第78話 古竜を指でなぞっただけで切断する



 兵士達に訓練を施している。

 まずは、気を失っている状態の古竜と戦わせている。


「硬い……!」「なんて硬いうろこなんだ……!」


 倒れ伏す古竜の外皮に、兵士達が攻撃を加えている。

 彼らが剣を振るも、その刃が肉や骨に達することはない。


「当然よ。古竜のうろこは神威鉄オリハルコン……正解で最も硬い鉱物に匹敵するんだから」


 とエルザが解説する。


「まじか」「神威鉄オリハルコン並って……かたすぎぃ……」「こんなの斬れないんじゃ……?」


 おやおや。

 

「そんなことはありません。頑張ればできるようになります。バーマン、お手本を」


 妻にして戦神のバーマンが、大剣を手にもって、古竜の前に立つ。


 ずぉ! とバーマンの体から赤色闘気があふれ出す。

 闘気がハイミスリルの剣によって増幅され、彼女の体を強化。


「ずえぇええええええええええええええええい!」


 バーマンは大剣を3回転させる。

 ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


「おお! すげえ!」「うろこを砕いた!」「骨まで刃が到達してるぞ!」


 おおおー! と兵士達が感心する。

 ふむ……。


「バーマン。最近少し、訓練をサボってないですか?」


「「「ええええええええええええ!? だ、駄目だしぃいいいいい!?」」」


 兵士達が驚く一方で、バーマンが「めんぼくない」と頭をかく。


「闘気で体を強化したうえで、三度きりつけて、両断できないだなんて」

「す、すまねえ……先生……。朝練夜練サボってるわ……」


 原因はわかっている。

 彼女が訓練よりも、性行為を優先させているからだ。


 夜になるとすぐに私を求め、あけがたまで私と行為に及んでいる。

 そのせいで訓練の時間が減り、不甲斐ない結果になってしまったのだ。


「バーマン。そして兵士の皆さんも。よく見ておいてください」


 私は古竜の足に触れる。

 すぅううう……と足を指でなぞっていく。


「副王様なにしてるんだろう??」「指でただ古竜のぶっとい足をなぞってるだけ……?」


 なぞり終えた瞬間……。

 ズズゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!


「「「えええええええええええええええええええええ!?」」」

「斬れたぁあああああああああああああああああああああああ!?」


 兵士達、そしてバーマンも、驚愕の表情を浮かべる。

 エルザは絶句していた。


「ど、どうなってるんすか!? 副王様!」


「モノを斬る極意を使ったのです。前に教えましたよね?」


 物体の呼吸を見極めることで、どんなモノも切断できるようになる技術のことだ。


「剣を極め、極意を身につければ、剣を使わずともこのくらいはできるようになります」


 真に剣術を極めしものは、剣を使わずとも相手の命を摘むことができるのだ。


「あ、アル……ちょっと……」


 エルザが私の手を引く。


「どうしました?」

「兵士達に、こんな人外の技を見せちゃだめじゃないの」


「どうしてです?」

「こんな桁はずれの技を見せられちゃ、自信とやる気を失ってしまうに決まってるでしょっ」


 そうだろうか?

 兵士たちを見てみる。


「やべえっす! やる気がでてきたっす!」

「だよねー! お兄ちゃんっ!」

 

 皆が興奮気味に言う。


「副王様のもとで訓練すれば、あたしもあんなふうに、すごい剣の使い手になれるってことだもんっ!」

「うおぉおおお! やる気でてきたぁああああああああああああ!」


 エルザが頭を抱える。


「理解できないわ……どうしてあんなの見せられてポジティブに考えられるのかしら……」

「簡単ですよ、エルザ。獣人の子らは皆素直ですからね」


 頑張れば強くなれると、純粋に彼らは信じてるのだ。

 だから、あんなふうに手本を見せても、心が折れることはない。


「なるほど……バーマンを含め、獣人達はちょっとばー……」

「ば?」


 こほんっ、とエルザが咳払いをする。


「まあ、何にせよ、アルが人外ってことがよく理解できたわ。剣を使わず、あんな太い龍の足を切断してしまうんですもの。しかも神威鉄オリハルコン級のうろこを指で斬るとか、すごすぎるわ」

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