第24話

 生田と静夜の言葉を思い出しつつも、旭はまたも深夜息抜きに家を出た。やはり開放感が心地よい。ゾンビは夜に生きる習性なのだろうか、と思いながらコンビニまでの道を歩く。

 そう考えてみれば朝、陽の光が眩しいような。コンビニ途中の路地に差し掛かったとき、不意に右腕を掴まれて路地裏に引きずり込まれた。

 え?

 そのまま転ばされて、何が起こったのかと顔を上げると、見知らぬ男が立っていた。

 何?

 誰?

 男は何も言わずに旭の両手首を掴んだ。

 嫌だ、何をしているの。この人はわたしに何をするの。

 声が出なかった。

 ぐいっと両手を力任せに頭の上にまとめられそうになって、旭の左肩がもげた。

「あ」

「!?」

 男はそれを見て、自分が掴んでいた旭の左腕を投げ捨てるように手を放し、慌てたように――怖いものでも見たかのように路地から走り去っていった。

 旭は茫然自失した。生田が言ってたのってこういうことだったんだ、と頭のどこかで考えた。

 怖くて涙が出そうだった。出なかったけれど。

 スマートフォンを取り出して、躊躇いなく静夜に通話をかけた。

 三コールくらいで静夜は出た。

『はい、どうしましたか?』

「静夜さん、ごめんなさい、いま、外に居るんですけど」

『はい』

「変な人に捕まって、腕がもげたのを見てその人はもう居なくなったんですけど、……怖くて、怖いので、ごめんなさい、迎えに来てくれませんか」

『昼間言ったことがわかりましたか?』

「わかりましたぁ……」

『今どこにいるんですか?』


 静夜が迎えに来てくれたのはそれから十分も経たないくらいだった。

「静夜さんごめんなさい」

「身に沁みてわかったでしょうから僕からはもう何も言いませんよ」

「うう……」

「この辺りは治安は良いほうでしょうけど、それでも夜ですからね」

「夜って、怖いんですね」

「そうですよ。覚えておいてくださいね」


 静夜に送られて家に帰ると、父が出迎えてくれた。

「旭」

 その声が怒っていたのですぐに謝る。

「ごめんなさい」

「月岡くんもごめんね。わざわざ迎えに行ってくれてありがとう」

「いえ、彼女は大事な後輩なので」

「ありがとう」

「それでは僕はこれで」

「静夜さん、ありがとうございました」

 普段は優しい父からしこたま叱られ、懲りた旭は勉強のモチベーションがゼロになりその日はおとなしくパズルをして過ごした。

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