第85話 おっさん、学校を手にする



 ゲータ・ニィガ国王が王都エヴァシマに来ている。

 古竜を討伐(倒していないが)のお礼をしたいそうだ。


「お礼なんて必要ありません。副王として当然のことをしたまでです」

「おお、やはりそなたはいつだって謙虚で素晴らしい御仁だなっ」


 しかし、と国王陛下が言う。


「前回に引き続き、そなたはわが国を滅びから救ってくださった。ぜひ、何かお礼させておくれ」


「ふぅむ……」


 さて、どうしようか。

 前回、ミスリル鉱山をもらい、さらに腕の良い鍛治師を派遣してくださった。もうそれで十分な褒美だった。


 これ以上もらいたいモノは特に……。

 そうだ。


「では、陛下。お願いがございます」

「おお! 何でも言ってくれ! どんな願いも叶えてしんぜよう!」


 私の脳裏に浮かんだのは、古竜さんの脅威に、なすすべのなかったゲータ・ニィガの人たちだ。

 

 私は国王陛下に言う。


「どうか私に、貴国の剣士を、鍛えさせてはいただけないだろうか?」


 ゲータ・ニィガ王国の騎士達は、そこのトカゲの配下程度に、壊滅させられていた。

 これでは、危険すぎる。


 あんなのより強い敵はごまんと居るのだ。それが襲ってきたらと思うと、ぞっとする。


「ここは隣国。私が常に駆けつけられる場所ではない。だから、何かあったときに、対処できる術を、この国の人に授けたいのです」


 国王陛下が目に涙を浮かべ、深々と頭を垂れる。


「そなたの心遣い、誠に、感謝……申し上げる。うう……」

「ど、どうなさったのですか……? 泣くなんて……」


「そなたの慈悲深さに、感動してるのだ……」


 感動。大げさな。私はただ自分のすべきことをしてるだけだ。

 か弱きものを助けるのは、剣士の勤め。


「アレク! やっぱりあなたは強くて優しい人だわ! だいすきっ!」


 スカーレットが私に飛びついて、すりすりと頬ずりしている。

 目に♡を浮かべて、今にも私を押し倒す勢いだ。


「陛下。勝手に決めてしまって申し訳ありません」

「いえ。私の許可など不要です。あなたは副王なのですから。それにしても、褒美に他国のために剣を教えて欲しいだなんて、本当に素晴らしい心根を持つお人ですね。さすがですわ」


 ニコニコとするアビシニアン陛下。許可が取れたので、具体的な話を進めるとしよう。


「ネログーマ女王よ。一つ提案がある」

「なんでしょう?」


「学校を、作らせてはくれまいか?」

「「学校……?」」


 ふむ……学び舎か。

 

「副王殿が剣を教える学校を作ろうと思う。もちろん、ゲータ・ニィガが全面出資する。副王殿が人にモノを教えるためだけの、特別な学校を、ぜひともこちらで用意させてほしい!」


 ……おや、おや。これは驚きましたね。

 

「いやいや、学校なんてわざわざ作る必要なくね?」


 古竜が後ろでツッコミを入れる。


「別におっさんがゲータ・ニィガ行って直接教えればいいじゃねえかよ。王城とかでさ」


 いや、そうか。王の意図がわかったぞ。


「いえ、古竜さん。学校にすることで、よりたくさんの人たちに剣を教えられるようになります」


 王城の中で、となると入ってこれる人が限られる。

 一方で、剣を教える学校とすれば、身分国籍関係なく、たくさんの人が剣を教わりに来れるという寸法だ。


「さすがだ。我が意図をすぐさま察してくれる。やはり、聡明な御方だ」


 学校……良いアイディアだ。

 しかし。


「新造するとなると、かなり費用がかかるのではないですか?」

「なに、副王殿のためなら、学校の一つくらい、喜んで作らせてもらうぞ!」


 まあ、断る理由は特にない。

 私は喜んで、申し出を受け入れることにしたのだった。 

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