第43話

 明日の予習をしていると、静夜に声を掛けられた。

「そろそろ帰りますよ、三峰さん」

「はい、わかりました」

 ノートをスクールバッグにしまって、立ち上がる。

「それでは先生、失礼します」

「はい、気ぃつけてな。三峰は今日言ったことを忘れんように」

「はい」

「今日言ったこと?」

 静夜に問われ、うっと詰まる。

「月岡には関係ないよ。さぁ帰り」

「そうですか。さようなら」

「さようなら先生」

 帰り道、旭は静夜の右手の人差指の絆創膏を見ながら口を開いた。

 ひとつの疑念があった。

「静夜さんにとって、恋愛感情とはなんですか?」

 静夜さんは恋愛感情を理解していないのではないかと。

 だってそうじゃないとあんなに甘いわけがない。

 静夜が自分にしてくれることが、誰にでもしていることじゃないのはわかっている。

「わけのわからないものです」

 やっぱりわかっていないじゃないか。

「わかっていないままわたしを振ったんですか?」

「だから最近はずっと僕に恋愛感情をぶつけてくるあなたについて考えています」

「ちなみに恋愛とは?」

「わけのわからないまま進行していくゲームのようなものだと認識しています」

「なるほど。じゃあわたしはそのゲームの駒を勝手に進めておきますね」

「うーん」

 先輩はまた唸った。

「好きです」

 うっとりと告げると、先輩は困ったような顔をした。

「その気持ちには応えられません」

「はい」

「諦めてはくれないんですか」

「友人としての責務は全うするつもりです」

「そうではなく――」

「あっ、お家に着きましたね」

 決定的な言葉が怖くて旭は静夜の言葉を遮った。

「今日も送ってくれてありがとうございました」

「……いいえ」

「それではまた明日」

「はい、また明日」

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