#4.四天王のクセが強すぎる!!

きまずい、と言うほかない沈黙が続く。

手や足を動かすことしかできない私は、この場をどう乗り切ろうか考えていた。


現在私は、魔王城の入ってすぐにある広い広ーい玄関ホールにいる。

どうやら私は、本当に異世界にいる魔王の娘、リンネに転生したらしい。そこまではわかった。

そして彼女達が、四天王と呼ばれるRPGでいうところのボス戦前の砦ということも。


「……さいっあく。なんであたしが、赤の他人のガキを見なきゃなんないのよ」


真っ先に沈黙を破ったのは、戦士っぽいハーフツインの子だった。

それにしても、この子達名前なんていうんだろ。

私が赤ん坊のせいか、名乗ってすらくれないし……

よし、ここはわかりやすくあだ名をつけよう!

この子はみたとこ気が強そうだから、勝ちっ気ツインテちゃんだ!


「文句言ってても仕方ないだろ。マスターのことだ、ガチで剥奪されかねねーぞ」


「知らないわよそんなの! あたし達がいなくなって困るのはあいつの方でしょ!? あたしはあいつの駒でもなんでもないってのに……!」


「気に入らないなら、やらなければいいじゃない。もっとも、あなたにできるとは思えないけど」


「なんですって!?」


噴水の中に尾鰭を浸かした人魚の子ーおすまし系人魚ちゃんが、馬鹿にするように鼻で笑う。

その瞬間、ぎろりと睨むように勝ちっ気ツインテちゃんが彼女の方へ詰め寄っていく。

あ、あかん、ここは私が……!


「ぎゃぁぁぁ!! ぴえええええん!!」


必殺!! 赤ちゃんならではの泣きじゃくる攻撃!!


「ちょっ、何このガキ! 急に泣き出したんだけど!」


「うるっさ……早くなきやましなさいよ」


「な、なんであたしが!!」


「喧嘩してる場合かよ! この声量じゃ、マスターにばれかねねーぞ!」


男っぽい子ー黒髪ボーイッシュちゃんが、二人を一喝する。

そう、私の狙いはそこにあるのだ。

わんわん泣いていれば、魔王の耳にも届く。

つまり彼女達にとってまずいというほかない状況であり、嫌でも私をどうにかしようとするはず。


あの魔王は仲良くやれ、と言っていた。今のを見る限り、彼女達はおそらく仲がいいとは言い難い。

私を育てるのが、四人の主な役割!

そのためには泣いて泣いて泣きまくって、協力しなきゃってことをわかってもらわねば!

そもそもお腹空いたんだよね〜なんか食わせろー!


「状況から察するに、赤ん坊は怖くて泣き出してしまったに違いありません。資料によれば、高いところに持ち上げれば泣き止むようです」


「そ、そんなこといわれてもどうしろってのよ!」


「情報を分析した結果、一番良い方法を編み出しました。ここはわたくしにお任せください」


紫のショートカットの女の子ー無表情敬語口調ちゃんが、私の両脇を抱き抱えてくれる。

お? これは、人間で言うとこの「たかいたかーい」ってあやしてくれるパターンかな??

正直私がほしいのは、そういうのじゃなくご飯なんだけど……あやしてくれるなら別にいっか。

……なぁんて思ってたのに。


「さあ赤ん坊さん。行きますよ。たかいたかーーーーーーーーーーい」


視界が目まぐるしく変わっていく。

天井、空、宇宙……

……ん? え? いやここどこやねん。

ちょっと高くあげられるだけかと思ったのに、天井はおろか空をも軽く越え、宇宙まだ見えたような……


「ご覧ください、泣き止みました」


「いや、飛ばしすぎだろ。絶対驚いてるだけだから。大丈夫か? 天井に頭ぶつけてないか?」


うん、不思議なことに全然大丈夫だわ。

地球に似た星が赤かったあたり、やっぱここは異世界なんだなぁ……

なんて思ってる場合じゃねえだろ私!! お腹空いてるのにはかわりねぇやんけ!!


「ぴぇぇぇぇ、うぇぇぇぇ」


「また泣き出しましたね……お腹が空いてるのでしょうか? 資料によれば、赤ん坊のご飯はミルクや母乳を与えるようです」


「そんなのでいいの? なら、そこらへんの魔牛狩ってくるから、自分で食いなさい」


………ん?


「ミルクって、牛乳の事? 家の冷蔵庫入ってるのじゃだめなの?」


んん???


「母乳は胸から出る、と聞きました。であれば四天王一胸がでかいこの私の母乳を……」


「……み、みんな落ち着けって。今言ったやつ、全部やっちゃいけない例だから……」


あ、だめだこの人たち。

牛から直接とか、冷蔵庫の牛乳とか……聞こえてくる単語が、論外すぎる。

もしかしてこれ、ご飯もろくに食べれないパターンか?? え?? 私死ぬ??


「えっと、ミルクは粉ミルクってのを使うらしいな。とりあえず店に行って調達しねぇと……」


「はぁ!? ガキの癖に注文多いわね! 時間の無駄ね。あたし、降りるわ!」


「は? ちょっ」


「夜ご飯の時間になりました。主様のお世話があるので、先に失礼します」


「魔王さんには、あなたからうまく言っといて。じゃ」


「おい、お前ら!」


黒髪ボーイッシュちゃんが叫ぶのも、聞こえていないというように三人は去っていく。

残された彼女は、勘弁してくれとばかりに深いため息をつく。


うん、なるほど。こりゃ私詰んでるわ。

魔王よ、この四天王が赤ちゃんを育てるのは、現時点じゃ無理じゃないっすかね!


とはいえ、ここでめげたり、異世界転生最悪ぅとか思わないのが私という人間である。

なぜなら私は、三度の飯より女子が好き!

可愛くて美しすぎる女の子達たちと同じ空気を吸えるだけで幸せを感じる生き物!!

そして何を隠そう、女子同士の恋愛、いわば百合といわれるものが大の好物なのだ!!


女の子同士の恋愛こそ正義! 女子しか居ないアニメやゲーム作品は傑作そのもの!!

現時点じゃ、この四人は不仲だし、そんなフラグは一切ない。

しかし、一緒にいれば何かしらあるに違いない!!


例え嫌われてても、無理ゲーすぎる状況でも、私はめげない。

どこかに落ちてるかもしれない、百合のため!

今ここに、四天王と仲を縮めよう作戦を決行する!


(つづく!!)

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