第64話 同盟成立、褒められまくる



 あくる日、ゲータ・ニィガ王国から、国王陛下がやってきた。

 どうやら、鉱山での騒動を聞きつけて、すぐに様子を見に来たようだ。

 報告を受けてすぐに行動するとは。さすが、賢王。私も見習って行きたい。


 さて。

 国王陛下は獣人国ネログーマ王都、エヴァシマへとやってきた。

 そこでアビシニアン女王陛下と会談。


 二国間は同盟を結ぶことになった。

 調印の式典を終え、1時間後くらいのこと。


 王の執務しつにて。

 アビシニアン陛下と、国王陛下が、ソファに並んで座っている。

 その正面に私は腰を下ろし、両隣にはスカーレット姫とミーア姫が座っている。


「このたびは我が国民を救ってくれたこと、心より感謝するぞ、副王殿」


 陛下が深々と頭を下げる。


「副王として当然の振る舞いをしたまでです」

「ははっ、なんとも礼儀正しい男よ。まことにアビシニアン殿はうらやましい! このような素晴らしい人格者で、凄い優秀な男を手に入れたのだからな!」


 うふふふ、とアビシニアン女王はうれしそうに笑う。


「私は幸運ですわ。希代の天才剣士を我が一族の血に加えることができたのですから。神に感謝です♡」

「剣士としても、男性としても一流なのよっっ!」


 スカーレット姫がフガフガと、早い気荒く言う。


「パパ。聞いて! アレクってばすごいの! 毎晩ベッドで子種を注がれてねー。でも全然疲れ知らずなの! これだけ繰り返せば、きっとすぐに後継者が生まれると思うわ!」

「スカーレット……ハシタナイですよ」


「あら、どこが? 優秀な男性の子を孕み、生むのは、王女としての義務よ。でしょ、ミーア?」

「はいっ! そのとおりですっ!」


 二人とも凄い笑顔でうなずき、顔を赤らめながら、自分の腹を押さえる。

 エルザが言うには、まだ二人は孕んでいないそうだが。時間の問題とのことだった。


 まあ、あれだけ行為を繰り返しておけばそうなるでしょう。


「さすが、辺境の剣聖。強いだけでなく、オスとしても優秀とは!」

「でしょうっ。アレクは凄いんだからっ。見ててねパパ、きっとアレクに似た強くてたくましい子が生まれるからっ!」


「そうすれば我がゲータ・ニィガも、ますます発展することだろうな。こうして、【アレクサンダー同盟】も結んだことだし」


 ……ん?

 

「恐れながら、陛下」

「かしこまらなくてもよい。おぬしは身内なのだから」


 それでも礼を逸して良いわけではない。


「で、どうした?」

「今……アレクサンダー同盟、とおっしゃりましたか?」


「そうだ。こたびの二国間の同盟を、【アレクサンダー同盟】として、歴史書に残すことが決定したのだ」


 ……なんということだ。

 歴史に残る同盟に、私なんぞの名前が使われるだって?


「お、恐れ多すぎます。今からでも、名前を変えませんか? 私は何もしてないですし」

「何言ってるのよアレク。今回、同盟が結ばれたのって、結局アレクがいたからでしょ?」


 うんうん、と陛下達がうなずいてる。


「ほら、国のトップがうなずてるわ。ということで、アレクサンダー同盟で決定!」


 いいのだろうか、こんな適当に名前を決めてしまって……。


「よいのだ。副王殿よ。二国間をつないだ張本人の名前をつけることに、誰一人反対することはないだろうよ」

「そう……ですか。わかりました。では、ありがたく」


 さて。


「続いて、副王殿。このたびの鉱山での働き、誠に大義であった」


 鉱山を占拠していたミスリル・ドラゴンを鎮め、鉱山で働いていた人たちを助けたことにたいして、国王陛下が感謝してきた。


「おぬしのおかげで大勢の民を救うことができた。感謝する」

「頭をお上げください。これも同盟国副王として、当然の働きをしたまでです」


「おお、誠にそなたは、偉大なる副王だの。権力者でありながら、決して椅子に座ってふんぞりかえることなく、現場へ赴き、困ってる民を救うだなんて。誰でもできることではない。すごいぞ」


 私としては当然のことをしただけだ。

 けれど、陛下は感謝しているようだ。


「何かお礼をしなければな……」

「そのことですが、陛下。お願いがございます」

「おお! なんだ! 言ってみなさい! 何でも言うことを聞いてあげよう!」


 陛下が妙に興奮気味に言う。どうしたんだろうか。


「おぬしには借りを作りっぱなしだからの」

「なるほど……。では、陛下。お願いがあります。リルちゃんを、許してあげて欲しいのです」


 ぽかん……とした表情になる。

 説明不足だったか。


「リルちゃんとは、今回問題を起こしたミスリル・ドラゴンのことです。彼女はゲータ・ニィガの民を傷つけてしまいました。許されざることだとは承知しております。でも、それは他者に呪いで操られていたからなのです。ここは、どうか私の顔に免じて、リルちゃんを許していただけないでしょうか……?」


 私の主張を聞いて……。

 ぐすっ、とアビシニアン陛下が涙を流す。


「立派ですわ、アレク……。ああ、なんと立派なのでしょう……。国からいくらでも褒美がもらえるというのに、子供の命を、未来を助けるだなんて……!」


 何をそんな大げさな……。

 子を救うのは、大人として当然だろうに。


「アレクぅ……なんて立派なのぉ!」「ぐす……わたし、感動しちゃいました! アレク様は本当に素晴らしい御方です!」


 姫二人も泣いていた。そこまでのことだろうか……。

 国王陛下は何度もうなずいて言う。


「わかった。ミスリル・ドラゴンの件は不問としよう」

「寛大な処置、誠に痛み入ります」

「よい。というか、他には?」


 他には……?


「どういうことでしょう?」

「お願いじゃよ。ほれ、他にないのか? 何でも言うことを聞くぞ?」

「とおっしゃりましても……」


 他に望むモノなんて……。

 あ、そうだ。


「リルちゃんが作った魔銀の運用権についてですが」


 ミスリル・ドラゴンの血から魔銀が大量に製造されたのだ。

 その運用をどうするか決めておきたかった。


「そなたに一任する」

「では、ゲータ・ニィガとネログーマ、共同で運用する形で」

「な!? なにぃ!?」


 がたた、とゲータ・ニィガ国王がソファからずり落ちる。どうしたのだろうか……?


「ほ、本気で言っておるのか? 利益を独占できるのだぞ?」

「独占なんてしません。二国で、平等に、運用していきましょう。それが一番だと思います」


 ゲータ・ニィガは同盟国でもあり、生まれ故郷でもある。

 こちらの国も幸せになって欲しいのだ。


 国王陛下は「剣神……剣の神とはよく言ったものだ」とつぶやく。


「はい?」

「そなたはもしや、神なのではないか?」

「何をご冗談を……」

「いや、冗談ではないぞ。そなたはいるだけで周囲に幸福と富をもたらす。そんな存在は神をおいて他にない。そなたは地上に降臨した神なのではないか?」


 いやいや、まさかまさか。


「私ごときが神なわけございません。ただの、しがないおっさんです」

「ふふ、やはり謙虚だな。そんなところも大好きだぞ」


 ……どうやら私はゲータ・ニィガ国王にも好かれているようだ。


「ちょっとパパ! アレクはあたしたちのだからね!」

「はは、わかってるよスカーレット。横取りはせぬさ」

「ならいいけどもっ!」


 スカーレットとミーア姫、そして……なぜか後ろから、ぎゅっとアビシニアン女王陛下に抱きしめられていた。

 動いたのはわかっていたが、なぜ抱きつくのだろう……。


「ともあれ、同盟は正式に締結された。これからも、どうかよろしく頼むぞ」

「こちらこそ」


「孫も早く見せておくれよ?」

「が、頑張ります……そちらも……」

 

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