第114話 犬散る



 私達を襲ってきた氷鬼の刺客。

 遠くから吠え、その遠吠えを聞いたモノを凍らせる異能で攻撃してくる。


 だが、私は音を斬って見せることで、攻撃を防いだ。


 背後で古竜が驚きの声を上げる。


「やっぱやってることわけわかんねえ!」


 そんな難しいだろうか。

 

「音には波長があります。そして、その真逆の波を当てることで、打ち消すことができます。こんな風に!」


 遠吠えが聞こえてくる。

 音をとらえて、木刀を振るう。


 木刀を振るったときの音(風切り音)を、遠吠えにぶち当てる。

 すると、波同士が打ち消し合い、遠吠えが消える。


「音に形があるなんて初耳だけどよぉ! 目で見えないモノを捕らえるだけでなく、狙って音の形を作ることなんてできるのかよ!」


「ええ、できますよ」


 だんっ! と私は跳躍。

 飛んでいった先には、コボルトのような亜人が立っていた。


 闘気オーラの感じからして、氷鬼の眷属だろう。

 眷属は私を見て、にやりと笑う。


 もうあと少しで、私の剣がやつに届く。

 だがやつは、あろうことか逃げるのではなく、こちらに向かって跳んできた。


 私に正面からハグし、両足を腰の後ろに回してくる。

 子泣きじじいのような体制だ。


「はははは! この距離なら、剣は振れないだろぉおおお!」


 なるほど、がっちりと体をホールドされている。

 これでは確かに剣は触れないな。


「勝った! 死ねぇええええええええ!」


 ーーアオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 ぱきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!


「おっさぁああああああああああああああああああああああん!」


「なんです?」

「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 おやおや。

 犬といい、この子といい、うるさいですね全く。


 私は立ち上がって、体に付いている氷を払う。

 古竜は慌てて私の元へと近づいてきた。


「ど、どうなってんだよおっさん? 眷属は?」

「倒しました」


「……どうやって倒したんだよ? 剣振れないないんだろ?」

「ええ。ですので、まねっこさせてもらいました」

「まねっこ?」


「はい。さっきの眷属がやっていた、声を聞いたモノを凍らせ殺す技です」


 それを、そっくりそのまま使ってやったのだ。


「で、でもよぉ……おっさん。そんな、初めてみた敵の技なんて、よく使えたな……?」

「私は一度見た技なら、なんでも闘気オーラで再現できますよ。二度見たら盤石」


 氷の犬は私に何度も何度も技を見せてきた。

 多分必殺の技がそれしかなかったからだろう。


「それは悪手でしたね、犬っころ」

「ああ……付いてなかったなぁ! 相手がバケモノでよぉ! ひゃっはー!」


 おやおや。

 古竜さんってば、またも三下ムーブかましてますね。


 なんかそれが板に付いてきてる気がします。

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