3 切ない程に愛に一途な男の性

結局、ストーリー強制力について分かった事はこうだ。

普段は、俺自身で行動を決める事ができる。

が、なんからの事で、俺が、キュンとときめくと、強制力が働き始める。

数回か繰り返すと制御不能となり、ストーリー通りに進行する、ってわけだ。


つまり、ときめかなければいい。

簡単な事。

俺は、男の生き様は好きだが、男には興味はない。

だから、そう易々と男にときめく事なんてない。


(まぁ、アランについては、似た者同士ってことで、通じる所もあり仕方なかった。と言う事で、気持ちを切り替えていこうじゃないか)


で、俺が次の標的に選んだのは、土の国の王子 ロベルト。

確かマリアとは幼馴染の仲で、年齢はふたつ上。兄のような男だそうだ。

性格は、豪快、ワイルド系で、容姿も、茶色の髪と目、堀深めの顔立ちに、乱れた髪。一言で言えば、粗野な男。

男っぽいやつは、俺と相性は悪くない。

こいつなら分かってくれるはずだ。


手紙をしたためた。

妹と会って、気に入ったら付き合って欲しい。

簡単な文章だが、幼馴染だったら、まぁこんなモノだろう。


すぐに返信が来た。


『酒を飲みながらゆっくり話そう』


(酒か……なるほど腹を割って話す。それもいいだろう)


****


学園近くの街。

学生で賑わっている宿屋兼飲み屋で落ち合った。


「ほら飲めよ、マリア」

「ああ、悪いな、ロベルト」


ロベルトは、一見、強面だが、笑うといい顔をする。

なるほど、この笑顔に惚れる女は多そうだ。


「……で、妹の心配か……お前らしいな」

「名はソフィアという。いい子なんだ。まずは会ってくれるだけでいい」


「分かったよ。幼馴染のよしみ。何と言っても、お前の頼みだ。引き受けてやる」

「ありがとう。恩にきる」


「いいって事よ。ほら飲めよ」

「ああ、悪いな。ありがとう」


俺とロベルトは、やはり気が合う。

直ぐに意気投合し、話は盛り上がりを見せた。


「……それでよ、仲裁に入った教官にまで俺の剣技が炸裂してな……全員のしちまったってわけさ」

「ははは! 相変わらずだな、お前は……まったく、変わらない。お転婆マリア、健在だな」


「お転婆マリア? ああ、お転婆ね……確かにそうかもな。なぁ、ロベルト。今の俺って小さい頃から変わったか?」

「ん? 急にどうした? 確かに変わったと言えば変わったが」


「そうなのか?」

「美しくなったよ。眩しいくらいに」


「そ、そうか……」


やはりストーリー強制力が効いている。

男の俺を、お転婆な美人令嬢って見えているのなら、そういう事。

しかし、ソフィアからならともかく、大の男に美しいとか言われると、正直、恥ずかしくてたまらない。

くすぐったい、というのが正しいか。


「何だ、マリア。顔を赤くしてどうした? もう酔ったのか? お前にしては早いな」

「ははは、まだ酔ってない。酒飲むの久しぶりだったからかな」


「そっか……まぁ、今日は飲めよ。マリア」

「ああ、頂くとするよ」


カチン!

酒が満たされたグラスが鳴る。


(何だ、やはりいい奴。確かに兄貴だな。これは。

最初からこいつに頼めば良かった)


****


(あれ? 酔って寝てたのか? ここはどこだ?)


俺は辺りを見回す。

どうやら宿屋の方に場所を変えたらしい。


ガチャ、ガチャ……。


(ん? 何だこれは? 拘束だと!?)


その時、手足の自由が効かない事に気が付いた。

手錠が掛けられている。


目の前に、ゆらりと亡霊のようなものがいた。


「ロベルト……なのか? これはどういう事だ?」


「マリア……久しぶり会えたと思ったら、寂しいことを言う……俺は悲しいぞ……」


低い声。

ロベルトは、恐ろしい形相で近づく。


「ロベルト! 拘束を外せ! 今すぐにだ!!!」

「マリア……お前がいけない。俺の愛を知っていながら、よりによってお前以外の女とデートだと? 冗談じゃない!!」


「……とにかく俺を解放しろ、ロベルト。俺とお前とはただの幼馴染のはずだろ?」


「ただの幼馴染だと!!? 何を言っている。俺は幼い頃からお前への愛を誓っている。忘れたのか?」

「……悪いな。今の俺にはそんな記憶はない」

「何だと!??」


怒り心頭。

今度は顔を真っ赤にし、手をわなわなと震わせる。


「俺の愛をコケにする気か!!! マリア!! 許せない、許せない、絶対に許せない! 思い出させてやる!!」


ロベルトは俺に襲いかかる。

無理矢理のキス。


んーっ!!?!


俺は首を振り、必死に拒絶する。

ロベルトは構わずに唇を合わせてくる。


「や、やめろ……ロベルト……やめるんだ! はぁはぁ」

「何故、そんなに嫌がるんだ? 教えてくれ!! 本当に俺の事、何とも思ってないのか?」


俺は、正直にコクリと頷いた。


「なんて事だ!! なんて事だ!! うおー!!」


ロベルトは、発狂したかのように叫んだ。


****


俺は、ロベルトが落ち着いたのを見計らい声をかけた。


「落ちついたか、ロベルト? 悪いな……俺は正直にしか答えられない。もし、俺が別のマリアだったら……もしかしたら、違ったのかもしれない……」


「分かったよ、いいんだ。それが、お前の本心なのだろ? 同情は要らない。俺の勘違いだったんだな……」


(俺がオリジナルのマリアだったら、あるいは……)


すまないとしか言いようがない。


ロベルトは語り始めた。


「俺はずっと寂しかった。

学園に入ってからというもの、お前から一切の連絡はこない。

お前からの連絡を待つ日々。

何故連絡をくれないのか? どうしてなんだ?

悩んでいた。

でも、今分かった。そういう事だったんだな……。

お前から手紙が来て、俺はどんな嬉しかった事か。内容はともかく、それだけでも幸せな気持ちになれた。ありがとな、マリア」


ロベルトは、笑顔を作った。


ニコッ。


(な、何、そんな弱々しい微笑みを見せてんだよ!

お前は、オラオラの男なんだろ?

今さら、何、ひよってんだよ!

男がそんな簡単に人に弱みを見せるんじゃねぇ!)


「ううっ、本当にありがとう……マリア」


必死に笑顔を装う。

でも、耐えられず涙がこぼれる。

男泣き。


(そんな顔やめてくれ!! や、やばい……トキメキが……)


キュン……。


胸が締め付けられる。

片想いの切ない男の気持ち、伝わってくる。


(分かるぜ、相手に認めて貰えなかった辛さ)


「悪かったなマリア。いますぐに拘束を解くよ。乱暴して本当にごめん」


膝を折り、深々とこうべを垂れた。


「でも、これだけは言わせてくれ!! 俺の愛は本物なんだ!! これだけは信じて欲しい!!」


涙でぐちゃぐちゃになった顔。

あがき、あがいて、一つの望みを捨てられない。

必死の顔。


(うぐっ……やめろ、そんな顔をするのはよ)


ロベルトの気持ちが手に取るように分かる。

男はそうだ。

拒否されても、そう簡単には諦め切れない。

そんな、どうしようもない生き物。


キュンキュン……。


(あっ、ダメだ! 止まんない。

こいつを見てると、ダメな自分にも重なる。

もういい、俺を諦めてくれ!!

これ以上、見てられねぇよ!!

それに、これ以上、ときめいたら、また自制が効かなくなっちまうっ!!)


堪りかねて俺に抱き付くロベルト。


「やっぱり、マリア!! お前が好きだ!!! 俺、お前にどんなに嫌われても構わない!!! 好きでいさせてくれ!! 頼むから!!」


わんわん、と子供のように泣き叫ぶ。

大の大人がみっともない姿。


(でも、それがどうした?

好きな女の前では、プライドなんて関係ない。

男ってバカなんだよ。本当にバカだ。

ああっ、共感しかねぇ)


キュンキュンキュン……。


(ううっ……ときめいちまった……)


俺は勝手に手を差し出し、ロベルトの頭を撫でる。


「もういい、ロベルト。もういいから……」

「……マリア……こんな俺でも慰めてくれるのかい?」

「ああ……」


「ありがとう、マリア。優しいなお前は」

「ロベルト、俺は、お前の真っすぐな気持ちに心を打たれたよ……特別だ。今は、俺を好きにしていい。今だけは俺は、お前のものだ」


(……ああ……俺は何を口走っているのだ……意識が遠のく……)


「ほ、本当にいいのか? 俺は、お前を抱きたい。その気持ちは変わらない。その思いを突き通してもいいのか?」

「ああ、いいぜ。お前の望みすべて受け止めてやる」

「あ、ありがとう。マリア!!」


(……ち、違う……ダメだ……ダメだ……そんな事をしては……)


****


ベッドの上で折り重なる二人の男達。


『ああ、マリア、マリア。俺のマリア、愛しているよ、今までも、これからもずっと……』


『気持ちいい。俺は幸せだ……でも、これは一時なもの……でも、そうだとしても、俺はいいんだ、マリアと一つになれたのだから』


『マリアもこんなにおっきくして……感じてくれてるんだな……俺は嬉しいよ、ああ、もっと、もっと、お前を気持ちよくしてやる……だって、これが最初で最後かもしれないのだから』


『一生分を今愛するよ、マリア……ああ、気持ちいい、いっちまう……ダメだ、我慢できねぇ……いくっ』



熱くなった男のモノが、体の中をもみくちゃにしてくる。

これで感じないわけねぇ。

男の熱い気持ちが体を突き抜け、ひとつになる感覚。


(くそっ!! 男とやるってのは、どうしてこんなにも気持ちいいんだよ!!!)


****


絶頂の後のまどろみ。

恋人達の時間。

ロベルトは、俺の手を握り締める。


「……マリア。俺は、決めたぜ。お前が俺に振り向いてくれるまで、俺は変わらぬ愛をお前に捧げる。迷惑だって言われてもやめる気はねぇ。それでもいいんだよな?」

「ああ、そうだな。でも、あまり期待はするなよ……」


「よし! その言葉が聞ければ今はいい。今はな!」


****


女子寮の自室。

リビングでぐったり。


またしても、自制できずに王子を寝取ってしまった。

ストーリー通り、悪女そのものの行動。

王子をたぶらかした、と言われても文句は言えない。


(くぅ、しかし甘く見てたぜ!! 男として、男の生き様に共感を覚えてしまう……どうにかならないのかよ)


さて、恋人候補4人中2人はダメになった。

残り2人。


(大丈夫だろうか? いや、諦める訳にはいかねぇ。破滅は何としてでも回避せねば)


「お姉様、頭を抱えて、どうなさいました?」


ソフィアが、紅茶を差し出してきた。


「ん? ああ ちょっとな……何でもない」

「本当ですか? ボク、とっても心配」


「ははは、大丈夫。ただ、自分のダメさ加減に、ちょっと呆れたって感じかな」

「だ、ダメなんて事はないです! お姉様は立派な方です!! お優しくて美しくてお強くて賢くて……ボク、尊敬してます!!」


真剣な眼差し。


「ありがとう、ソフィア。君こそ立派でとても可愛いよ」

「そんな事……な、ないです。ぼ、ボクの事、すぐに褒めないでください……」


ぽっと頬を染める。

照れた顔も可愛いソフィア。

ああ、救われる。


「お姉様、元気出して下さい!」

「ああ、元気出た。ソフィアのお陰かな。ありがとう!」


「お姉様、大好き!!」


ひしっ、と俺に飛び付く。


(ソフィアの幸せの為でもある。絶対にあきらめる訳にいかないよな)


俺は、ソフィアの頭をいつもの様になでなでしてあげるのだった。





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