第11話 ナンパじゃないが!?

「う~んと……」


戸惑いを隠さないまま、海華みか依史いしちゃんの事をつまさきから頭まで舐めまわすようにゆっくりと見る。


「えっと、かーくんって結構大胆っていうか……え、ナンパって成功するものなんだ」

「ったく、男気あるじゃねぇか哉斗かなと!ナンパなんて若気の至りでも俺は出来ねぇぜ!」


家へと辿り着き、リビングに入って早々。

海華みかしゅん依史いしちゃんを視認した途端、こちらに向かってきてからの一言目がこれだ。


というよりしゅん、お前起きていたのか……。


「おいちょっと待て。そんな壮大な勘違いをする前に俺の話を聞いてくれ」


海華みかしゅんの想像があらぬ方向へと行く前に俺は一旦ストップをかける。

こんなまだ幼いような少女をナンパした挙句、人の家――それも、普通に家主(海華)がいるというのに勝手に連れ帰ってくるだなんて事、俺には死んでも出来ないんだが??


「分かった。とりあえずこの子が誰なのか説明して。私を納得させて」


その海華みかの言葉に俺は頷きながらついさっきまでの出来事を告げる。


この少女の名前を紹介する所からから始まり、次に帰宅途中に出会ったこと、どうにも記憶が無いという事、巫女さんとの会話の内容の事――それらすべてを、海華みかしゅんに包み隠さず話した。


二人とも、俺に視線を向けて真剣に聞いてくれた。

ここまで来れば、後は今後について解決策を話し合える――と思っていたのだが。


「なるほどね……うんうん、いいじゃんいいじゃん!」


全てを話し終えた瞬間。

海華みかの顔に突然笑顔が宿るのと同時に、少しだけテンションを上げながら頷く動作を見せる。


「つまり、依史いしちゃんは実質今日から私達の仲間って事でしょ?女私一人だけだったから超うれし~!!」

「わっ!」


依史いしちゃんの目の色綺麗〜ハーフさんなのかな〜?キャハハ☆とかなんだとかをテンションを高らかにして言いながら、依史いしちゃんを膝の上に乗せる海華みか


くっ……!!これがコミュ強…………ってそうじゃねぇ!!


「いやいや、この子記憶が無くなっているんだぞ?何か俺達が出来る解決策をだな――」

「勿論、最初は私もそう思ったけど、その最後の話を聞く限りかーくんが何かへましなければ私達が帰る頃にはこの子について知れる日が来るんでしょ?ちょっと意味が分からない話だけどさ。それに、依史いしちゃんはその話に納得した。それなら、その日が訪れるまで私達と一緒に行動した方が良くない?」


俺のその言葉を遮るようにして、海華みかがそう言葉を発した。

確かに、本人はそれで納得しているし、現状はその巫女さんの言葉を信じるしか道はないだろう。


しかし、納得は納得と言っても、アレはそうせざるを得ないような感じだったのは確かだ。

何故なら、巫女さんは依史いしちゃんの名前以上の事を頑なに話そうとしなかったからだ。


「いやでもそれは、巫女さんが何故か情報を隠し通そうとしてたからで、この子がそれで納得したかどうかは……」


俺は海華みかに向かってそう答えると、依史いしちゃんがそれに返答するかのように口を開く。


「確かに、問いただそうと少し悩みましたが……私は納得しました。それに、確証は無いですがあの人はきっと――私にとって最善の選択を取ってくれたんじゃないかと思っています」


そう答える依史いしちゃんの表情には、自分自身の存在についての悩みや戸惑いは感じられなく、本当に納得した上での言葉であると感じさせられた。


「…………本人がそれでいいなら、まあ」


当の本人がそれでいいと納得しているのなら、俺がこれ以上とやかく言う必要はない。これ以上しつこく言うと、それは返って迷惑になるだろう。


「けど問題なのは私達がただの旅行客って事だよねー。もしその巫女さんの予想が外れて、帰る時になっても何も分からなかったらどうしよ」


俺がずっと考えていた第二の問題を、海華みかが提示する。

そう、俺達はここの住民ってわけじゃない。

夏休みが終わる三日前には元居た場所に戻らなくちゃいけないんだ。

そこから先、依史いしちゃんをどうするのか……それが一番問題ではある。


両親も兄弟も居ないとなれば、それは完全に身寄りが無いという事だし……。

というより、家族が居ないって話を聞いてよく依史ちゃんは直ぐにその事実を受け入れられたものだ。


普通、家族が居ないと分かれば深く考え込んでしまうものだろう。

――もしかして、記憶喪失というのはそういうものなのだろうか?記憶に残っていない人が元からいない存在だろうとどうでもいいみたいな?


「そういえば、皆さんは泊まり込みで来てるんでしたよね。お兄さんから聞きました」

「そうそう。だから、依史いしちゃんの記憶がもし私達が帰るまでに戻らなかったらどうしようかなって」

「そん時はそん時で連れ帰っちまおうぜ!」

「んな事出来るか!!」

「う~ん、それなら私の家が安牌あんぱいかな?」

「いや海華みかまで連れて帰るって話に乗っかるなよ。収集着かねぇよ!」

「これが俗にいうお持ち帰り……」

「急に何ぶっこんでくれちゃってんの!?」


唐突なお持ち帰り発言に、俺はたまらずツッコンでしまうが、しゅん海華みかだけは笑っていた。

おいおい、そういう話もイケる口だったのかお前ら?それとも俺だけがそういう風に捉えてて他はそのままの意味で捉えてるとかか?俺の頭がピンク色なだけなのか??


「ま、それこそその巫女さんとやらに聞くべきだな。この子の名前と良い、家庭事情と良い、俺達に依史いしちゃんを託したのといい――そうやってこの子の処遇を自由に決められるってんなら、こっちの事情を話してから巫女さんに選択を求めるってのも手だろう。こっちだってこの子ついての選択を求められたんだ。逆に、こっちから巫女さんに選択を求めてもいい筈だぜ」

「…………確かに」


言われてみれば、その通りだと思う。

しかし、俺はそのしゅんの言葉で一つの疑問点に気付く。


あの巫女さんは、依史いしちゃんの保護者代わりというわけではなさそうだった。

しかし、依史いしちゃんの今後を彼女は決める事が出来た……。


勝手に決めても、問題にまで発展しないと確信しているからこその判断だろう。

だからこそ巫女さんは、俺達に依史いしちゃんを託したはずだ。


ならばどうして、問題無いと判断出来たのだろうか?


巫女さんが依史いしちゃんの保護者のような存在だとするのなら――そこは一応納得できる。

しかし、保護者というわけでも保護者代わりというわけでもなさそうだったし、依史いしちゃんには家族も兄妹も居ないと明言していた。


それはきっと真実の筈だ。

なんせ、依史いしちゃんの事を探している人は、ここまでの帰路を辿る中で遭遇しなかったし、何より保護者だという事を隠す意味が見当たらない。


しかし、たまたま遭遇しなかったという線もあるのもまた事実。

…………悲しいが、俺の頭では情報が少なさ過ぎて考えても答えは出なさそうだ。


現状は、また更に依史いしちゃんについての謎が深まったという事実だけが残るだろう。


「それじゃとりあえずはその巫女さんに改めて話すって事で!!今は新しい仲間を祝して楽しい気分にしていこーう!!」


夜中だというのに、テンションをまた一段階上げた海華みか依史いしちゃんを抱っこしながら言う。


あれは――もうダメだな、放置しておこう。うん。

てかそこまで同姓の仲間が欲しかったのか海華みか……なんかごめん。


「なんだかお前、奇妙な事に巻き込まれちまったな」


しゅんが俺を憐れむかのようにして話しかけてくる。

いや、俺達全員巻き込まれてるみたいなもんだぞ。


「あ、そうだ依史いしちゃん。自己紹介まだだったよね。うちは神薙海華かんなぎみか海華みかでもお姉ちゃんでもいいよ!!よろしくね!」

「はい!よろしくお願いします!」


ソファの方では、俺達が入る隙間もないくらいの女子だけの神聖な空間が出来上がっていた。

あそこに挟まったが最後、何者かによって命は抜き取られるだろう。


そう、近頃の世の中では百合(?)の間に挟まる男は斬首刑に処されるという暗黙――いや、世界のルールがあるのだ。

故に、あの女子だけの幸せなお花が飛び交う空間に足を踏み入れれば情状酌量の余地なく死刑が執行されるだろう。


「奇妙も何も、謎が謎を呼びすぎて頭がおかしくなりそうだよ」


俺は苦笑しつつ、しゅんに向かってそう答えた。


依史いしちゃんは~、今日からずっと私と一緒の部屋で寝ようね♪」

「おぉ!毎日が女子会ですね!!」

「いぇーっす!!」


俺達の夏休み初日は、同じ女の子の仲間が出来てテンションの上がった海華みかと、それに巻き込まれ楽しんでいる依史いしちゃんを眺めながらゆっくりと終わっていったのだった。

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