第2話 プロローグ2

         第一章

        プロローグ2


 司が意識を取り戻したのはすぐだった。しかし、思ったように身体が動かせず声も出せない。どういうことかと思っているとうっすらとだが音が聞こえ、目が見える。


 周りには巨大な男と女が居て何かよくわからない言葉を話している。病室でもないようで俺の部屋でもないようだ。


 ふと周りにあった鏡が目に映ると、何と俺は赤ん坊だった。え?どういうことだ?しかも先ほどから耳障りだと思っていると頭にズキっとした痛みが入る。


 「きっと強く元気な子になるぞ!」


 男の方の声は元気はつらつな声で嬉しそうに喋っている。


 「ええ、そうねぇ。スクスクと育ってほしいわ。」


 女性の方は少し疲れたような、それでいて達成感を感じるような声をしている。


 痛みが治ると同時に二人の話している声がわかるようになった。

 二人の声は優しげで俺に向けてとても暖かい気持ちを向けてくれていることを感じ取れる。


 「さぁ、後は私にお任せください。旦那様、奥様。」


 一人の召使のような老婆が出てくると二人は下がって行く。俺はそんなことを気にする余裕もなかった。


 (どういことだ?俺はさっきまでゲームの続きをしようとしていたはず…)


 そう言えば画面には転生特典をと書いてあったな。つまり、本当に転生してしまったということか!?


 (確かにこれは体験だが、予想の斜め上過ぎないか…?)


 普通の人だったらどうなるかはわからないが、司はラノベやアニメ、ゲームなどでファンタジーモノに触れまくったオタクだった上に普段からそういう世界で生活したいと思っていたので大きな動揺や錯乱をすることなくなんとか対応できていた。


 少し冷静になって考えてみると司は自分の状況を考えられた。


 (バブバブしながら世話をしてもらっているのか…これが俗にいう赤ちゃんプレイってやつかぁ…)


 大人のお店や本でたまに見かけるジャンルだったが司には全く良さがわからなかったうえに虚無になってしまった。


 (死にてぇ…)「バブゥ〜」


 司はつい口を動かしてしまったが出てくる言葉は情けない。自分が主人公に転生したのかと思うとなら名前はどれになるんだ?と疑問が湧いた。無記入ならザインだし、俺が名前をつけているならツカサの筈だ。


 「エリン、この子は男の子だ。俺が決めていた名前にするぞ?」


 「わかっているわよ。女の子だったら私が、男の子だったら貴方が名前をつける。約束でしたものね。」


 少し離れたところで男が…というか多分父親であろうから父が母に寄り添い、肩を抱き寄せながら話している。

 そうだ!早く名前を教えるんだ!ハイスラをやりこんだ俺ならメインサブ問わず仲間キャラクターだけでなく、クエストに関係してくるNPCまで分かるぞ!


 「この子の名前はエルファンだ!エルファン・シュヴァリエ・ゼノン!愛称はエルだな!」


 男が部屋に響き渡るような気がするくらい大きな、それでいて不快感を感じさせない嬉しそうな声で俺の名前を呼ぶ。


 「エルファン、いい名前ね。私の名前のエと貴方のアルスからルをとったのね?分かりやすいんだから。」


 母がクスクスと口元に手を当てながら顔を緩ませる。その様子をみて父は頬を指で書いてタハハという風になっている。


 それにしても…エルファンになってしまうとはな。悪くはない…が、こいつに苦しめられてきた身からすると複雑な気持ちだ。


 ストーリーではこいつのランダム要素が強く、魔王軍側に付くことはなかったが主人公の仲間になったり敵になったり予想不可能な点が多かった。


 しかも、敵味方に関わらず主人公の前に現れその時その時の実力よりも必ず上のレベルで現れてこちらからしたら相性の悪い武器やアーツ、道具を使ってくるアンチ主人公キャラなのだ。


 ハクスラプレイヤーの総評としてこのキャラに対するコメントは1にウザイは満場一致だ。それを抜かせば大多数が賛同するのはイカれたヤバいキャラだろう。


 このキャラ実はどのルートでも主人公の友として関係値を強制的に築くのだが、自ら主人公の元を去っていき先ほどのような行動をして来るのだ。


 他にも、王国直属の裏の集団に属しており反乱を扇動することもあったり、王城で盗みにも入ったりした事もある。


 ただ自分の目的のためなら魔王軍と敵対する際にこちらの仲間になる事もあったり助けてくれる事もある。


 矛盾したイカれ野郎だったのだ。


 (あ〜どうしようか。本当に、どうしたらいいんだ…)


〜〜〜


 最初の1ヶ月ほどはどうにかして帰れないか、願ったり魔法を使ってみようとしたが全く意味がなく遂には諦めてしまった。


 また、精神がこの世界に引っ張られているのかあまり帰りたいや不安、悲しさなどは薄れていった。


 この異世界からお前はここの世界の住人だからこの世界に早く馴染めと強制されている気も若干しないでもないがあまり気にしていなかった。


 なんなら、今ではハクスラの世界をこの目で見て楽しんでついでに主人公との関係値を減らさずに世界を救ってもらおうとさえ考えていた。


 よし、こうなった以上全力で自由に楽しんでやる!

 そうと決まったらまずは成長しないといけないよな!


 ガチャりと寝かされている部屋の扉が開く音がした。そこには母がいた。


 「エル〜ご飯の時間ですよ〜」


 そう!この時間はご飯の時間なのだ!見た目がとてもとても若くて犯罪臭もするがこの体のおかげか虚無の境地である。


 「今日もいっぱい食べられて偉いね〜」


 一つわかるのはやっぱり赤ちゃんプレイってやつの良さがわからないという事だ。

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