#5.お待たせ♪ ちょっと長めの四天王紹介!
ゴーンゴーンと、時計の鐘の音が聞こえる。
差し込んでくる眩しい光に、思わず目を開けたくもなくなってしまう。
「あ、お嬢。おきたか?」
そんな私のすぐそばに、黒髪ボーイッシュちゃんがいた。
えーっと、あれ?? 私、いつのまに寝たっけ?
無事にミルクを飲めたものの、全然構ってもらえないから、泣きまくってた記憶しかない。
赤ん坊が泣き疲れて眠る、というのは本当らしい。
精神的には大人なのに、赤ん坊の運命には逆らえないらしい。
いやぁ、不便だわぁ……
「昨日はごめんな。ずっと泣いてばかりだから、疲れただろ? あ、自己紹介してなかったよな。オレはユウナギっていうんだ。わかるか?」
彼女ーユウナギは、私の頭を撫でながらほほ笑む。
私がつけたあだ名の通り、黒髪のロングヘアがさらりと伸びた少女である。
この前と違うのは、着物を思わせるような私服を着ていることだろうか。
そこまでは、別にいい。
ボーイッシュなのは口調だけかなぁって思ってたのに。
今この人、オレっていいましたよね!!?
見た目に反しての男っぽさ!! しかも昨日の感じ的に、めちゃくちゃいい人じゃないですか!!
何このギャップありまくりぃな女子!! 好き!!
「今日はオレが世話担当なんだ。よろしくな」
「うーー!」
「ご機嫌だな。ここが、今日からお嬢の暮らす家だ。マスター……あ、お母さんは仕事で忙しいから、基本的にはここに帰ってくるから覚えとけよ? 一応、他の四天王も暮らしてる、シェアハウスになってる」
女性同士のシェアハウス、だとぉ!!?
それを聞いた私は、改めて目線を泳がせてみる。
間取りに詳しくはないから私なりの解釈だけど、ざっと4LDKは妥当だろう。
リビングであろう部屋には対面キッチンもあり、自然を感じられるようになのか、浅い水面(水盤というらしい)がリビングにある。
廊下を介して各々の部屋があるので、見た感じかなりいいお家だ。
ってことは一つ屋根の下で、女の子たちがキャッキャウフウフしてるってことやん!!
てことは、あんなことやこんなとこがみれたり!!?
「つっても、オレとアサカの二人くらいしか、あんまり使ってないけどな。世話は当番制にしようとかで、やむなく押し付けられるとは……マスターにバレたらなんて言い訳しようか……」
なぁんてことは、今んところ見られないようで……
周りを見渡すと、確かに部屋は人数分あるものの人の気配が感じられない。
強いて言えば、台所から音が聞こえるくらいだ。
まあなぁ、昨日のあの感じ的に、お世話される気がしねぇとは思ってたけどさぁ。
「そういや、三人のことも紹介しないとか。よし、ミルクもらったらちょっくら散歩するか」
そういいながら、私をヒョイっと抱える。
人間ですら重っ、とかいうのに、こぉんな華奢な子がいとも簡単に抱えてしまう。
これが異世界か……見たとこ、めっちゃ人間っぽいけど、この子も何らかの種族なのかな?
「おはようございます、ユウナギ様。朝食の用意できましたよ」
鈴のような、声が聞こえる。
台所から出てきたのは、法衣を着た無表情敬語口調ちゃんだった。
彼女は私に気づくと、ああと思い出したように、
「初めまして、赤ん坊さん。
と若干バカにしたような言葉を述べた。
まるでメイドのようなと礼儀正しさをもつ彼女ーアサカは、私のような子供にも敬語を使って話してくれる。
その見た目や口調に反して、どこか毒を含んだような、悪い言葉しか聞こえてこない。
ていうか、なんだろうこの鼻を刺すような匂い……アサカのミルクから匂うような……?
「こちら、朝食用のミルクです。主様からいただいた本の通りに作りました」
「……おい、これ毒入ってるだろ。すんげー変な匂いするんだけど」
「多少匂いはいたしますが、即死性なので苦しまずにポックリ天国へ逝くことができますよ」
「そういう問題じゃねーんだけど……マヒル達に何か言われただろ」
「その赤子は主様のお手を煩わせるもの。ならば世話しなくてすむように、いっそのこと殺してしまばいいと命令されました」
そういうアサカの顔は、なんの感情すら読み取れない。
ざ、真顔! 一切口元が緩むことなし!
毒を本当に入れちゃうなんて、赤ん坊にすることかぁ? ひぃ、おっかねぇ〜
「あのなぁ、命令されたからってしちゃ悪いことがあるだろ。お嬢を殺したりなんかしたら、それこそマスターに怒られるぞ?」
「……確かに一理ありますね。私としたことが、迂闊でした」
「で、他の二人は?」
「それぞれいつもの場所だと思います。行かれるのでしたら、お二人に朝食を運んでくださいませんか? 私は主様のお世話という大事な用があるので」
そう言いながら、ぺこりときれぇぇいなお辞儀をする。
あれれー? 目の前にこんな可愛い子供がいるのに、お母さんにいっちゃうの??
おかしいなぁ、私の世界じゃ子供なんてみんなに愛されるもんなのに。
そんなことを思っているとは知らないユウナギは、私を抱えて外へ出る。
家の外である城下街は、私の知ってる人間界と何も変わらない世界だった。
桜のような花が満開に咲き、建物や施設でたくさんの人が賑わっている。
みたところ、普通の人間もいるようで、行く道中にみかける人は私の前世と全く変わらない。
変わったところと言えば、獣人、エルフ、竜人など、ちらほら異種族がいること。
いやぁ、改めて思うけどほんまに転生したんやな自分!! やっぱ転生ってすげえ!
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
しばらく歩くと、石や岩に囲まれたさながら山のような場所に辿り着く。
そこはまるで広場のような場所で、木で作られた人のようなものがたくさん置かれていた。
それを勢いよく、バッタバッタと切り倒している彼女の姿があって……
「あ、いた。おーい、朝飯持ってきたぞー」
普通なら声をかけるのも躊躇いそうなところに、彼女はお構いなしとばかりに声をあげる。
ピンク色のハーフツインテールが、ゆらりと揺れる。
あ、この子勝ちっ気ツインテちゃんだ。
彼女は声に気づくが否や、邪魔とばかりに私達のことをギロリと睨みつけてくる。
「誰かと思ったら、ユウナギじゃない。朝食はいらないって言っておいたはずなんだけど」
「ほら、食わないと体に毒だろ? それに、お前らお嬢に挨拶すらしてないと思ってさ」
ユウナギの言葉に、ようやく彼女の視線がこちらを向く。
今まで気づいていなかった、とでもいうようにたちまち顔色が曇ってゆく。
「あんたまだ生きてたの? てっきりアサカに毒薬盛られて死んだと思ってんだけど」
「ご心配なく、されかけたんだよ。誰かさんのせいでな」
「あら、残念。知らないふりして食べさせればよかったのに。あんな魔王に媚び売るなんて、あんたも大変ね。あたしはマヒル、悪いけどあんたの世話をしてる暇はあたしにはないから。こんなガキ見るくらいなら、鍛えた方がましよ」
そういうと、彼女は朝食と言われたものをかっさらって行ってしまう。
よくよく見ると、小さな容器一つだけで、それを飲み物のように口に流し込む。
さながらエナジードリンク、といったところだろうか。あんな少量でよく足りるなあ。
「さて、残りはあいつか……ちょっと歩くぞ」
なんて思いながら眺めている間もなく、ユウナギは私を連れて街の外へと歩き出す。
街の外にも異種族がたくさんいて、ほとんどの視線が私に向いている気がする。
とはいえ、話しかけるとか、襲ってくるとかまではされなかったけど。
彼女が四天王だからこそ、なのだろうか。
みんな、警戒するように彼女に近づこうとしなくて……
「サヨ、いるか? 朝ご飯、持ってきたんだけど」
街の外を歩くこと15分。
たどり着いたのは、森の奥。そこには、大きな滝が流れていた。
湖の水は青に澄んでいて、その綺麗さも相まってどこか神聖ささえ感じる。
さながら、妖精とか住んでそうな、神秘的な場所でー
「わざわざご苦労ね。そんな子供、捨ててしまえばいいのに」
声が、する。
瀧のそばにある石の上、大きな尾ひれがゆらりと揺れる。
青い髪をした、おすまし系人魚ちゃんだった。長いみつあみが、湖の水にまでつかっている。
かぁーー! やっぱり人魚はいいね! 綺麗!!
「そんなことされたら剝奪どころじゃねーだろ。たまには家にもいろよ。せっかくマスターが部屋を水中に作ってくれたり、水盤を設置してくれたんだぞ?」
「騒がしいの苦手なのよね。うちには、ここが一番住みやすいのよ」
「気持ちはわかるけど、わざわざここまでくるオレの身にもなってくれ……あ、お嬢。こいつがサヨ」
「子供に言ったところで、理解できるわけないのに……あなたもよくやるわね」
呆れたように言う彼女―サヨは、朝食と呼ばれたものをユウナギから受け取る。
彼女が持っているのは、何とも硬そうな石そのもので、それを躊躇なく口に入れる。
に、人魚って石たべるの!? 初めて知ったんだけど!!
「ま、せいぜい頑張ってね。じゃ」
「あ、おい……! ったく、相変わらずだな」
会話のかの字すらかわすことなく、彼女は水の中へもぐってしまう。
この中が、人魚の住処になっているのだろうか。
いいなあ、めちゃくちゃファンタジーっぽいなあ。いつか中にいってみたい!!
……と、そんなことはさておき。
これが私を育ててくれる四天王かぁ。
なんかさぁ、文句言うわけじゃないんだけどさぁ、もうちょっと可愛がってくれてもよくない?
まあね、わかるよ? 赤の他人の子供を育てたくないってことは。
だけどこぉんなあからさまに嫌わなくてもよくない?? せっかくこっちは異世界ライフを楽しんでいるのに!
まっ、そんなことで諦める私ではないけどね!
彼女たちに好かれて、百合ライフを楽しめるその時が来るまでがんばりまっす!
‰
リンネが、泣いている。
彼女ーディアボロスは寝室で一人、映像を見守っていた。
我が娘が今、どこで何をしているか。彼女の面倒を、誰が見ているか。
映し出されるのは、現時点でのシェアハウスの様子。そこには、ユウナギしか映っていない。
おそらく他の3人が、仕事や私情で押し付けた結果だろう。
やはり彼女達に任せるのは、早すぎただろうかー
「なぁにその顔は。かっこいいのが台無しよ?」
途端、自分の顔に柔らかな感触が走る。
さっきまで寝ていたはずの彼女が、自分に向かって笑いかけていた。
彼女は自分の手で、頬の部分を撫でるように触れる。
その笑みや顔は、どこかリンネと似ていてー
「……起こしてしまったか。体はもう、大丈夫か?」
「もぉ、心配しすぎ。いっぱい寝たから大丈夫よぉ。やっぱり、きになる?」
「……あの四人には欠けているものが多すぎる。四天王としての自覚は愚か、一人の人間としても未熟な点が多い。お前の提案とはいえ、幼い子を親元から離してよかったのか?」
「あらあら、ディアちゃんはリンネちゃんのことが大好きね。お母さん、妬いちゃうわ。大丈夫、あの子は普通の子とは違うもの。だから、あの四人に預けたのでしょう?」
「それはそうかもしれんが……」
「じゃあ、こういうのはどお?」
そう言いながら、彼女はディアボロスに耳打ちをする。
聞かされた言葉に思わず耳を疑いたくなったが、彼女はいつも突拍子もないことを言い出す。
かつて赤子が、生まれてすぐ命がないと分かった時もー
「先が思いやられるが、試してみる価値はあるな」
そういうと彼女は、パチンと指を鳴らす。
同時に、リンネがいる映像に三つの影があらわれた。
ケンタウロス、竜人、巨人。それぞれ種族も、見た目もバラバラだ。
ちょうど席を外していたのか、そこにはユウナギの姿はなく、とてもぐっすりリンネが寝ていて……
「これか? 盗んでこいって言う例のブツってのは」
「ああ、違いねえ。しっかしあの魔王はよくわかんねぇなぁ。いくらいうことを聞かないからって、こんなことを頼むかね普通」
「この子供、すげー可愛い。おれ好き」
「いいじゃねぇか、ちょーどあの四人には、腹たってたとこなんだ。ひと暴れさせてもらおーぜ」
三匹の魔物たちが、そうっと彼女をさらっていく。
音もなく、静かに。
ユウナギが台所から戻ってきたその時には、彼女―リンネの姿は、どこにもいなかったのだー
(つづく!!)
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