4 純真な少年の心を忘れない男の性

俺は、遂に理解した。

この理不尽な世界の必勝法を。


結論から言えば、俺がノコノコと王子の前に出ていくからいけないのだ。

俺が王子に接触しなければ、『トキメキ』なんて起こりようがない。

だから、俺は裏方に徹し、ソフィアと王子の出会いを演出してやればいい。

これでようやく先が見えた。


次の相手は、水の国、ヴェイン王子。


知的なクールメガネ。長身で流れる黒髪。

学年順位は常に一位の超エリート。

生徒会長職で忙しいらしいが、決まった時間に、図書館の同じ席で読書にふけっていると言う。


なるほど、これは都合がいい。

そこにソフィアを待ち伏せさせておけばいいわけだ。

出会ってしまえば、あとは流れに任せればいい。

自然と距離が縮まっていきゴールイン。

これで間違いないだろう。


さっそく準備に取り掛かる。

ソフィアを連れて図書館へ。


「さぁ、ソフィア。ここに座っているんだ。いいな、後で隣に来る男、きっと気にいるはず。お前の恋人候補だ」

「でも、お姉様。突然こんな……ボクに恋人は早すぎます」


戸惑うソフィア。


「ううん、そんな事ないよ。ソフィアの年頃なら恋人の一人や二人いてもおかしくないからね」

「ボクはお姉様と一緒にいる方がいいです……」


「ソフィア。俺はソフィアが人並みに恋人がいると安心出来る。だからお願いだ」

「お姉様が安心するんですか?」


「そうだよ」


「……分かった。ボク、頑張ってみる!!」

「うん、良い子だ!」


頭を撫でてやる。

すると少し緊張が解けて気持ちが和らいだようだ。


説得は完了。

俺はソフィアから離れ、本棚の陰に隠れる。


****


見張りを始めて、だいぶ時間が経った。

が、予定時刻を過ぎても目的の男は中々現れない。


(何故だ? 時間にうるさい男だと聞いていたのだが……)


ドン!!

「失礼」


俺にぶつかりながらすり抜けていく男。


(ったく、何て無作法な……)


と睨む。

が、俺はその相手の顔を見て固まった。


(……メガネに黒髪のイケメンだと!? まさか、こいつがヴェイン王子?)


「何だ、私の顔に何かついているのか?」

「い、いや……何も……」


迂闊。

まさかターゲットと接触してしまうとは。

早く立ち去らねばならない。

変にときめきを覚えたら厄介になる。


「じゃ、じゃあ。俺は失礼する」

「おい、待てよ!」


腕を握られる。


「君はマリアだな? ちょうど話がしたいと思っていたところだ」

「へ?」


「来い、話がある。付き合ってもらおうか」

「おい、止めろって……」


「私の名は、ヴェイン。顔ぐらい知ってるだろ? 生徒会長をしてる。で、私の誘いを断れる理由が君にはあるのか?」


****


「噂に違わぬ才女……なるほどな」


(何の用かと思えば、チェスかよ!!)


うーん、うーん、と唸るヴェイン。

俺は、無理矢理、生徒会長室に連れて来られた。


そして、ゲームに興じている。

適当な理由をつけて断ればよかったのだが、つい誘いに乗ってしまった。

結局、男ってのは勝負を挑まれると断れない馬鹿な生き物なのだ。


「……これでどうだ」

「なるほど、じゃあ、こう返すかな」

「むむむ……そう来たか……」


どうやら俺の方がヴェインより一枚も二枚も上手のようだ。

天才と名高い王子も俺にかかれば赤子の手をひねるようなもの。

俺は、勉強はからっきしだったが遊びは得意。

オセロ、囲碁、将棋。当然、チェスだってお手の物。


(ふふふ、クールメガネめ。苦しんでるな)


お高く止まってるエリートを倒す。

スッとして気持ちいい。


(まさに愉快爽快! それに、これなら変なトキメキもないしな)


俺は、スッと駒を動かした。


「さぁ、これでどうだ? チェックメイトだ!」


ヴェインは、はっと動きを止めた。

そして、うなだれてつぶやく。


「……ま、負け……た」


(悔しいか? 悔しいよな? 絶対に勝てると思ってたよな? さぁ、もっと悔しがれ! ははは)


ヴェインは、プルプルと小刻みに肩を振るわせる。

俺はニヤッとする。


(この流れはプライドがズタボロで、癇癪を起こし、勝つまでしつこく再戦をせがんでくるパターン。

いいぜ、何度だって、いくらでも負かしてやる。

ほら、叫びながら言ってこいよ。もう一度って。まだ本気を出してないって。恩着せがましく受けてやるから、くくく)


しかし、俺の予想は外れた。


ヴェインは、スッと手を差し出したのだ。


(え?)


「君は強いな。本当に参ったよ。いい戦いだった」


ニコッ。


清々しい笑顔。

俺は、唖然とした。


キュン……。


(ま、負けたのにそんな笑みを……嘘だろ。

プライドはどうした?

本当は傷ついて死にそうなんだろ?

それなのに……。

くそっ、こっちは不覚にも、ときめいてしまったじゃないか!!)


ヴェインは、少し顔を赤らめ興奮気味。


「ありがとう、マリア! こんな熱い戦い、初めてだ。

君は信じないかもしれないが、私はこれまで負け知らずだったんだよ。

でも、全力を出して戦った結果だ。上には上がいるのだとつくづく思い知ったよ。

本当に君は強いな、マリア。

ははは、負けてしまったけど、本当に気持ちいい!」


照れた顔でハニカム、ヴェイン。


「負けた相手が君だったからかな? こんなに清々しいのは?」


胸が熱い。


(この顔、どこかで……そうだ少年! そう少年の頃、誰もがしていたピュアな笑顔)


キュンキュン……。


(や、やばい。まただ……)


無垢な男の潔さ。素直さ。純真な気持ち。

それが全て詰め込まれている。


(俺はこういうのに弱いんだ。もう、やめろ! それ以上は……)


ヴェインは、片膝を折り、俺の手を取る。


(な、何を……)


「君ともっと勝負がしたい。もし良かったら、私の部屋で二人っきりでゲームをして夜を明かさないか?」


まっすぐな目。澄んだ瞳。


(う、やめてくれ……)


「すまない。唐突だったね。でも私は、君に夢中になってしまった。我慢できない、マリア、私じゃダメかな?」


頬を紅潮させ、興奮を必死に抑える少年の顔。


キュンキュンキュン……。


(ああ……終わった)


勝負に貪欲。

そして、思ったらすぐに行動。

そうだよな。

少年はみな自分のしたい事を我慢できない。

自分の気持ちを抑えられない。


分かる。俺もそうだった。

そのクールな顔の下には、こんなピュアなものが残っていたなんて……。


(ギャップにも程があるじゃないか!!!)


「分かったよ、お前の望み通りにしていい」


俺はそう答えていた。


****


女子寮の自室。

結局、朝帰り。


「もう、何もなかったのなら良いんですけど……心配しました」

「ごめんよ、ソフィア」


(とまぁ、何も無かったなんて嘘なわけだが)


「ああ、そうだ。昨日の事なんだけど、お目当ての王子は何か用事があったみたいで……」

「そうなんですか」


「ごめんな、ソフィア。せっかく恋人が出来るかもしれなかったのに……」

「ううん、平気! 来なくて本当に良かった!!」

「え!?」


「……ボク、ほっとしたんだ。一人で心細くて。今度はお姉様もいっしょ。じゃなきゃ、ボク、もうどこにも行かない。いいでしょ?」

「あ、ああ。そうだな……」


俺はソフィアを頭をポンポンと撫でた。

一方で、俺は昨夜の事を思い出していた。


男子寮。

ヴェインの部屋。

チェスの勝負などそっちのけで、男同士のお楽しみに興じていた。


『ああ、マリア、君は、なんて美しい体をしているんだ。胸筋、腹筋、それにここ。ああ、それでいて、賢いだなんて。天は君の二物も三物も与えてる……素晴らしい』


『私は、君を満足させるからね。チェスでは負けたけど、こっちは男のプライドを賭けてでも』


『ふふふ、マリアもこんなに固くして……私だって負けてない。ほら! ああ、いけない。また張り合ってしまった。今日の私はどうかしてる。笑ってくれ、ははは』


『うっ、そんなにされたら……入れる前に出てしまう……はぁ、はぁ……マリア、君の方からこんな積極的に……嬉しいよ』


『マリアの中、すごくいいよ。ああ、ビクンビクンと痙攣してる。マリアも感じているんだね? 気持ちいいんだね? ううっ、いきそうだ……一緒に、いくっ……』


『ふふふ、マリアもたくさん出したね。私と同じかな? ああ、また比べてしまった。私はダメだな。ははは』


体が喜びでとろけていく。

男のモノでお尻を突かれる……最初はあんなに嫌だったのに、不思議なもので、一度良さを知ったら沼。のめり込んでしまう。


(……はぁ、また男のを咥え込みたいな……

はっ、俺は今何て事を思ってる!!

くそっ、これもストーリー強制力がいけない!!

何とかして、この楔を解き放たなきゃ!!)


結局、これで三人と寝てしまった事になる。


(まだ終わったわけじゃない……)


残すは、あと一人……バッドエンドが目前に迫る。


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