第87話 分身を残して出発



 ドワーフ国カイ・パゴスへと、職人達を迎えに行くことにした。

 王都エヴァシマにて。


「アル」

「エルザ」


 後宮で荷造りをしてると、治癒神エルザが私に近づいてきた。


「聞いたわ。ドワーフ国へ行くんですって?」

「ええ。その方が無駄なお金がかからないでしょう?」


 カイ・パゴスからネログーマまでは、船で数日かかる。

 また、建築資材やら道具やらも持ってくるらしいので、さらに金がかかってしまう。


 けれど私が居れば、一瞬でこの国までひとっとびできるし、たくさんの資材などを簡単に運ぶことができる。


「あなたがわざわざ行ってあげなくても……」

「私はこの国の副王ですからね」


 国のために働くのは当然の義務である。


「そう……」


 エルザが私にしなだれかかってくる。

 潤んだ目で私を見上げてきた。


「さみしくなるわ」

「すぐ帰ってきますよ」


 船で数日の距離も、古竜が居れば一日かからずに踏破できる。

 

「行って帰ってくるだけなら、明日にでも帰って来れますよ」

「……大丈夫かしら。アル、あなたってトラブルに巻き込まれるじゃない?」


 ……否定できない。


「大丈夫だって、なぁ先生!」


 バーマンが笑顔で近づいてくる。

 ぎゅっ、と抱きついてきた。


「先生がいりゃ、どんな問題も一発で解決! だろ」

「……それはそうだけども」

「こっちのことはアタシとエルザに任せてっ。先生は行ってきておくれよ」


 カイ・パゴスへは私とガンコジーさんで行くことになっている。

 何かあったときのために守護神は残しておきたい。


 また、古竜の背中に乗れる人数は限られてるので、大勢連れて行けないのだ。


「ここは任せましたよ、二人とも」


 私はバーマンとエルザにキスをして、後宮の庭に出る。

 庭にはガンコジーさんと、古竜(ドラゴン姿)が待機していた。


『朝からお盛んだな、おっさん』

「おぬし失礼じゃぞ」


 げしっ、とガンコジーさんが古竜の足を蹴る。

 お盛ん……ああ、二人にキスをしたことに対して言っているのか。


「二人は私の愛する妻ですので。キスくらいしますよ」

『その妻おいてっていいわけ?』

「二人の力は信用してます。が、そうですね、何かあったときのために、【保険】を残しておきますか」


『は? 保険……?』


 私は闘気オーラを体から出す。


「なんつー高密度の闘気オーラ!」


 バーマンが目を閉じる。

 私は放出した闘気オーラをかためて、一つの形を作る。


『な!? お、おっさんがもう一人現れた!?』


 私の隣には、私そっくりの男が立っている。

『残像か……そいつ……?』

「いえ、闘気オーラで作った分身です」


 ぺたぺた、とバーマンが分身の私に触れる。

「す、すごい……触った感じが本物の人間にしか思えないよ!」

「……なんて高性能な分身なの。こんなの、魔法でも作れないわ」


 ふむ、そうなのか。


闘気オーラで作った肉人形です。私と同じ技は使えますし、意識を共有することができます。強さも私と同等です」


 完全に、もう一人の自分を作り出したというわけだ。


『いやいやいや! おっさん! おかしい!』


 古竜がぶんぶんと首を振る。


「おかしい、とは?」

『前から思ってたけどよぉ! 闘気オーラでこれは……さすがにおかしいだろ!』


「そうですか?」

『そうだよ! 体を強化するとかならまあわからなくないよ!? でも、さすがに自分そっくりなもう一人の分身を具現化するとか、さすがにやりすぎだろ!』


「そうですね」

『そうだろ!?』


「ただ、闘気オーラを極めれば誰でもこれはできるようになりますので」

『できるかぁああああああああああああああああああ!!!!』


「いいや、できます。教えてあげましょうか?」

『いらんいらん! ったく……ほんと規格外なおっさんだぜこいつぁよぉ……』


 さて。完璧な分身を一人残しておけば、何かあっても大丈夫だろう。

 私はひらり、と古竜の背中に乗る。ガンコジーさんも同乗する。


「では、いきましょうか」


 こうして私達はカイ・パゴスへと旅立つ。


「先生いってらっしゃーい! 現地で女つくっちゃだめだぜー!」

「アル……! 気をつけて! あなた魅力的なんだから、現地女が近づいてきても、絶対に近寄らせてはいけないわよ!」


 二人から忠告を受けてしまった……。

 いや、いや。さすがに仕事先で、女性を作ることなんてしませんよ。仕事中なんですから。ええ。絶対。

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