第30話
氷鷹学園は進学校であるため、例年学園祭は七月の第一週の土日に行われる。中学・大学とも合同で行うため規模が大きい。旭も生徒会長として学園祭を回す立場であった。
高等部の第一会議室よりも広い大学の会議室に、中学から大学までの実行委員が揃った。旭は体育祭のときとは違い、壁際ではなく、実行委員長の隣に座っている。体育祭とは規模が違いすぎるので生徒会も手伝うのだ。
実行委員の中に静夜の姿を見つけ、気合が入る。旭はどんな人混みの中でも静夜を見つけることができるという特殊能力を身に着けていた。
「それでは学園祭実行委員長、着任の挨拶をお願いします」
大学の学生自治会の会長がそう言うと、旭の隣の大学生が立ち上がった。
それからは主に役割分担が行われた。高等部生徒会は予算の計算と当日見回り担当、生徒自治会は四方八方から飛んでくる要望書を捌き当日は高等部と共に見回り、中等部は高等部実行委員・大学実行委員からは切り離して自分たちだけで学園祭を回してみることになっている。ヘルプが欲しくなれば高等部生徒会に回ってくる。例年そうだった。
生徒会は基本的に面子が変わらないので、中等部の一年や外部生を除き手際が良く、なれたものだった。
「旭会長、看板に使っていいベニヤ板って何枚まででしたっけ」
「予算内であれば何枚でもいいよ。あ、でも他の出店の邪魔にはならないように」
「旭先輩、書類の書き方がわかりません」
「んー? ああこれはね、こうやって書くんだよ」
旭がさらさらと代筆して中等部実行委員に渡す。
「旭会長、ついでにこれも」
自分に割り振られた仕事に就いていた旭は中等部実行委員や高等部実行委員、果ては大学の実行委員からも仕事が飛んできててんやわんやだった。
結局質問された書類は旭がやった方が早いということになって、旭が処理する書類が倍になった。
まあ他の人に任せるより自分がやった方が早いし、いいか。
旭はどんどん回ってくる書類を次々に処理しつつ、そんなことを考えた。
「――みねさん、三峰さん」
その声にハッとして顔を上げる。
「静夜さん! 気が付かなくてごめんなさい、どうしましたか?」
「もう八時半になりますよ。そろそろ帰りましょう、施錠されてしまいます」
「えっもうそんな時間なんですか? じゃあこの書類は持ち帰りだな」
「それ、全部三峰さんがやってるんですか?」
「え? はい、そうですよ」
旭は書類を種類ごとにクリップでまとめてクリアファイルに突っ込んだ。
静夜は眉をひそめた。
「量がおかしくないですか? 高等部生徒会は基本的に書類仕事は行わず、実行委員が行うはずですが」
「ああ、そうなんですけど、問い合わせが多すぎて対応に困った結果、わたしがやった方が早い、となり……」
「過労で倒れますよ」
「倒れませんよ、ゾンビなんですから」
「あなたはゾンビステータスを過信しすぎです。何の生態もわかってないんですからね」
「そうですけど」
「何かの拍子に死んでしまったらどうするんですか」
それだけは無い。
「それは大丈夫です」
「なんでそんなに自信があるんですか?」
「黒魔術を使ったときに、そういう契約にしたんで」
「どういう契約ですか?」
「それは教えられません」
教えたら恋と命が終わる。
「……まあとにかく、無理はしないように」
「はい、ありがとうございます」
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