第20話
その後は内装がお洒落な喫茶店に入り、お互いコーヒーを頼んだ。この頃の旭は進んでは飲み物しか口にできなくなっていた。家での朝食はなんとか堪えてトイレまで吐くのを耐えているが、そのうち我慢ができなくなってしまいそうだった。
「最近大学の方はどうですか? 勉強は楽しいですか」
「一年の授業はつまらないですね」
「なるほど」
「三峰さんの方はどうです? 新生徒会はうまく回っていますか」
「上々ですね。面子もだいたい中学と同じ――ああでも一人外部生が入ってきました。三年の秋田くんですね。たいへん優秀で、秋田くんは三年で入ってきたのに書記をやってますよ」
「なるほど」
「あ、静夜さん見てください」
旭は腕まくりをして縫った箇所を見せた。
「ちょっと歪ですけど縫えましたよ。後ろ側とか大変でしたけど」
「それは良かったです。ですが公衆の面前でゾンビ化したところを見せるのはやめましょうね」
「あっ、しまった。そうですね」
お互いコーヒーを飲み終わり、そろそろ帰るかというところ。名残惜しいけど口実が……あった。
「静夜さん、木村研にケーキを買って行きませんか?」
「いいですけどお金がないので木村教授と佐々原准教授のぶんだけになりますよ」
「わたしもお金出しますって」
「あなたはいいです」
「ええ……」
「黙って二人分のケーキを選んでください」
旭はベリーのタルトとショートケーキを選んだ。
静夜が会計を済ませ、二人で学校までの道をのんびり歩く。
「奢ってもらっちゃってありがとうございました」
「まあ、ご褒美でしたから」
「次はわたしが払いますね」
「いえ、結構です」
それは次が無いという意味なのか次も奢るという意味なのか。
聞けないまま、旭は先輩の横顔を盗み見た。
特に変わらないその横顔に笑顔が溢れた。
「何笑ってるんですか」
「いえ、何でも」
「失礼します」
「先生、ケーキ買ってきましたよ」
「お前らは休日まで一緒に居るんか」
木村教授の軽口に静夜は軽く返した。
「今日が特別ですよ」
「そうそう、特別なんです」
まあ旭の方はそれが毎週末になっても構わなかったが、それはお財布が許してくれないだろう。
「ケーキってなんのケーキ?」
山口さんがケーキに釣られて寄ってきた。
「あ、ごめんなさい。予算の関係で木村教授と佐々原准教授のぶんしかないんです」
「今日佐々原くん休みやで」
「あら、珍しい。じゃあケーキ一つ余りますね」
そこからは院生による仁義なきじゃんけん大会が行われ、優勝した山口さんがベリータルトを手に入れていた。
「俺馬鹿みたいにじゃんけん強いんだよね」
「先に言えよ︙︙」
「戦術的勝利だぜ」
「あーあ、わたしもダイエット中じゃなかったら食べたかったな」
「三峰、ダイエットなんかしとるんか」
「してますよー」
「そんなんせんでも︙︙いや、女子生徒のそういう事情に口出してろくな目にあったことないわ。なんでもない」
「賢明な判断ですね」
「伊達に教授やってないからな」
「あれ、ここ何の研究室でしたっけ?」
「哲学やで、お前らみんな忘れてると思うけど」
その言葉に院生やゼミ生たちが反論した。
「教授の研究いっつも手伝ってるの誰だと思ってるんですか!」
「木村研をたまり場にしてるのは月岡と三峰ぐらいですよ!」
「旗色が悪いのでそろそろ帰りましょうか三峰さん」
「そうですね静夜さん」
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