第25話

 誰も居ない教室に入り、昨日の夜できなかった分の勉強をする。ちらほらと同級生が入ってくる中、生田の姿を見つけて旭は立ち上がった。

「生田」

「何だよ」

 旭はがばっと生田の手を握った。

「!?」

「生田、ごめんね」

 生田はめちゃくちゃ動揺しているように見えた。

「な、何だよ、どうしたお前」

「身に沁みた、夜もう出歩かない」

「どうした、怖い目にでも遭ったのか? 平気か?」

「うん、もう平気……美少女でごめん……」

「そういうこと言うからわかってねえなこいつって思われんだよ。別に不細工でも俺は同じ注意してるからな」

「わかってるよ」

「本当か?」

「ほんとほんと」

「信用ならねぇー︙︙」

「仲直りしてくれる?」

「仕方ねぇな」

「ありがと! これでテストも頑張れそう!」

「お前のそういうところが︙︙」

 生田は眉間をぐりぐりしていた。旭は小首を傾げる。

「ん?」

「なんでもねえよ! 早く席に戻れ!」



「はい終了。答案後ろから前に送ってきてー」

 中間テストも最終日を迎え、すべての教科が終わった今教室内の同級生たちが一斉に突っ伏した。

「疲れた」

「大問五解けたやついんの?」

「わたしかな」

 生田の声に旭が平然と告げると、周りがどよめいた。

「生徒会長完全無欠かよ!」

「勤勉だからね」

 まあゾンビ化していなければ解けていなかったかもしれない。夜中に勉強ができるというアドバンテージを最大限に利用させてもらった。


 テスト採点のための休暇が訪れた。旭は早見と一緒に行きつけの喫茶店に行くことにした。氷鷹の細道である。

「あら旭ちゃんいらっしゃい」

「こんにちはー」

「お邪魔します」

「お友達も一緒なのね」

「はい」

 一番奥の席に通される。

 注文も終え一息ついてから、早見が切り出す。

「今回やけに勉強がんばってたけど、何かあったの?」

「一位取ったら先輩とお出かけ」

「まーた先輩絡みか。いい加減付き合っちゃえば?」

「いや無理……」

「じゃあ諦めれば」

「それも無理……」

「はっきりしろ!」

「はい、アメリカンとアールグレイ」

 タイミングよく飲み物が運ばれてきた。

「ありがとうございます」

 早見も旭も猫舌なのでしばらくしてから口をつける。

「そもそもあんたの先輩への感情って本当に好きなの? 憧れじゃなくて?」

「うわやっぱりその思考回路通る? でもちゃんと好きだと思うんだよね、看取りたいくらいには」

「激重巨大感情じゃん。好きで収まってないよそれもう」

「知ってる……」

「っていうか何回も二人で出かけてるんでしょ? デートじゃん」

「デート!? わたしは静夜さんとデートをしていたの!?」

「男女が二人きりで出かけてるんだからデートでしょうよ」

「馬鹿な!」

「なにを狼狽えている」

「先輩と後輩が二人で出かけてるだけだよ」

「静夜先輩も旭のこと好きだと思うけどなあ」

 そうであっては困るのだ。

「ううー……困る」

「何で?」

 話していいか。旭は早見を信頼していたので、自らの秘密を打ち明けることにした。

「誰にも話さないでほしい秘密を今から話すよ。驚かないで聞いてほしいんだけど――いや、驚いてもいいんだけど」

「何だよ。言ってみてよ」

「わたし、ゾンビなんだよね」

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