモタしてないで、さっさとやる!!」


ひぇぇ、勘弁してぇぇぇ。

現在、私は国の外にある鬼族が住んでいる鬼が街と言う場所でひたすら拷問……ではなく鍛錬をしている。

辺りは険しい渓谷やマグマに囲まれており、まるで桃太郎にでてくる鬼ヶ島のようだ。

着いた時は、前にユウナギとご飯を届けに来たなぁ、なんて思ってたのに……


早速とばかりに始まったのは、体力作り。

休もうとすれば、怒声と舌打ちまじりにマヒルが木刀を地面にぱしぱし叩きつけてくる。

うう、なんで私がこんな目にぃ……


「あ、あのぉ、この国って平和、なんだよね? ここまでする必要って、あるのかなぁ?」


「無駄口叩いてんじゃないわよ! 確かに平和だけど、野蛮な輩は少なからずいるわ。現に誘拐されかけたじゃない!」


うん、でもあれ未遂というか、犯人魔王だったけどね?


「それに、自分の身くらいは自分で守れるにこしたことはないわ。いくら魔法が使えても、武器を使えなくていいなんてことはないもの。使い方くらい頭に入れときなさい」


うう、異世界手厳しい……


「しっかしあんた、見事に才能ないわね。体力もなければ、剣もろくに使えない……上級魔法って聞いた時はもしかして、とか思ったのに……本当にディアボロスの娘?」


「そ、そんなこといわれても……ちょっと休憩しない? 私、疲れちゃった……」


息切れ切れの中、ダメ元で彼女の方をちらりとみる。

こういうタイプには、ろくに相手にされないことくらい私も承知の上である。

しかし、そんな私の想像をはるかに覆すべく、マヒルはため息をついて……


「仕方ないわね、ちょっとだけよ」


……あれ? 


「あとこれ、タオルと水。かいた汗はしっかり拭きなさい。水分補給もしておくこと」


お、おっと? 思ってたより意外と優しい……?

てっきりスポ根系女子だと思ってたから、休憩なんかなし! って言うと思ってたんだけど……

これは、仲良くなるチャンス到来! ってことかな!


「ねえマヒル、マヒルは鬼族なの? おうち、このへん?」


「……ガキのくせにものすごい喋るわね」


「えへへ、マヒルとお話ししたくってつい!」


「……まあそうよ。外見じゃ耳とか、牙くらいしか特徴ないけど」


「へぇ〜! ツノとかないの??」


「ツノをだすってのは、鬼族じゃ力を解放するよーなものよ。普段じゃ、ちっさくしか生えてないの。ま、鬼にもよるけど」


そういいながら、彼女はほらと口の中を開けたり、おでこを指さしてくれる。

よくよくみれば、ちっさい角や立派な牙が生えていた。

はぁ〜なるほどなるほど? 鬼にも色々あるんやなぁ。

それにしても、こんなに近くで見せてくれるなんて、マヒルってやっぱり優しいのでは……?


「マヒル、すごい修行熱心だよね。なんでそんなに強くなろうとするの?」


「愚問ね。そんなの、きまってるじゃない。魔王を倒して、最強を証明するためよ!」


……ん?


「戦闘はスポーツみたいなものなの。闘技場だってあるし、国全体じゃ武道会が行われるほどさかんだわ。あたしの目的は一つ、この国で最強になること! そのために、魔族一とかいわれてるディアボロスに、ぎゃふんっていわせてやるんだから!!」


あらやだ、なんてこというのかしらこの子は。

四天王なのに敵意剥き出しなのは、私情も入ってるからなんだなぁ。あわれな魔王様……

もはや敵キャラにいてもおかしくないよ、うん。


「ねえ、ご飯あれだけでたりてる? たまにはみんなとお家で食べよーよ!」


「はぁ?? なんであたしが、そんなことしないといけないのよ。さっきも言ったでしょ。あたしにとっちゃ、その時間が無駄! あんたの世話だって、本当は死ぬほど嫌なんだから」


「そ、そこまで言わなくても……でもさ、一人より二人っていうじゃん? 四人で力を合わせれば、もっと強くなれるよ!!」


「四人で力を……そうね、あんたの言うことにも一理あるわ。でもそんなこと、あいつらが望むかしら」


ん????


「鬼って言えば、大体は悪役……でしょ? いいように思われないことが多い、っていうか…… あたし鬼……だし……それに、あいつらの力なんか借りなくたって、あたしは一番つよ……」


「……もしかしてマヒル、本当はみんなと仲良くなりたいの?」


なんとなく、言ったつもりだった。

あくまで可能性の一端として。

しかし彼女は私の言葉を聞いた途端、わかりやすいほどに顔を真っ赤にして……


「そ、そそそそそんなわけないでしょ!! ばっかじゃないの!!?」


と、ひどく動揺したように否定する。 

ははーん、なるほどなるほど。わかりましたよ。

これは族に言う、ツンのデレですね!! しかも異常にわかりやすい典型的な!!


ツンデレキャラは、ゲームやアニメでたくさんみてきた。

だからわかる! なんだかんだで釣れやすいと!!


「そっかぁ、そうなんだぁ。それならそう言えばいいのに〜」


「う、うっさいわね! 違うって言ってるでしょ!!」


「きっとみんなだって、マヒルと友達になりたいって思ってるよ! 少なくとも私は、マヒルと一緒に食べたいなっ!」


私が優しく諭すように、彼女に言う。

すると彼女はそっぽを向き、頬を真っ赤にさせて……


「ま、まあそこまでいう、なら、ご飯くらいは一緒に食べてやってもいい、わ……」


はい、つれましたーー! 第二関門突破!!

ツンデレ=ちょろい!! これ、基本中の基本ね! テストでます!


「言っとくけど、仕方なくなんだからね! あんたがどーしてもってうるさいから!!」


「はいはい、ユウナギにはご馳走お願いしとくね〜」


「人の話は聞きなさいよ、このクソガキ!!」


彼女が怒り狂っているのも、今の私には通じない。

怒ってばかりで怖いと思っていたマヒルに、親しみを持てた瞬間だった。


(つづく!!)

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