第1.5章 攻略! 四天王!

#9.勤勉忠順メイドガ〜ル

何個もの画面が、空上に表れる。

映し出される文字は、小さすぎて読むのすら一苦労に感じてしまう。

そんな中、パソコンのような機械を手慣れた様子で操作していってー


「それでは、早速始めましょうか。リンネ様」


さながら日本地図のようなものが、目の前にだされる。

彼女ーアサカは、あいもかわらず無表情のままメガネをかちゃりとかけなおしてみせた。

全国の読者の皆さん、こんにちは。リンネです。

転生して、約半月が経ちました。

先日魔法により、10歳程度に急成長を遂げた私が、今何をしてるかというと……


「あ、アサカぁ、これは一体……」


「あなたを魔王の後見者として一人前にする。そのためにはまず、この世界や種族について理解していただく必要があります。つまり、お勉強のお時間です」


四人を今よりもっと、仲良くさせる。そしてあわよくば、四人の恋愛事情を知り、堪能する。

そんな野望を叶えるため、どうするべきか考えた結果、導き出した答えが「私を一人前にする」という目標だった。


四人にとって私を育てることは、魔王の命令でもある。

結果、それぞれ得意分野にわかれて、私とマンツーマンでお勉強すると言う「一人前講座」が開かれることになった。

そこまではよかったのだ、そこまではな……


「僭越ながら、勉学においてわたくしの右に出る者はいません。この私が、ありとあらゆる知識を徹底的にお教えいたします」


なんともあろうことか、一番に名乗り出たのは彼女だ。

赤ん坊時代はまったく私に興味がなかったのに、人というのは分からないものである。

右見ても、左見ても本の山……

この量を今から取得するって思うと、自分の頭が心配だよ……


「すでにお気づきだと思いますが、我が国ウヨシンテは人間と魔族が共存している国です」


「きょうぞん?」


「わかりやすく言えば、一緒に暮らしている、ということです」


そういうと、彼女はいくつもの画像を出してくれる。

出されるものはどれも平和そうで、とても楽しそうに見えた。


「その昔、ディアボロス様が魔族の王に就任した際、人間の王と親交を結びました。以来、ペットとして魔物を飼ったり、種族関係なく仕事をしたり……共に生活をするようになりました」


あらやだ、めっちゃ平和な世界。

ってことは、ファンタジーによくある剣や魔法でガチバトルないってこと!? 


「とはいえ魔族は魔族なりに、住みやすい地域や生活もあります。外で集落を作る魔族もいますが、襲ったりすることはありませんのでご安心を」


「じゃあ私、外に出ていいの??」


「可能ではありますが……魔族には気性が荒い種類も少なからずおります。単独行動はお控えください」


あ、そんなことはないね。せっかく楽できると思ったのになぁ、残念。

まあでも、つまりは基本的に戦わなくていいってことだよね?

いやぁ、いいこときいたぞぉ。これぞ、最近流行りのスローライフってやつだね!

この世界については、この辺でいいだろう。あとは……


「それでは魔族について、一つずつお話しします。まずは、鬼族について……」


「あ、あの!!」


意を決して声を上げたせいか、異様に声のボリュームが大きくなった気がする。

それでも驚いた様子もない彼女は、ようやく視線を私に向けてくれた。


「なにかご不明点でも?」


「あ、いや、わからないことがあるってわけじゃないんだけど……私、アサカのことが知りたいなぁって」


「………はい?」


「種族とか、世界とか、そういうのも大事だと思うけど……私はママと違ってみんなのこと知らないから、もっと知りたいんだ」


ありのままの気持ちを伝えた、私にとっては嘘偽りのない言葉だ。

そもそも一人前になる、というのはみんなをしる建前でしかない。

知らねばならぬのだ、アサカという人のことを。

そして、隠された百合フラグを受信してみせる!!


「それは、命令ですか?」


ん??


「……失礼しました。私には、意志や感情が著しく欠落しておりまして……命令でないものには、どう対処していいものかわからなくて」


ん? ん? 


「えーっと、けつらくってなぁに?」


「……言ってませんでした? こうみえて私、元はぬいぐるみなんですよ」


ぬ、ぬいぐるみぃぃぃ!!?

ちょっとまって、ぬいぐるみってあのぬいぐるみ??

ふわふわぁで、もふもふぅなあの??

てっきり全身から銃とか出てきてたから、ロボットとかかと……


私が理解している間も無く、彼女はつかつか歩み寄ってくる。

次の瞬間、柔らかくも暖かい感触が一瞬にして伝わってきて……


「え、なにこれ! ふかふか!!」


「百聞は一見にしかず、といいますので。元々とある錬金術師の私物だったのですが、錬金術で私を人間にしてくださったのです」


「そうだったんだ! じゃあ、私を助けてくれる時に出してたあの攻撃は?」


「自分で身を守られるよう、人間になった際に体をサイボーグに改造したそうです。これで、理解していただけましたか?」


ふおおおお! すげーー! ファンタジーっぽい!!

言われてみれば、感触がまんまぬいぐるみだ。

肌触りがよすぎるし、何よりいい匂いがする。

ぬいぐるみとはいえ、女の子に抱き付かれるなんて、ありがたすぎる!! 子供万歳!!

……って! そうじゃねぇだろ私!!


「命令通りに動くことで、より人間らしくなれる……そう聞いております。これも人間の心を理解するため、失礼な発言をお許しください」


「そうなんだぁ……そこまでしなくても、アサカは命令とか関係なく、動けるんじゃないかなぁ?」


「……といいますと?」


「だってアサカ、私のお世話したがらないでしょ? ほら、私のお世話をすることって、ママの命令だし……命令には従ってないことになっちゃうよ?」


意思がない、感情がない。

そう言われて納得できることもあれば、できないこともある。

魔王の命令に忠順なら、もうちょっと私を可愛がってもよかったはずだ。

なのに彼女は、序盤から私をよく思っていなかったはず。

現にお世話の中心は、全部ユウナギだった。

まるで、自分はしたくないというように……


「……確かに、いわれてみれば一理ありますね」


「ほらやっぱり! 感情や意思がないなんて、そんなことないんだよ! アサカは気づいてないだけで、人間に近づいてるんだよ!!」


ほんの一瞬だけ、アサカの目が揺らいだ気がする。

それは本当にごく一瞬の出来事だったけど。

すると彼女は、自分の手で胸の辺りを掴みながら、静かに、


「……あなたは不思議なお方ですね。あなたが言うと、本当に人間に近づけているような……そんな気がします」


とつぶやいて……

はわ、はわわわわわわ………


「アサカ! 笑った!!!」


「……え……笑って、いましたか?」


「うん!! 間違いなく笑ってたよ!! ほら、やっぱりあるじゃん! 感情!!」


「……私が……? そんな、ことが……」


「あのね、私みんなとご飯食べたり、お話ししたりしたいんだ! 私が3人に話してくるから、アサカ参加してくれる?」


「……それはめい……」


「私が聞いてるのは、アサカがどうしたいか、だよ!」


時間はかかるかもしれない。

でももし、本当にあるというのならば、ほんの少しの可能性に私はかけたい。

この調子なら恋愛感情が芽生えても、おかしくないはず!!


「……かしこまりました、お嬢様」


よっしゃぁ、第一村人げぇぇぇっと!!

こうして私は、無事アサカを仲間にすることができたのです!


(つづく!!)

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