第2話 俺の親友は超絶イケメンハイスペック

――時は過ぎ放課後。

未だ衰えを知らない陽の光を浴びながら、俺達“三人”は帰路についていた。


「学校終わったぜ~!!」


そう言ってはしゃぎながら、俺のもう一人の親友である楠凪俊くすなぎしゅんがガッツポーズをしながら目の前のそう長くはない坂を駆けて下っていく。


明るめの綺麗な少しツンツンとした茶髪に、本人の明るい性格とは相反する黒い瞳を持ち、容姿に至っては女子ならば誰もがお近づきになりたいと思ってしまうレベルには完成されている。


――そう、楠瀬俊くすのせしゅんは紛うことなきイケメンと呼ばれる人種だ。

しかもそれだけに飽き足らず、文武両道で、料理スキルも高校生とは思えない程に出来上がっており、更には頼りになるいい男と昔から評判でもある。


……あれ?改めて思うけど属性多くない?この人怖いんだが……。


そして何より、この説明で察しがつくヤツも居るだろう。

そう、しゅんこそ、海華みかの好きな男のタイプにしっかりフィットしている存在なのだ。


全くもって羨ましい事この上ない。

まぁそりゃ俺だって?海華みかの事が気になるか気にならないか。

そんな事を問われれば――気になっていると言えるだろう。


しかし、生憎と俺は彼女の傍に立つ資格を持ちえないわけだ。

故に、このハイスペック人間二人組の行く末を見守る。


それが、俺の人生の目標だ。


「おい!なにゆっくり歩いてんだよお前ら!早く帰って遊ぼうぜ!!俺たちの自由はすぐそこだ!!」


あっと言う間に坂を下り終わったしゅんが、腕を上にあげて大きく振りながら離れていてもコチラに聞こえてくるくらいの声量で言葉を発す。


しかし、そんな完璧人間にも欠点……かはよく分からないが残念だと言われている所がある。

それは、無駄にテンションが小学生のように高い時がある。という事だ。

テンションが高い事は良い事といえば良い事なのだが、やはりそれが暑苦しさに直結する場面も出てきてしまうわけで――学校では、海華みかが最高神が作った最高傑作で、しゅんは神が作った最高傑作と呼ばれていたりと、海華みかに軍配が上がる。


まぁそれでもそんな変わらない評価だと思うけどね。


そんな人間達といつも絡んでいると、当然俺も何か言われているわけで……。

この前なんか、神様が乗っている雲と呼ばれていた。

あんまイメージないけどね、神様が乗ってる雲とか。


「もう、くーちゃんってば!!ほら、かーくんも行こ!!」


くーちゃんとは、楠瀬俊くすのせしゅんくすのくの部分をとって付けたあだ名だ。

決してあの水色の雫のような顔の形をしたキャラクターとかでも黄色いクジラのキャラクターというわけでも無いので注意してほしい。


「おう」


急かしてくるしゅんの元に向かって、俺達は歩を進める。

照らしてくる太陽の熱は、俺達の体力を確実に削り、消耗させていく。


「早く来いよーーー!!」


俺達の到着をただ突っ立って待っているだけからなのか、まだまだ余裕の表情を浮かべているしゅんが手を振りながらそう催促を促してくる。


――――しゅんとは、俺達が小学五年生になる頃に出会った。

桜の花びらが顔を見せ始める季節の中、こちらに引っ越してきたのが出会いであり、そこが俺達の本当の始まりとなった。


転校生として俺と海華みかが通っていた学校に転入、そして偶然にも俺達の家の近くが引っ越し先だったらしく、こうして自然と絡むようになっていったわけだ。


「そういや海華みか、今日帰り話す事あるんだったっけ?」


坂を下ってしゅんと合流してから少し歩いた後、俺は思い出したかのように口にする。


「あっ、そうだった。いや~暑すぎて意識無かったから忘れてたよ」

「いや冗談でもええよそのセリフ」


俺が軽くツッコミを入れると、海華がごめんごめんと謝る。

意識がないとかシャレにならないからな……この暑さの中では特に。


熱中症というのは、普通に死に至る可能性があると聞く。

だからこそ、ニュースなんかでも散々警告しているし、甘く見ていいというような事ではない。


実際、もし海華みかが倒れたとするのなら……俺は気が気ではなくなってしまうだろう。


「夏休みにさ、うちらで地玖神島ちくがみじまに泊まり込みで遊びにいかない?」


聞いただけでもワクワクしてくるような提案が、海華みかの口から飛び出してくる。

地玖神島ちくがみじま――それは、この地域から船で行けば数時間もかからないような近場にある島だ。


「「泊まり込み?」」


俺としゅんはその言葉を聞いた瞬間、首をかしげながら同時に同じワードを口に出した。

そこは長い付き合いの賜物と言うべきか、俺達は仕草や考えている事までも似てきているらしい。

それほどになるまでコイツと関わっているという事実に、俺は少しだけ時の流れを感じる。


「そうそう。かーくんは知ってかもしれないけどさ、地玖神島ちくがみじまに別荘があるんだよ、うち」

「あー、そういや昔そんな事言ってたっけ」

「へー、すげぇじゃん!流石は金持ちだな」


しゅんが関心を含んだ反応を示す。

こういう時、多少なりともマジ!?とか驚いたりするのかもしれないが、海華みかの金持ちっぷりは今に始まった事ではないので俺もしゅんもそこまで驚かなかった。


というのも、海華みかは別荘の他にも家を三軒も所有しているらしい。

そのうちの二つは貸家にしてそこで収入を得ているし、親がそもそも事業を成功させているのでそこでも収入を得ている。


とまぁ、親も親でハイスペック超人ではあるが、海華みかも負けず劣らずのハイスペック超人ではあるのでどっちもどっちである。


「それは良い話だと思うけど、地玖神島ちくがみじまに行く日程は?滞在期間はどれくらいにする予定なんだ?」

「夏休み初日にはもう行っちゃおうかなって思ってる。滞在期間は夏休みが終わる三日前くらいの8/21日くらいまでかな」

「長っ」


俺はあまりにも長い滞在期間に思わず言葉を吹き出してしまった。


7/27日から夏休みが始まって、8/24日に終わるから……少なくても24日間は滞在するのか。うん、長いと思ったが短いかもしれない。楽しい時間はあっという間に過ぎていくもの。だから、24日間あると言っても体感では一週間程度になってしまうのかもしれない。


「やっぱ長すぎるかな?でもでも、絶対楽しいと思う!海なんかにも入ったりしてさ、目いっぱい羽を伸ばそーう!てきな?」

「俺は良いけどしゅんはどうなんだ?行けるのか?」


この場合のどうなんだ?は夏休み中の部活動なんかを危惧した言葉ではない。

俺達はそもそもとして部活動をしていないからだ。

ただ、俊にも友達はいるわけで、夏休み中のどこかで他の友達と遊ぶ予定が入っていたら、俺と海華みかの二人だけになってしまう。


小学生以前はそれでも違和感は無かったが、今は違う。

俺と、海華みかと、しゅん

この誰もが欠けてはいけない存在だ。


「俺か?勿論行くに決まってんだろ!」


俺の肩に手を回して即答で返答を返すしゅん。暑いぞ。


「でもよ、滞在するって事は家事炊事とか色々あるだろ?そういうのってどうすんだ?」


しゅん海華みかにわりと重要な質問を飛ばす。

確かに、役割分担やらそこらへんも決めていかなければならないのか……。

なんて思っていると、海華みかがふふんと鼻を鳴らす。


「だいじょーぶ。そこらへんも考えてるから、先ず洗濯は私がやります。二人なら下着くらい見られても大丈夫でしょ?」

「いや全然大丈夫じゃないんだが?普通に恥ずかしんだが?」


美少女に下着見られて、洗われるとか……一部の界隈には羨ましい案件かもしれないが、生憎と俺はそういった界隈には足を突っ込めない性癖をしている筈だ。

だからこそ、羞恥心を感じるのは致し方ない。


「え~、でもダメ。これは決定事項だから」


決定事項って何?女子なら何でも許されると思ってらっしゃる?いや許すけどね?


「……わあったよ」


俺は頭を掻きながら、しぶしぶ了承を示す。

しゅんは……まぁ、下着くらい見られても何にも感じないだろうな。

現に反対する気なんて微塵も感じさせない飄々とした表情を浮かべてるし。


「そういや、家事だとか何だと改善に、親とか誰か大人を連れてはいかないのか?」


家事分担の話をする前に、俺は前提として地玖神島ちくがみじまに行く人間についての質問をする。よくよく考えてみれば、普通は保護者というか――誰か大人の人を連れていくものだろう。


さっきまでは普通に俺達だけで行くもんだと思って俺も話を進めていたが……うん、普通に考えたらそうだ。


「大人?連れていかないよ、うちらだけ!」


海華みかが当たり前でしょ?とでも言わんばかりのニュアンスで元気よくそう答える。


……どうやら、海華みかの中ではそれで確定してしまっているらしい。

けど、大人の介入が無い俺達だけの空間というのは、居心地が良さそうだ。


「まっ、て言っても一応大人の力も借りたりするけどね。でもでも、基本はうちらだけで頑張っていきたいよね。それでさ、炊事とか掃除に関しての役割についてなんだけど――」

「炊事?それなら俺に任せろ!」


その言葉に、しゅんがすぐさま名乗りを上げると、海華みかが笑みを浮かべながらうんうんと言って納得を示す。しゅんの料理の腕は正直プロなのかと疑うくらいで俺も海華みかも認めているので異論はない。


「うんうん♪炊事に関してはくーちゃんに任せようと思っていたから自分から名乗り上げてくれてよかった~。それで掃除がかーくんね」

「わかった、任せろ」


その他も考えなくてはいけない事はあるが、そこら辺は任せよう。何も無策ってわけではないだろうし。


俺は話ながら歩いている二人をよそにどこまでも青いと錯覚してしまうほどに澄み渡っている空を見上げ、思う。


今年の夏も、しゅん海華みかのおかげで退屈せずに済みそうだ。

親友達と共に過ごす生活に、俺は期待と興奮を胸に秘めながら二人と帰路を辿った。

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