第6話 二次元に勝てる三次元など存在しない?

きしむアパートの扉を開け、登るたびにキイキイと音を立てる木製の階段を登って自室のドアを開ける。


日焼けした畳の上の机に置いてあるパソコンを起動し、新谷の中では世界最高傑作と信じているエロゲ「ソレヨリモ」を起動した。


起動する時間帯によってゲームのトップ画面が変化するこの作品は、十七時現在夕日を浴びて茜色に輝く砂浜が描かれている。


「砂の一粒一粒までが夕日に照らされて色合いを変えるこのグラフィック…… 神だ」


 画面をクリックして話を進めていくと、心に傷を負った少女との出会いが描かれる。


 だがこの時点ではめんどくさいヒロインだとは思っても、あそこまでのトラウマを抱えているとは思えなかった。


「リアルでも変わらなかったなあ……」


 今日出会った梅小路。彼女もまた、この作品のヒロインに負けず劣らずの心の傷を抱えていた。

 外面ではまったくそんな風には見えないのに。


 一目で病人と分かる外傷やガン末期と違い、一見、普通と変わらなく見えるのが精神科の病気だ。


今日大学で出会った、他のリアルの女性を思い出す。a子、b子、丹波口、梅小路。

モニターの中のヒロインに比べどうしても見劣りすると感じてしまう。


前の時間軸なら、大学時代は女子などモニターの中だけで充分だった。


色褪せない笑顔に耳に残る甘ったるくも切ない声、絶妙のタイミングで起こるイベントにそれらを彩るbgm。


二次元に勝てる三次元など存在しないと思っていたし、今もその思いに変わりはない。


新谷がパソコンの電源を落とすと、さっきまで天国を映していた画面は真っ暗になる。モニターに映っているのは自分の顔だけだった。


静まり返った自室にはエプロンをつけて料理を作ってくれるヒロインも、「お兄ちゃん」と自分を慕ってくれる義理の妹も、一緒にゲームに興じてくれる幼なじみもいない。


大学生や就職浪人時代はそんなことは気にならなかった。


リアルの女性がとにかく気味が悪くて、怖かった。モニターの中の彼女がいればそれで十分だった。


男子校で女子とほとんど接することなく六年を過ごし、とにかくいい大学に入ろうと勉強ばかりしてきたのも影響しているのかもしれない。


だが社会人になりリアル女子と接することにも慣れ、生活が安定してある程度の自信がつくと女子にビビらないようになってくる。


科長になって女子の自分を見る目がかなり変わったのも大きかった。


三次元をある程度受け入れられるようになると、三次元にたいし欲が出てくるのだ。


ぶっちゃけ、三次元にも欲情することが可能となる。

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