第33話

 両手で顔を覆って、旭は恥じ入っていた。

「落ち着きましたか?」

「ごめんなさい……静夜さん。はしたない真似を」

「僕だったから良かったものの、他の人と一緒にいるときにこの症状が起こるのは困りますね」

「静夜さん相手でもほんとうはしたくなかったですよ︙︙」

「これから土日を除いて一日に一回、念の為に給血しておきますか」

「そ、そこまでお世話になれないです。友達とかに頼みます」

「……いえ、僕がやります。他の人にはこの役は務まらないと思うので」

「は、はぁ……そうでしょうか」

「そもそもあなたがゾンビであると識っている人間は少ないのですから」

 静夜は旭のスクールバッグを持って立ち上がった。

「あ、かばん……」

「さっきまで倒れてた人に持たせられませんよ」

「あっありがとうございます恐縮です……あ、家で片付ける書類だけ入れて」

「今日は課題以外しないでください。課題が終わったらベッドで横になって目を閉じているように。眠れなくても身体と脳が休まるそうです」

「調べてくれたんですか?」

「︙︙偶然知っていただけです」

「そうですか……」

 翌日、文化祭実行委員長から頼りすぎた旨の直接の謝罪と、書類の再分配が為された。

 おそらく静夜が何か言ってくれたのだと思う。

 そして、その日も放課後誰も居なくなった生徒会室で静夜と旭は密会し、吸血行為を行った。人差し指の先にかぶりつく旭は紛うことなく怪物だったが、どこか耽美さを纏っていた。戀しいひとの血の味は、まごうことなく美味だった。

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