おっさん剣聖、獣の国でスローライフを送る～弟子に婚約者と道場を奪われ追放された俺、獣人国王女に拾われ剣術の先生となる。実は俺が世界最強の剣士だったと判明するが、泣いて謝っても今更戻る気はない

第79話 古竜を泣かす

　兵士達に訓練を施している。

「てやぁ！」「たぁ！」「せえい！」

　闘気を纏った兵士達が古竜の肉体にダメージを与える。

　ふむ。切断まではいかないにしても、深く相手の体にダメージが入るようになったようだ。

　ずずずずぅううううううううん！

「やった！　副王様みてみて！」

　トイプちゃんが元気よくこちらにかけてくる。

「古竜の前足、ぶったぎることが、できましたー！」

「うぉおお！　すげっすよぉ！　トイプー！」

　おや、おや。トイプちゃんはもう、一撃で古竜の前足を切断できるようになったのか。

　やはり恐ろしい才能だ。

「すげえ……トイプ……」

　ごくり、とバーマンが息をのんでいた。三大守護神の一人が、トイプちゃんの才能に恐れを抱いている。

「あ、アタシも……まけてらんねー！」

　うむ、良いことだ。下（兵士）を鍛えることで、上（守護神）にもいい刺激を与えることができる。

　やはり鍛錬は素晴らしいな。

「さて、ではそろそろ、実戦訓練を始めましょう」

「ちょっと待ってアル……」

　エルザが待ったをかける。

「どうしました？」

「実践って……何するの？」

「生きた古竜との実戦訓練です」

「生きた……古竜？　どこにいるのよ……」

　目の前には、四肢や首を切断された、古竜がいる。

「完全に死んでるじゃ無いのよ……。新しい古竜でも見つけるの？」

「いえ、そんなことする必要ありません。この子に手伝ってもらいます」

「いや……普通に死んでるじゃないの……」

　私はファルシオンを抜いて、古竜の前に立つ。

「極光剣。黄金の型……。【黄泉がえり】」

　私の目には、冥界（死者の国）から来た亡者達の姿が見える。

　亡者たちに、魂を連れてかれると、人は死んでしまう。

　が、その前に魂を助けることができれば、蘇生は可能だ。

　私は剣を振るって、亡者達を殺す。結果……。

『あ、れ……おれ……生きてる……？』

　古竜が目を開ける。

「死者蘇生……闘気って本当になんでもできるのね」

　エルザが驚いていた。

「何でもはできませんよ。できることだけ」

「いや……はぁ……もういいわ」

　一方で、古竜は瞬きしてる。

『どうなってんだ！？　おれは死んだはずなのに！』

「こちらの都合で申し訳ありませんが、もうしばし教材になってもらいたく思います」

『ひぎゅ！！！！！！』

　古竜が私を見て失神してしまった。

　おや、覇闘気は使ってないのだが……。

　まああいい。とりあえず私は古竜の体に触れ、白色闘気を流す。

　ズォオオオオオオオオオオオオオオオオ！

「うぉお！　切断された四肢や、失った体の部位が戻っているっすぅ！」

「白色闘気を使って、細胞を超活性させたことで、失った四肢や組織まで回復できるんだよ！　習ったでしょう？　お兄ちゃん」

「そうだったすっね。何度見てもすげーっす！」

　失った対組織を戻すことができた。

　むくり……と古竜が顔をもたげる。

『はえ……？　う、腕とか足とか戻ってる……？』

「ええ。あなたが万全の状態でないと、兵士達の訓練になりませんので」

　さぁ……と古竜の顔から血の気が引いていく。

『ひぎぃいいいいい！　お助けぇええええええええええええ！』

　古竜が全力疾走で逃げようとする。

　が。

　チンッ……！

『あえぇえええ！？　前に進めない！　動けないよぉおおおおおお！　なんでぇえええええええええ！？』

　古竜はその場でジタバタと足を動かしている。

　まるで、目の前に透明な壁があるかのようだ。

「副王様、何をしたんですか？　また殺気を飛ばして、相手をしびれさせたのです？」

　トイプちゃんの質問に私が答える。

「いえ、違います。空間を斬ったんです」

「空間を……斬る……？　天王剣のことですか？」

　天王剣とは、空間を切り裂き、つなぎ合わせることで、転移魔法を再現する剣術のことだ。

「ちょっと異なります。古竜の周囲にある空間そのものを斬ることで、空間断絶を起こします。結果、進めなくなるんです」

　人は空間から空間へと移動してる。

　目の前に進むべき空間がなくなれば、進むことができなくなる、という理屈だ。

「な、何言ってるのかさっぱりわからん……」

　とバーマン。

「……大丈夫よバーマン。私も理屈を聞いても理解できないわ……」

　とエルザ。おやおや。

「勉強不足ですね二人とも」

　エルザとバーマンがうぐぐ、と何か言いたげに口を紡いでいた。

「さて、これで古竜は一定範囲内しか動けなくなりました。さ、兵士の皆さん。古竜を相手に戦ってみましょう」

「「「はーい！」」」

　トイプちゃんをはじめ、兵士達が武器を構える。

『お願い助けて！　ここから出してぇえええええええ！』

「大丈夫ですよ、古竜。訓練が終われば、五体満足で解放してあげますから」

『それって訓練中は何度も四肢とか切断されるってことだろ！？』

「ええ、もちろん。ああでも大丈夫です。死ぬ都度きちんと蘇生＆回復してあげますので」

『いやぁああああああああ！　鬼ぃいいいいいいいいいい！　悪魔ぁあああああああああああああ！』

　おや、おや。

　何を言ってるのだろうか。

「私はただの、おっさん剣士ですよ」