2 ただ戦いと強さを求める男の性

さて、学園生活にもだいぶ慣れ、いよいよソフィアの恋人づくりに取り掛かる事にした。


まず、最初に目をつけたのはこいつ。

火の国の王子アラン。上級生。

俺と同じように筋肉質でしまった体、精悍で目鼻立ちがくっきりした顔。

それでいて、笑うと少年のような表情となり、女達はその笑顔に大概やられる。

王道イケメンといったところか。


で、性格はさっぱりとしていて、典型的な脳筋バカの類。

俺と通じるところがある。

こいつなら、きっと分かってくれるだろう。


「すまない、突然なのだが……」


俺は、校舎裏にアランを呼び出し頼み込んだ。


「……で、マリア、君の妹とデートしろと?」

「ああ、そう言うことだ。妹はソフィアという。可愛いしお前も気にいると思う。どうか頼む」


「……残念だな」

「残念? 何がだ?」


「内心、君に告白されるのかと思ってワクワクしていたからさ。マリア、俺は、前から君のこと気になっていた。俺好みの女だって」


ニコリと笑う。

普通の女なら間違いなくこれで堕ちていただろう。

そう、オリジナルのマリアもきっとそうだ。


(だが、俺は男。助かったぜ)


「ふっ、そうだったのか? 悪いな。いい友人にはなれそうだが、さすがに恋人はないな」

「……そうか。でも、こうやってお近づきになれたんだ。いずれそうならないとも限らないだろ?」


どうかな。俺は、そんな意味を込めて肩をすくむゼスチャーをした。


「ところで、君の妹さんとのデートだが、タダというのは面白くない。勝負に勝ったら、というのではどうか? そして、俺が勝負に勝ったら君は俺のいう事を一つきく」

「勝負だと?」


「ああ、こいつでさ」


アランはウインクして、腰に吊るしていた剣をポンと叩いた。


****


アランと俺は、学園の演習場にきた。


「ルールは簡単だ。剣術勝負。2本先取で勝敗を決する」

「いいぜ、異論はない」


「そうか、マリア。君の噂の剣の腕前、見せてもらうぜ」


剣術勝負とはなんと粋な計らい。

腕がなる。

俺は、前世では、剣道は段持ち、それに居合いも多少の心得がある。

それで、授業の模擬戦では、いっさい負けなし。

学園内では、美人剣士の愛称で名が通っている。


一方、剣術に関してはアランも有名人。

上の学年の間では100年に1人の逸材などと噂されている。


まさに、手合わせしたかった好敵手。

テンションが上がらないわけがない。


「こっちこそ、見せてもらうぜ! アラン、剣聖と名高いお前の腕を!」


****


カーン! カーン! 


打ち合いが続く。


「さすがだな、アラン……」

「マリア、お前こそ……なかなかのものだ」


(マジで強い。しかし、それ以上に楽しいぜ。張り詰めた緊張の糸が途切れる一瞬……堪らない)


俺は、神経を研ぎ澄ませ、一気に間合いを詰める。

そして、渾身の力で剣を横一閃に振り抜いた。


「うぐっ……」


アランは唸った。模擬刀が輝きを放つ。

1本入ったのだ。


アランは、息を荒げ、俺の方を見る。


「はぁ、はぁ……マリア、君は何てすごいんだ。まさか、俺から一本とるなんて。正直舐めていたよ……少し剣が使えるだけの美人令嬢かと思っていた……ここまでとは驚きしかない……」

「ふっ。本気だせよ、アラン。まだ、本気出してないんだろ?」


「……そこまでお見通しとはな……嬉しいな。俺が本気を出せる相手に巡り会えるなんて……」


アランは、ニコリと笑った。

嬉しくて仕方ない。そんな男の笑顔。

互いを認め合う。最高に気持ちいい。


キュン……。


(え!? 何だ今の!? 胸の中でキュンと音がしたぞ……)


心臓の鼓動が早まるのが分かる。

明らかな体の変化。


「……俺は本気を出す。だから、マリア。君も全力で来い!」

「あ、ああ……」


(ちょっとまて……この感情はなんだ。キュンって何だよ……よりによって勝負中に……)


「いくぜ!!」


アランの剣術奥義がさく裂する。


カーン! カーン!


俺は防戦一方。


(だ、ダメだ……勝負に集中できない。何故だろう、アランの顔から目が離せない……)


うぐっ!!!


いつの間にか、アランの剣が俺の肩を直撃していた。

アランの模擬刀の光が目に入った。


(一本、とられたのか……)


「どうした、マリア。さっきの勢いは? 俺をがっかりさせるなよ」


俺は、目を閉じた。


「すまない、アラン。確かに、俺は集中を欠いていた。今から本気を見せる」

「ああ、楽しみにしている」


集中力を高める。

静かな水面に波紋ができる感覚。

無の境地。


「はぁ!!!」


俺は居合をぶちかます。

おそらく抜きの速さを目で追うのは不可能。

決まったか、と思ったが、アランはギリギリ交わしていた。

野生の感、というものなのか。


「……すごいな。危なかったよ……」

「まだまだ、これからだ!」


俺は、間髪入れずに剣技を放つ。

もてる限りの技のコンビネーション。


しかし、どれもアランにはギリギリ届かない。

俺は、攻めきれず一旦距離を取った。


「……すごいぞ! マリア、それでこそ、君は俺のライバルにふさわしい」

「ら、ライバル……」


「ああ、ライバルだ」


キュンキュン……。


(あっ……まただ。

それも、もっと激しい……)


汗が飛び散るアランの表情がキラキラと輝いて眩しい。


(……こいつに惹かれる自分がいる……こいつを特別だと感じる……何故だ)


「……いくぞ!」


(いかん、集中だ!)


アランは、出し惜しみせず剣技を繰り出した。

俺は、その全てを受け切った。

はずだったのだが……。


腹部に強烈な痛み。


「うぐ ……かはっ」


俺は腹を抱え、片膝をついた。


「ここまでだな、マリア」

「ま、負けた……完敗だ」


「しかし、いい戦いだった。ほら、手を貸す」

「ありがとう……アラン、お前の足元にも及ばなかった気がする」

「ふっ、そんな事はない。俺とてギリギリだった。運が良かっただけだ」


俺が身なりを整ると、改めてアランは俺に握手を求めた。

そして、握手からの互いの健闘を讃えるハグ。


「マリア、これで、俺たちは親友だな」

「親友……そうだな。アラン」


ああ、熱い。

やっぱりいいな、男同士の真剣勝負ってのは。

試合の後は、こうやって互いを認め合う。

くぅ!! 痺れるぜ!



「……マリア。唐突だが、俺がなぜ君に惹かれるのか、理由が分かった気がする」

「え? 何を突然言い出す?」


「最初は君の美しさに惹かれた。しかし、こうやって剣を交えてみて、それだけじゃなかった事に気が付いた。マリア、君は戦いの美学をちゃんと理解している。だから、君とは心で通じ合う事ができるんだ。すごい事だ。だから、俺は、君に惹かれてる。どうしようもなく……きっと、愛しているんだ、君の事を。君は俺にとっての運命の人……天使なんだ」

「ば、馬鹿野郎!!! 何、突然、告ってんだよ! 恥ずかしいんだよ! お前!」


「ははは……悪い。ちと本音が出ちまった。どうも、マリアが相手だと調子が狂うぜ。確かに恥ずいな、俺」


アランは真っ赤になったほっぺをぽりぽりと描いた。


キュンキュンキュン……。


な、なんだ今のは?

ドキドキの波が押し寄せてきて、心臓が破裂しそうだ。

あ、あれ? 何か変だ……体が何かに乗っ取られるような……ああ、気が遠くなる……。


「おい、大丈夫か? マリア、マリア! しっかりしろ!!」


抱き抱えられるのが記憶の片隅で感じられた。


****


目を開けると、そこにアランの顔があった。


「ここは?」

「気が付いたか? 良かったぜ、安心しろ、治癒室のベッドだ。しかし、びっくりしたぜ、急に倒れて」

「ああ、すまない……普段はこんな事はないんだが……まぁ、貧血みたいなものかな」


(あれ?

胸のドキドキが治ってない。

なんだこれ?)


体が熱い……特に下腹部。男のモノ。


(ま、まさか、これは性的な興奮によるもの?

嘘だろ! 

誰に対して?

まさか、アランに対してなのか!?)


「……なぁ、マリア。勝負の約束は覚えているか?」


「勝負の約束……ああ、何でもひとつ願い事をきく、だったな」

「ああ」


「いいぜ、何でも言えよ」

「単刀直入に言う。君を抱いてもいいか?」


(ヘ? こいつは何を言ってる? 冗談だろ?)


アランは、じっと真剣な眼差しを俺に向ける。


(ちょっと待て。いくらこいつがいい奴だからって、どうして男に抱かれなくちゃいけねぇんだよ。答えは、ノーに決まってる)


しかし、俺の答えは違った。


「いいぜ。俺を抱いて……でも、俺は初めてなんだ。優しくしてくれ……」


(はぁ!!! 俺は、一体何を言ってるんだ!!)


「そうか、初めてなのか……嬉しいじゃないか。精一杯、優しくする……だから、安心してくれ」


(ど、どうして、こうなる!!

はっ、まさか、これがストーリー強制力!?

抗う事が出来ずに、ストーリー通りに進んで行く、これが……)


アランの手が俺の衣服を一枚、また一枚と剥いでいく。


(ダメだ、ダメだ、俺は男のなんて受け入れる覚悟なんてできてねぇ! やめろ! やめてくれ!!)


「……緊張してるのか? ふふふ、大丈夫だ。初めては痛いかも知れない。でも、しっかり気持ちよくしてやるから」

「ああ、頼む……」


そのまま、アランは裸になった俺の上にのしかかった。


****


女子寮の部屋。

俺は、リビングに倒れ込んだ。

ソフィアが、慌てて駆けつける。


「お姉様! こんな時間まで何処へ行ってたのですか!」

「いや……ちょっとな」


「ボク、すごく心配しました。今日は、早く戻られるって言っていたのに……」


「悪かった。ごめんよ、ソフィア。あれ? どうした? 泣いているのか?」

「な、泣いてなんかいません!!」


俺は、ソフィアを抱き寄せて、よしよしと頭を撫でる。


「……お姉様、もう、ボクを独りにしないで下さい……ボク、お姉様が居ないと寂しいんですから……」

「そうか……ごめんな」


甘えん坊のソフィア。

いつもこうやってなだめてやる。

すると、次第に機嫌が治っていく。


「じゃあ、許してあげます、お姉様!! ふふふ、さて、お夕食は如何しましょうか? 久しぶりに街に食べに行きませんか?」


にっこりウキウキ顔。

こんなところも愛おしい。


「あれ!? お姉様……」

「ん? どうした?」


「お姉様いつもより美しいというか……可愛いらしいというか……何かいつもと雰囲気が違うようです」


(うっ、もしかして、アランに抱かれた事と関係が?

女性は、初めてを経験すると美しくなるときく。

まさか……)


「とっても素敵です!!」


ソフィアは、嬉しそうに身支度を始めた。



(それにしても……。

なんて事だ。

初めて男同士でしてしまった)


どうせ、体が男と分かれば諦めるだろう、なんて期待したが、そこも関係なく、


「マリア、いい体してるじゃないか、興奮するよ」


とか言って、当たり前のように、男の体をいやらしく愛撫し、躊躇なく男の体を攻めてくる。


実際に、抱かれた感想だが、正直、気持ち良すぎて頭がおかしくなるかと思った。


下腹部から溢れて止まらない快楽の渦。

あれがエクスタシーってやつなのだろう。


望まずして、男に抱かれたってのに、最高に満たれた気持ちなのが、よりいっそう悔しい。


『さあ、マリア。後ろを向けよ。その可愛いお尻を見せてくれ。いい揉み心地だ……柔くて綺麗だよ』


『……入れるぞ、マリア。お尻の力を抜いて……そう、その調子。ああ、入っていく……君の中に……大丈夫、最高のエクスタシーを感じさせてやるから』


『はぁ、はぁ、すごい締め付け……声出していいからな……何、恥ずかしがってんだよ……我慢せずに、気持ちよくなっちまえよ』


『……え? 痛いだけだったって? 嘘つけ、本当は、気持ち良かったんだろ? ほら、前だってこんなに出してるくせに……照れるなって……いいんだよ、俺にはさらけ出して……ったく、君って意外と可愛いところあるよな』


(アランの野郎、イケメンじゃねぇか。あれじゃ、オリジナルのマリアもゾッコンだったに違いない)


「お姉様、早く支度してください!! 出発しますよ!!」

「ああ、分かった! すぐに支度する!」


(とにかく、俺が、恋人候補の1人を寝取っちまったのは事実。

つまり、今のところストーリー通り。

でも、まだ始まったばかりだ。

残り3人も残ってる。

大丈夫だ)


俺は、そう自分に言い聞かせた。

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