#6.娘が身内に誘拐詐欺されまして。
「わんっ!! ワンワン!!」
何か、声がする。
重い瞼を開けると、そこには見慣れない天井が広がっていた。
いやここにきたばっかりなんだから見慣れなくて当然だろ! なんて言われそうだが、明らかに共同ハウス内ではないことは分かる。
ええっと、ここはどこ? 私は誰??
たしか、ユウナギにおしめ変えてもらって、すっきりしたら眠くなっちゃってぇ……
「起きたか、リンネ」
聞きなれた、声がする。
大きな大きな犬のような、オオカミのような獣のそばにいたのはまぎれもなく魔王その人だった。
彼女は、顔すらろくに見えないフードを目深に被っている。
なぜ、彼女がここにいるんだろう。
さながら寝ている間に移動させられた、ってことか?
「ここは国の外れにある物見の塔、その昔に見張りのために作ったものだ」
「ぶ?」
「四天王には、お前が誘拐されたことになっている」
why????
「お前を助けるためには、さらった魔物……竜族、巨人族、半獣族。それぞれの実力者たちを倒す必要がある」
ええっと、つまり??
「ユウナギだけが世話をしていることくらい、我が気付いていないとでも思ったか?」
あ、やっぱり。これ罰って奴だ。
確か魔王は、私の世話を四人で仲良くやれって言ってた。
それがどっこい。みんながみんな、言い訳をつけてほったらかし。
あの後家にずっといたけど、誰一人として帰ってこなかったし。
やっぱさすが魔王だなあ。何でもお見通しってわけだ。
「心配せずとも、お前に危害を及ばすつもりはない。あくまでこれは、四天王による問題を解決するためだ。奴等がどう動くか、みてみるか?」
すると、彼女は大きな玉座に腰かけ、円卓にある水晶玉に手をかざす。
そこに映し出されたのは、無論四天王が住む家の中でー
『はぁ!? 誘拐!? あんたねえ! 何しでかしてくれてんのよ!!』
マヒルの荒げた声が聞こえる。
水晶越しでも、彼女がおこっているのは目にわかった。
『娘は預かった。返してほしければ、物見の塔にて、四天王の強さをみせろ……なるほど、私たちを四天王と認めない下郎たちの仕業ですか』
『悪あがきにもほどがあるわね。こんなことして、魔王さんにバレたら懲戒ものなのに」
『……わ、悪い……オレがしっかり見てれば、こんなことには……』
『悔やんだってしょうがないでしょ! ったく、めんどくさいわね。さっさと行くわよ!』
てっきりユウナギが先陣を切る、そう思っていた。
しかし行く、と一目散に言ったのはマヒルだ。
意外に思ったのは私だけじゃないのか、サヨが理解できないとばかりに声を上げた。
『あなた、子供の面倒嫌がってたじゃない。この期に及んで、あの人の好感度でもあげるつもり?』
『はぁ!? どうでもいいわよ、そんなの! あたしより弱い連中に四天王の座を奪われるのだけは、絶対に嫌なの!! あんたはいいの!? 散々馬鹿にされた連中が、あたしたちに指図してくんのよ!?』
『……確かに、いい気分はしないわね』
『オレもお嬢を助けたい……みんな、ここは協力してやってみないか?』
『……それが命令というのでしたら』
四人が、うなずきあいながらそれぞれの武器を取りに戻っていく。
その光景に、私が一番ついていけていなかった。
あんなに言うこと聞かなかった三人が、こんな簡単に立ち上がるとは。
傍から見たら、仲が悪いなんてわからないくらいで……
「まさか助けに来てくれるとは思わなかった、そんな顔をしているな」
まるで私の思っていることがわかっているかのように魔王が言う。
彼女はこうなることすら予想通り、とばかりに表情の一つも変えていなくって……
「ああ見えて、根は優しい奴等ばかりなんだ。やり方がわからなくて、戸惑っているだけでな」
「……うー」
「案ずるな、我が選んだ器だ。そう簡単にやられなどしない」
そういいながら、彼女は優しく私をなでてくれる。
ああ、信頼されてるんだ。彼女たちは。
なんて綺麗で、羨ましい関係なんだ……
魔王がこんなことまでしてやるのは、彼女たちの力や性格をわかっているからこそだろう。
私が知らないだけで、四人と彼女には見えない絆でつながってるんだろうなあ。
……とはいえですね、もうちょっとわかりやすくてもいいと思いますけどね!? 特にあの三人!
ツンデレにしたらツンが多すぎるのよ! ツンが!
『まってたぜぇ、元四天王。お前らの命、頂戴する!!』
なんて言ってるそばから、戦いは始まっていた。
竜のような頭と体を持つ戦士が、剣を振り回して彼女たちに近づく。
って本物の剣じゃね!!?
いくら罰とはいえ、同じ魔族内でやりあうなんてひどいわ! あんまりよ!!
あまりにたえきらず、思わず目をつむってしまうー
『うっさいわよこのざこがぁぁぁぁぁぁぁ!』
……ん? なんかすっごい物騒な叫び声が聞こえたような……
恐る恐る目を開けてみると、そこには大きな大きな斧をぶん回し、自分より遥かに大きな竜族へ太刀打ちしていた。
その姿は、まるで誰にも負けないと思うような、気迫に満ちていて……
「そういえば、お前は初めてだったな。あの四人が戦うのを見るのは」
「ぶー! ばぶば!」
「マヒルは戦士でもあり、誇り高き鬼族の一人だ。ありとあらゆる武器を使いこなせるだけでなく、戦闘値は四天王の中でトップクラスだ。最強を目指すあまり、我にもとってかかってくるが」
あ、あの子鬼なんすか!
ほへえ~どうりで怖いわけだ。おお、おっかね。
すると次は、ケンタウロスと呼ばれた魔物が何やら詠唱のようなものを唱え始めていた。
『業火の炎をくらえ! 俺様のターン!!』
めちゃくちゃやばそぉぉぉぉな炎の塊が、アサカに命中する。
って! 身内に遠慮なさすぎん!?
『たかが半獣族の魔法に、私が倒れるとお思いとは。片腹痛いですね』
明らかに命中した。明らかにくらった。
そのはずなのに、彼女は炎の中から普通に歩いてやってくる。
しかも、傷ひとつなく。
すると次の瞬間、アサカの腕の中から銃器がでてきて……って何事!!!?
『私をあなどると、痛い目に合いますよ』
腕は銃器、足から弾丸、次々に物騒なものがでてきては相手に銃撃する。
相手はちょこまか逃げているというのに、百発百中とばかりに容赦がない。
あ、あかん、早すぎてみえへん……
「アサカの冷静な情報判断と、知識の豊富さは四天王随一ともいえる。僧侶ではあるものの、体には機械が埋め込まれているため、戦闘も容易いらしい」
えええええ!? サイボーグってこと!? じょ、情報過多よ、ママ!!
ていうか重重戦闘シーンになるはずなのに、全然ちっともシリアスじゃないの何故?!
『どいつもこいつも弱いナ。全員まとめて、踏みつぶしてやル』
そんな私を置いてくかのように、巨人族が大きな金棒を構える。
しかもその下にいるのは、なんとも部が悪いユウナギだ。
いやいや、さっきから可哀想すぎない? なんて思っているが矢先、彼女の周りからたくさんの魔物達が湧いて出てきて……
『お前ら、遠慮はいらねぇ。とことんやっちまえ!!』
持っていた杖の先が、緑に発光する。
それに応えるかのように、魔物達が巨人相手に突っ込んでいく。
あんなに大きさがはるかに違うというのに、実力の差はかなりのもので……
「ユウナギの実力は下の方だが、魔物や動物の声を聞き召喚できる、獣使いとして唯一無二の人材だ。魔力こそないが、いざという時は頼りになる。あの3人なら、すぐここに辿り着いてしまいそうだな」
ほ、ほぇぇぇ……
なんか、あの、これ何のアニメですかね??
四天王だけで強すぎん?? どこのチート系ですか。
もしかして私、とんでもねぇ集団に関わってるんじゃ……
「そこまでよ」
そんなことを思ってる矢先、だった。
魔王のフードに、短剣の先を向けている人がいた。
そばにいた狼が、警戒するように唸っている。
いつから、そこにいたのだろう。
後ろにいたのはまさかのサヨで……
「こんな馬鹿げた真似してどういうつもり? 魔王さん」
「………よく我だとわかったな」
そういいながら、彼女はフードを取る。
って今はそれどころではない!!
おおい、みなさん! 一大事! 一大事ですよ!
サヨが……サヨヨが立ってる! うわぁぁ!
「人間になれる上、シーフで身軽なお前には、あの程度容易だったか」
「あれで防衛してるつもりなら、もう少し気をつけたほうがいいわよ」
え、シーフっていった!? シーフって確か盗賊やん!
ギャップ萌えすぎる!! すごいな、四天王!!
「我の目に狂いはなかった。貴様らを、四天王に任せてよかった」
「……何? 急に」
「どぉりゃぁぁぁぁぁ!!」
と、途端にドアがこじ開けられる。
しかも斧で木っ端微塵に破壊されて。
その先には、今まで戦っていた三人がいて……
「そこまでよ親玉!! ここであったが100年目、息の根を……って、ディアボロス!? なんでここに!?」
「主様、こんなところでお会いできるとは……」
「こ、これは一体どういうことですか、マスター」
三者三様、それぞれの反応をかわす。
それを見ていたサヨが、はぁっとため息をつく。
「まんまとはめられたみたいよ、うち達」
「はぁ!!? 何よそれ! どういうこと!?」
「赤ん坊の無事を確認。どうやら、作戦成功ですね」
「な、何はともあれ……無事でよかった……」
ユウナギがそっと撫で下ろし、マヒルがキレ散らかし、アサカが冷静に分析し、サヨがため息をつく。
この四人は、性格も見た目も全然違う。
なのに一つのことを共にやると、こんなに連携できるのかと思う。
見た感じ話し合いとか、何もしてないようだったし、戦闘シーンは出来上がった映像でも見ているかのような阿吽の呼吸だった。
綺麗で、美しくて、強くて、かっこいいって
やっぱこの四天王最強すぎん!!!? ぜっっったい仲良くなりたい!!!
「これでわかったか? 我がその気になれば、四天王の座を剥奪できる。改めていうが、リンネをしっかり一人前に育てろ。もちよん、4人仲良くな」
うんうん、そうだぞ。うちのママは最強なんだぞ。
身内でさえ容赦なぁく攻撃したり、娘すら誘拐詐欺をしてしまう。
いいか、魔王ってのはな、誰もが恐れる存在で……
「面倒は気が向いたら見てあげるわ。で、も!! こいつと仲良くするのはぜっっっっっったい嫌!!!」
「馴れ合いは嫌いなのよね。じゃ、終わったから帰るわね」
「任務も終わりましたので、私はこれで失礼致します」
「お前ら、いい加減にしろよ……」
と、思ったんだけど。
それはまだまだ先みたいです。
おつ!!
(つづく!!)
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