第77話 古竜を気絶させるおっさん



 兵士達に実戦訓練を施した。


「結構自信ついったっすー!」

「これならドラゴンも倒せるかもっ!」


 ワンタ君トイプちゃんが、きゃっきゃと楽しそうに笑い合っている。


「……いや、今倒したからドラゴン……」


 エルザが疲れ切った表情でため息をついた。

 兵士達は、どうやらあの緑竜グリーン・ドラゴン=トカゲと誤認してしまったようだ……。

 私のせいで、兵士達の価値観をゆがめてしまった……。申し訳ないことをした。


「でもよぉ、先生。なんであんなドラゴンたくさんいたんだろーな」


 兵士達が倒したドラゴンの死骸の山を見て、バーマンが首をかしげる。

 ふむ、バーマンはまだ気づいていない様子だ。


 兵士達もまだのようだ。


「いつの時代も、強いボスの周りには、その傘下に入りろうとする雑魚が集まるモノです」

「ボス……ってまさか!」

「ええ、来ますよ。本命が」


 ごご!

 ごごごごごごご……!


「な、なんすか!? 山が揺れてるっす!?」

「違うよお兄ちゃん! 山が……! 動いてる!」


 ほぅ、さすがトイプちゃん。

 敵の正体に気づいたようだ。


 ……そう。

 先ほどまで兵士達が入っていた、山と思っていたモノは……。


「すんげえ! でっけえぇええええええええええええ!」


 体長50メートルはくだらない、巨大な魔物が首をもたげたのだ。

 四足歩行する、地を這う魔物。


「「「「なるほど、あれがドラゴン!」」」」


「いや、あれ【も】、な!」


 バーマンが訂正する。

 エルザ、そしてバーマンの二人が戦慄の表情浮かべる。


「古竜ね……」

「だな。古竜……知性があって、強大な力を持つドラゴンだ。アタシでも倒すのに苦労する……」


「兵士に務まる相手じゃないわね」


 ふむ……?


「二人とも、何を言ってるのですか。あれは兵士達の教材その2じゃないですか」

「「は………………?」」


 バーマンたちが目をむいてる。

 何を驚いてるのだろう。


「ま、まさか……先生? 兵士達に、古竜の相手をさせるんじゃ、ないよな?」

「さ、さすがのアルも、そんなことしないわよね……?」


 え?


「普通に、戦わせようと思ってますが?」

「「ちょっと待ったぁ!!!!!!!」


 二人が全力で止める。

 ふむ……?


「どうしました?」

「どうしたじゃないですよぉ先生ぇ!」

「古竜よ!? Sランクパーティで戦いを挑んでも、普通に負ける相手! Sランクレイドだってかなわないような相手よ!?」


 ……ふむ?

 いやいや。


「単独で倒せますよ、今のトイプちゃんたちなら」


 しかし……。


「あわわ」「おっきー……こんなの……さすがに……」


 おや、おや。

 兵士達が皆萎縮してしまったようだ。


 ふーむ、確かに。


「彼らにとっては初めてのドラゴン戦ですからね」

「さっきもあったけどね!」


 とエルザ。あ、そうだった。緑竜グリーン・ドラゴンはドラゴンだった。トカゲじゃ無かったですね。


「さすがに古竜の相手は無理よ……」

「ってか、ん? あれ? 古竜のやつ、どうして襲ってこねーんだ?」


 エルザとバーマンが、今気づいたようだ。

 古竜が襲ってこないということに。


『あば、あばばば……あの、おっさん……や、やべ、あば……』


 ぶるぶるぶる、と古竜が体を振動させている。

 ぐらぐら、と地面が揺られる。


「まさか……古竜のやつ、先生にびびってんのか……?」

「……あり得るわね。ドラゴンをトカゲ扱いするような強い剣士ですもの」


 ふむ?

 おかしいな。まだ私は絶気状態。つまり、闘気を解放してないのですが。


『生き物としての生存本能がうったえている! あのおっさん……やべええ!』


 古竜は前足で穴を掘り出す。おや、どうやら逃げるつもりのようですね。


「逃がしませんよ」


 私はギンッ、とにらみつける。


『…………』


 ずずうぅうん! と大きな音たてながら、古竜がその場で倒れてしまう。


「な、何をやったんすか……副王様?」


 ワンタ君が戸惑いながら尋ねてくる。


「闘気に殺意を込めて、相手に飛ばしたのです。こうすることで、弱い相手をびびらせ、一時的に行動不能にします。これを【覇闘気】と言います」


 覇闘気を浴びた古竜は気絶して動かなくなってしまった。


「古竜をにらんだだけで気絶させるなんて……すごいわね、アル」


「さ、皆さん。今のうちです。皆さんで協力して、古竜を倒してみてください。大丈夫、相手は反撃してきませんので」


 まず、古竜相手にでも、自分の刃が通るということを、覚えてもらう。

 古竜は倒せない、という認識を無くす。


 そうすることで、どんな敵を相手にしても、戦う前から戦意喪失するようなことはなくなる。


「みんな、やろう!」


 トイプちゃんが剣を抜いて、勇ましく言う。

「あたしたちには、副王様から教えてもらった剣がある! そして、何より副王様が後ろで控えてくれてるわ! 臆する必要はない! いくわよ!」

「「「おー!」」」


 トイプちゃんを先頭に、兵士達が古竜に特攻していく。

 これなら大丈夫そうですね。

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