第10話 帰路
先ほどの展開を言葉で表すとするのなら、謎が謎を呼ぶ――そんな展開だったと言わざるを得ないだろう。
『心配しなくとも大丈夫です。貴方が心優しき方であったとすれば、私の予想では……お帰りになられる頃には、全て分かる時が来るはずですので』
その言葉が、俺の脳裏に反復する。
俺が心優しき方であったとすれば、帰る頃には全てが分かる。
その言葉が意味するのは、一体どういう事なのだろうか?
……仮にもし、それが言葉通りの意味だったとすれば。
どのように、そして――どうして、分かる時が来ると断言出来るのだろうか?
『知り合い……では、無いかもしれないですね』
知り合いだと断言出来しなかった割には、巫女さんは少女の名前を答える事が出来た。
それは、一体何故なのだろうか……。
一体、
「……分からねぇ」
考えても考えても、
「お!やっと喋りましたね」
隣で、歩幅を合わせて帰路を辿っている
結局、俺はこの子を連れ帰って、そして――
「あぁ、すまんすまん。少し考え事をな」
「考え事ですか?」
「あぁ、君の事を少しな」
「もしかしてお兄さん、私にもうそこまでゾッコンに……?」
「ある意味でゾッコンだよ」
なんて冗談をかましてくる
しっかしまぁ。強いな、この子。
記憶が失くなっているせいで、家族という存在にそこまで気が取られないのか――身寄りが一切ない存在だと判明しているというのに、悲壮感を一切漂わせる事無くこうやって冗談を口に出来ているだなんて、素直に尊敬出来るくらいだ。
なんて思っていると、
「……本当に、申し訳ないです」
「えっ……?」
唐突に告げられた謝罪に、俺は思わず困惑の声を漏らした。
一体、どうしたというのだろうか。
「手伝わせた分際でこんな事を言うのは可笑しいですけど……お兄さんがそこまで私の事を考えこむ必要はありません。本当は――私がもっと、思い悩むべきなんです」
そこで、俺は何となく理解した。
彼女がさっき放った冗談は、自分のせいで悩ませている俺の気持ちを切り替えさせる為に言ってくれたと言う事に。
「何言ってんだ。寧ろ、悩ませろよ」
途端、
「状況が状況なんだ、思う存分甘えろ。
確かに申し訳なく思ってしまう気持ちも分からなくはない。
けれど、俺がやりたくて――この子の力になりたくて、勝手にやってる事なのだ。
申し訳なく思っても、それでも頼って欲しいというのが俺の気持ちだ。
「で、ですが――」
「俺の親友はさ、二人共凄いんだよ」
それでもなお、遠慮の言葉を吐こうとする
「容姿端麗で、運動神経も良くて、普通に頭も良い――そんな長所だらけの人間。それが、俺の親友なんだ」
「…………」
「そんな二人と比べて、俺は正直言って劣ってると自負してる」
俺ははっきりと告げる。
これは卑下でも何でもない、ただの事実だ。
「だけどな、俺の人を思いやる気持ちだけは――そんな長所だらけの人間達が、唯一自分達より上だと認めてくれてる所なんだ」
優しい事だけが取り柄だなんて、正直言って武器にもならないかもしれない。
自慢出来るような事でもなければ、優しさに付け込まれてなんたらかんたら――みたいな心配事をされたりも多々あるさ。
けれど、
二人の親友が、認めてくれているんだ。
胸を張って、誇ってもいいだろう。
「お節介だと思ってくれてもいい。うざいと思ってくれてもいい。だけど、それでも――俺は、君に協力したい」
臭いセリフだな。
……と、自分でも思う。
しかし、これは紛れもなく、俺の本心だ。
「…………ありがとうございます」
一つ。
「え?え?待って待って――」
不意に流れた少女の涙を見て、俺は思わず慌ててしまう。
不味い不味い不味い……!!やっぱりうざかったのかな?それとも、申し訳なさすぎて逆に涙が?待って?よくわからな過ぎて対処方法が分からない!!どうしたらいいんだ?昔、
まるで思考が加速したかのように、俺の心には次々と言葉が流れ込んでくる。
「とりあえずハンカチ――って持ってねぇ!!」
なんて言っていると、
「ごめんなさい、嬉しくて――なんだか涙が出ていたみたいです。もう、大丈夫です」
そういうと、
「そういう事なら、遠慮しませんからね?お兄さん♪」
そんな彼女に、俺は少しだけ安堵しながら――。
「それでいい」
一言。
そう返すのだった。
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