第34話

 とうとう学園祭の日がやってきた。この日まで無論吸血行為は続けられている。あの日のような強烈な食欲は収まっているが、毎日の吸血が無いと誰彼構わず襲ってしまいそうで怖かった。

 昨日の前夜祭は無事終え、本祭一日目である。生徒会の腕章をつけて高等部以上の生徒会は見回り業務を行う。申請と違う点はないか、危険はないか、営業中の展示や出店を確認して回るのだ。

 だから旭はクラスの展示には参加できなかった。これは一年の頃からそうだったので慣れてはいたが、旭のクラスはお化け屋敷をやるとのことだったのでちょっと顔を出してみようと思っていた。

 自分のクラスである三年三組をちょっと覗いてみる。

「おーい、ちゃんとやってるかー?」

「あっ旭だ!」

「会長休憩何時?」

 途端にクラスメイトが尋常じゃない様子で群がってきた。

「え? 午後二時からだけど」

「その時間うちのクラス来てよ! 生徒会長が出るお化け屋敷! これは売れる!」

「いや別に生徒会長は珍しいもんでもなんでもないでしょ」

「頼むよぉー」

「休みはきちんと取るように静夜さんから言われてるの。だからだめー」

「ケチ! 生徒会長!」

「はいはいケチですよー」

 旭は裏側に回って、脅かし役が危険な足場に立っていないか確認した。

「裏オーケー。じゃあ気をつけて、頑張って驚かしてね」

 書類にチェックをつけて、旭は教室を出た。

 その調子で自分の担当である棟を確認し終え、実行委員詰め所に報告に行った。

「高等部棟オーケーです」

「了解。放送流します」

 どうやら確認は旭が最後だったようだ。

 放送室に向かったのは高等部一年の放送担当委員である。

 数分が経ち、午前九時。放送が入る。

『只今より、氷鷹学園学園祭を開催致します!』


 文字通りお祭り騒ぎの校内を、生徒会の腕章をつけて歩き回る。美味しそうなたこ焼きやお好み焼き、わたあめなどを見るが旭には一般的な人間の食べ物に対する食欲が無い。美味しいんだろうなあ、と思うだけである。

「あの、すみません」

「はい?」

 声を掛けられ、旭は振り返る。

「三年三組の展示ってどこですか?」

 そこに立っていたのは旭の両親だった。

「お父さん、お母さん」

「旭は展示には参加しないの? 折角お化け屋敷なんだからゾンビでも貞子でもやればいいじゃない」

 背筋がヒヤッとした。ゾンビだってバレてないよね。

 旭は誤魔化すように笑った。

「ええ、やだよ。ピンク髪の貞子なんか出たら興ざめじゃん」

「えー、普通に出なさいよ。晴日のとこは焼きそばやってたわよ、慣れない手付きでコテ使ってて笑ったわ」

「お母さんは子供を笑いに来たの?」

「概ねそうね」

「んー、じゃあ二時半以降に三年三組に来て。休憩時間だけ潜り込めないか頼んでみるから」

「楽しみにしてるよ」

「ありがと、お父さん」

「あっ、十一時からの劇見に行きましょ」

「そうしようか。じゃあ旭、またあとで」

「はーい、楽しんでね」

 通りすがりの副会長、生田が尋ねてきた。

「今のって旭会長の父さんと母さん?」

「そうだよ。お母さんなんか貞子でもやれば? って言ってきたよ︙︙ピンク髪の貞子が居てたまるかって話だよね」

「ある意味ウケるかもな」

「怖がらせるなら怖がらせる方向に全振りしなくちゃ。あーあ、休憩時間が無くなったわあ」

「無茶すんなよ、こないだ倒れたって前会長が話してるの聞いたぞ」

「あー大丈夫、あれ以来身体に負荷がかかり過ぎるようなことはしてない」

 心配掛けてごめんね、と謝ると生田は全くだ、と返した。

「お前のこと心配してるのは前会長だけじゃないからな。俺とか、あと俺とか、――早見とか、秋田とかもみんな心配してる」

「そんなに頼りないかあ?」

「頼りがいがありすぎるから心配なんだよ」

「はは、ありがと」

「通じてんのか通じてないのか……」

 ため息をつく生田と別れ、休憩時間まで見回りを続ける。

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