第16話

 制服のブレザーが暑く思えてくる季節がやってきた。ゾンビの旭には関係ないが。衣替えは六月なので、熱中症対策の布告をしなければ。ブレザーを脱いで指定カーディガンで過ごそうかな。旭はまだ大丈夫だが生徒の中にはちらほらカーディガンで過ごしている者も見られた。

 実は旭がブレザーの下に纏っている指定カーディガンは卒業するときに静夜さんから剥ぎ取ったものである。思い出にくださいと土下座する勢いで頼み込んだのだ。そしたら意外とあっさりくれたので、肩透かしを食らったような気分になったのを覚えている。

 初めて身につけたとき、そのだぼっとした着心地に悶えた自分が記憶に新しい。体格差にときめいた。今でも意識すると顔が赤くなる気がするので(ゾンビの顔色は知らないが)、なるべく意識しないようにしている。


 来る水曜十五時四十分、第一会議室には体育祭実行委員が勢揃いした。

 体育担当教員たちの横に並んだ旭が立ち上がる。

「では、揃われたようなので。皆さん、お疲れさまです。生徒会長の三峰旭です。体育祭実行委員長、日下部唯さん、起立して自己紹介をお願いします」

 旭に名指しされて、議長席に座っていた男子生徒が立ち上がる。

「どうも、ご紹介に預かりました三年二組の日下部です。この度体育祭実行委員長を拝命しました。皆さんで力を合わせて怪我のない体育祭を目指しましょう。よろしくお願いします」

「必要な資料は手元に用意しておきましたので、この後の仕切りは実行委員長にお任せします。よろしくお願いします」

「はい。じゃあまず書記を二名決めます。誰か――」

 委員長による司会が滞りなく進んでいるのを見て、次回以降は立ち会いの必要が無いなと判断する。

「あ、会長」

 頭の中で明日以降の生徒会業務に思いを馳せながら議事を見守っていた旭だったが、名前を呼ばれてふっと意識をこちらへ戻す。

「はい、なんですか?」

「会長はレクリエーションの借り人競争にしか参加しないんでしたよね?」

「その予定ですよ」

「じゃあ、会長自身も借り人役になってくれませんか?」

「ええー、いいのかなそんなことして」

「お願いします」

「んー、わかりました。でも全力疾走はできないからね」

 どこかもげたら困るし。

「それで大丈夫です。ハンデになるので」

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