第63話 気配完全に絶つ
《アレクSide》
大鉱山での出来事からしばらく立ったある日の朝。
後宮の寝所にて。
「もう朝ですか……」
ベッドの上には、ぐったりとしてる女性たちがいる。
スカーレット姫、エルザ、
しかしその一方で、まだまだ元気な女性陣もいる。
「先生♡ 好き……♡」
「アレク様♡ もっとお恵みを……♡」
「あなた♡ ちゅっ♡」
そう、獣人達だ。
彼女らは人間やその他種族よりも体力がある。加えて、闘気を身につけたことで底なしの体力をゲットしたのだ。
また、獣人の女性達は強い
ここへ来た当初から、獣人達は私に強い好意を寄せていた。
私を見るだけで顔を赤らめ、呼吸を荒くする。
そして最近特に、その症状は酷くなっている気がする。
「皆さん、もう朝です。そろそろ仕事へ参りましょう」
「先生……♡ もっとぉ♡」
「アレク様♡ わたくしのお仕事は、アレク様のお子をなすことです♡ もっとお願いします……♡」
……獣人達は目を♡にして、私にくっついて、そして子種をねだってくるのだ。
やれやれ。
「……困ったモノね」
むくり、とエルザが起き上がる。
「おはよう、エルザ。大丈夫ですか?」
「……おはよう。ちょっと、まだ、立てないわ。足腰がガクガクして」
エルザも夜になると激しく私を求めてくるのだが、体力がまだ付いてないためか、すぐにへばってしまう。
闘気を注げば体力回復するのだが、無理強いはしたくなかった。
「それで、アル。どうするの、そこの発情獣人3匹」
「そうですね……」
日に日に、彼女たちの発情時間が延びてきてる。
彼女らを満足させるのはかなり骨が折れるのだ。彼女らは一度や二度程度じゃ満足しない。しかも複数人いるため、一人にかける時間が短くなる。そうなると、彼女らの不満と性欲はたまる一方になってしまい……。
結果、朝になってもこの通り、発情状態が続いてるということだ。
「それぞれ王族と兵士長という立場。子作りだけ専念していればいいというわけでない以上、この状態がずっと続くのはまずいわね」
「ですね、どうにかしないと……」
三人とも目が♡で、尻尾がずっとピンと立ったまま、しかもずっと荒い呼吸を繰り返してる。
とてもまともに思考ができる状態ではない。
「これも全部、アルがオスとして優秀すぎるせいね」
「面目ない……」
「謝らなくていいわ。あなたが強く優しい、最高の男性だってことは事実なんだし。悪いことをしてるわけじゃないし。そもそも、この子らの自制心が足らないのが問題じゃないの」
とはいえ、発情させてる原因は私にある以上、彼女らの問題を解決する義務が私にはある。
さて、どうするか……。
「エルザ、何かいい案がありませんか?」
「そうね……。獣人は力強いオスに引かれるなら、弱体化するのはどう?」
「弱体化……なるほど」
今のでヒントを得た。
私は目を閉じて深呼吸をする。
すると……。
「あれ? アタシはいったい……?」
「あわわ! もうこんな時間! 着替えて公務にいかないとっ!」
バーマンとミーア姫が正気に戻っていた。
エルザは目を丸くしてる。
「ど、どうなってるの……? この子ら、すっかり元に戻ってるけど」
「ああ、エルザはまだ闘気初心者でしたね。エルザ、私の体を見て、どこか普段と違うところに気づきませんか?」
エルザがじろじろと私を見て、ふとつぶやく。
「
「そうです。私は体から闘気が漏れ出ないように、量をセーブしてるのです。これを【絶気】といいます」
絶気は、文字通り
使うことで疲労を回復したり(闘気を内にとどめておくことで)、また気配を絶つ効果もある。
「バーマンたち獣人は五感が人間よりも鋭いです。闘気を肌で感じることができ、そこから転じて、無意識に相手の強さに対する格付けを行ってるようです」
「なるほど……闘気量で相手の強さを量ってるのね。だから、闘気を絶つことで、相手の発情を押さえると」
強いオスに(=強い
「で、でも待って……アル。あなたから闘気が全く感じられないのって、おかしくない?」
「そうですか?」
「そうよ。だって、闘気使いでもない、普通の人間やモノですら、微弱に闘気を発してるのでしょう? でも今の貴方は闘気が完全にゼロ。そんなこと……あり得るの?」
「? あり得るも何も、現にできてますが」
「そ、そうだけどっ」
一方バーマンたちは頭を下げる。
「先生、すまねえ。我を忘れてた……」
「いえいえ。では、皆さん着替えて。仕事にいきましょうか」
「「「はーい」」」
エルザは頭を抱える。
「どうしました?」
「……いや。どう考えても、闘気を完全にゼロにすることなんて、不可能だと思う」
「それってつまり……」
「ええ、あなたが何気なくやったその技術が、凄すぎるってことよ」
おや、またですか……。
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