第11話、惑星カルデバランで待つ者(前編)
明日はカルデバランに到着する。
その夜、デカメロン刑事が俺たち全員に作戦を説明した。
ミーシャも一緒だ。
「まずはこの計画の黒幕を掴みたい。おそらく海賊カルテルの中でも相当に高い地位にいるはずだ。少なくとも幹部クラスか、それに近い人間だと思われる」
(さすがにGPOか中央政府の人間、とまでは言わないか)
「そのためこの船のみんなにも協力して欲しい。ジョージの話だと武器は十分にあると聞いているが?」
クレアが頷いた。
「私たち貨物船クルーは、海賊対策のために戦闘訓練は受けています。銃の扱いに不便はありません」
だがマリーは少し自信がなさそうだ。
「ウチが得意なのはメカいじりと毒針なんですよね。銃は人並みには扱えますけど、どこまで戦えるか?」
「君はどうだ、猫明?」
デカメロンが猫明の方を見た。
「アタイは元傭兵だにゃ。当然、銃は扱えるけど、ナイフとか接近戦の方が得意だにゃ。そもそもアタイの専門は暗殺だったにゃ」
え、そうなのか? そんな物騒な特技があるとは知らなかった。
デカメロンが唸る。
「戦力が十分とは言えないが……だがいきなり戦闘になる訳じゃない。私が敵のリーダーさえ押さえてしまえば、下っ端はどうにでもなる。最悪、この船に立てこもって戦えば、一時間もしない内にGPOの応援が来るからな」
(敵側がどのくらいの戦力を揃えているか、それが問題だな)
俺がそう考えているとデカメロン刑事が俺に話を振った。
「この船は元は軍の強襲揚陸艦だったんだろ? 防御も武装もそれなりにあるんだよな?」
「え? ああ、そうっすね。流石に強力な武装は外されてますけど、ある程度までなら。でもこの船のビーム砲を使うなんて、宇宙港でそこまで大げさな戦闘になるんですか? 相当な被害が出ますよ」
宇宙空間での戦闘ならいざ知らず、至近距離にいる宇宙船にそんな派手な攻撃をするのはちょっと考えにくい。
「私もそこまでは考えていない。だが念のためだ」
今回の事件の要である魔法少女・ミーシャが恐る恐るといった様子で口を開いた。
「あの……私はどうすればいいんでしょうか?」
デカメロン刑事は言いにくそうに口を開く。
「申し訳ないが冷凍睡眠装置に入ってもらう。もちろん本当に睡眠状態になる訳じゃない。寝ているフリをしてもらうだけだ。昨夜、彼女に手伝ってもらって、外から見たら冷凍に見えるが実際には冷凍睡眠にしない、という処理に改造して貰った」
そう言ってマリーを指さす。
マリーの方も「バッチリ」と言って右手でOKサインを作った。
「少なくとも魔法少女が入っている冷凍睡眠装置は、今回は一番安全な場所だ。敵もそれを攻撃する事は絶対にないからな」
ミーシャは不安を感じていそうだが、黙って頷いた。
「それで手順は? それがわからないと俺たちも攻撃準備ができない」
俺の質問にデカメロンさんは頷く。
「まずはジョージが先に降りる。そこで相手側も現場のリーダーが出て来るはずだ。その人数を確認したらコンテナを降ろす。向こうのリーダーは冷凍睡眠装置の確認をするためにコンテナの中に入るだろう。そうなれば袋のネズミだ。私が中に入って行って取り押さえる」
「コンテナごと撃たれたりしませんか?」
「それはない。中にはリーダーと一緒に一番大事な魔法少女がいるんだ」
確かに。それには納得だ。
「私もこの船のクルーとしてコンテナを降ろす作業に加わる。顔を隠しておけばバレないだろう。後は私が飛び込んで『GPOだ』と名乗ったら、みんなも一斉に武器を構えてくれ。それまでは絶対に動かないように!」
デカメロン刑事はそう説明した後「作戦は以上だ。それではみんな、よろしく頼む」と話を閉めた。
それぞれが持ち場に戻ろうとする中、俺はデカメロン刑事に近づいた。
「ところでデカメロンさん、ずっと気になっている事があるんすけど?」
「なんだ?」
「デカメロンさんは、俺が魔法少女の運び屋だって知っていたんですよね? 出なければこんなアプローチの方法は取らなかったと思うんですけど?」
「その事か、もちろん知っていたさ。ある筋から運送会社から逃亡した新米海賊が、魔法少女の密輸に絡んでいるって情報が入ってね。ジョージが会社の船と派手にバトルして逃げ出したって話は聞いていたから、すぐにピンと来たよ」
「それで行先まで解っていたんですか?」
「ああ。惑星ディランからカルデバランまで行くのに、密輸するならこの航路だろうって予測できたしな」
「ふぅ~ん、そうなんですか。すごい情報網っすね」
俺は少し考え込む。
「当たり前だろ。GPOをナメてもらっちゃ困る」
「別にナメた訳じゃないっすけど……ところであのレオンっていうアンドロイドの刑事、整備とかはどうしているんです?」
「もちろん定期的にやっているさ。直近だと二か月くらい前かな」
「レオンさんの戦闘力は高くないって言ってましたけど、どの程度戦えるんですか?」
「普通の警官程度には戦えるよ。戦闘用アンドロイドほどの能力は期待しないでくれって意味だ」
「デカメロンさんの愛人用ですもんね。それも仕方ないか」
「なんだと?」
彼女が俺を睨む。
「あ、いや、別に。それより彼には大き目の武器を持って欲しいんですよ。連続発射できるチェーンガンとか、携帯型レールガンなんかをね。アンドロイドだから普通の人間よりは力も強いでしょ?」
「それもそうだな。なにかいい武器はあるのか?」
「それをこれから見繕おうと思って。レオンさんと一緒に武器を選んでおきたいんですけど、一緒に来てもらうように言って貰えますか?」
「わかった」
デカメロン刑事はアンドロイド刑事に「レオン、ジョージと一緒に明日のためにオマエが使う武器を選んできてくれ」と告げた。
彼が来た所で俺はマリーに声をかける。
「マリー、レールガンの操作だとマリーの方が詳しいだろ。一緒に来てくれ」
そうして俺とマリーとアンドロイド刑事は武器庫に向かった。
武器庫での用事を済ませた俺は、マリーに冷凍睡眠装置の確認を頼むと船員室に向かった。
その一つで今まで使っていなかった部屋に魔法少女ミーシャがいる。
ドアをノックするとすぐに「はい?」という返事が聞こえた。
「ミーシャ、俺だ、ジョージだ。入ってもいいか?」
するとすぐにドアが開いて、中から可愛らしい顔が現れる。
「どうぞ」
船員室は四畳ほどで、ベッドと簡単な机、そして壁にはモニターがあるだけだ。
「ミーシャ、大丈夫か? 怖くはないか?」
「大丈夫です……怖くないです」
だがその顔に緊張が見られる。
「無理しなくてもいい。怖くて当然だよ。だって海賊と戦闘になるんだからな。俺だって怖い」
「ジョージお兄ちゃんも海賊なんですよね? それでも怖いんですか?」
不思議そうな顔で聞き返すミーシャに、俺は苦笑した。
「俺は海賊って言っても、まだ成りたての初心者なんだ。つい四日前まではただの輸送会社のサラリーマンさ。それも社畜のね」
「社畜ってなんですか?」
「会社の命令どおりに働く人間の事だよ。多少キツい事や苦しい事でも『会社のため』『仕事だから』『みんなやっている事だ』って言われると、その命令を聞くしかないんだ。そういう縛られている不自由な人間を社畜って言うんだよ」
「なんだか……奴隷みたいですね」
「命を奪われない分、奴隷ほど酷くはないが、それに近い所もあるかな」
「私は……海賊カルテルに連れて行かれたら、奴隷になるんでしょうか?」
ミーシャが不安そうな顔をする。
それを見て俺は思った。
(ミーシャの場合は奴隷とは違うだろう。強制労働なんかはないと思うが、それよりもっと酷い目に会うのかもしれない。なにしろ最終兵器の一部として使われるんだからな……)
「大丈夫。デカメロンさんや俺たちが、そんな事にならないようにミーシャを守るよ」
「ありがとうございます。さっき私は『怖くない』なんて言いましたけど……本当は不安なんです。どうしても怖い事を考えてしまって……」
「当たり前だよ。こんな事、不安にならない人間はいない」
「皆さんの事を信頼していない訳じゃないんです。でも孤児院でもシスターが『大丈夫』って言っていてくれたのに……」
そう言って彼女を俺を見た。
「シスターや孤児院のみんなはどうしているんでしょうか? 無事なんでしょうか?」
俺はここで嘘をつく訳にはいかないと思った。
明日のためにも、安易な嘘はつくべきじゃない。
「俺にはわからない。だけどミーシャが狙いなら、他の人には手を出さないんじゃないか……って思う」
「ジョージお兄ちゃんは正直な人なんですね」
ミーシャが寂しそうな笑顔を浮かべた。
それを見た俺、意を決した。
「ミーシャ、俺の事を信用できるか?」
彼女はその青い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめた。
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