第65話 空間ぶった斬り



 あくる日、私は兵士たちを連れて、大鉱山へとやってきた。リルちゃんがいた鉱山だ。


「ほわぁあ! す、すごいのじゃ! 魔銀ミスリルが、こんなにたくさんあるじゃとおぉおおお!」


 私達に同行してきたドワーフ職人のガンコジーさんが、歓声を上げる。

 鉱山内の壁や天井は、青みがかかった銀色の鉱物で覆われている。


 これが魔銀ミスリル

 魔力・闘気を最高の効率で通す、とても希少な鉱物だ。


 エルザ曰く、高難易度ダンジョンの、奥深いところでしか取れないらしく、かなりレアな鉱物だという。

 かなり高値で売買されているのだとか。


 そんな希少な鉱物を目の前にして、ガンコジーさんは大興奮。

 すりすりと魔銀の表面に頬ずりしていた。


「副王様、これから何するんすか?」


 獣人兵士のワンタくんが手を上げて質問してくる。

 彼の妹トイプちゃんを始め、兵士達も、今から何をするのか気になっている様子でこちらを見てくる。


「この魔銀ミスリルを使って訓練をします」

「訓練?」

「ええ。内容は単純。この魔銀を武器で切り取るのです」


 私は木刀を手に魔銀の鉱床へと近づき、ストンッ、と斬る。

 切り取ったそれを手に、皆に見せる。


「なんかすげえ簡単そうっすね」

「お兄ちゃん、バカなの?」


 トイプちゃんがあきれたようにため息をつく。


「なにぃ? バカってどういうことっすかトイプ!」

「お兄ちゃん、副王様が切り取った鉱石、触ってみて」


 ワンタ君が近づいてきて、つんつんと指で突く。


「硬えす……。え、これ木刀で切れるもんなんすか?」

「無理に決まってるでしょ。しかも、副王様は闘気を使って無かったじゃない」

「ふぁ!? まじっすか!?」


 どうやらまだ、ワンタくんをはじめ、闘気を24時間吸収する呼吸法……【常駐】を身につけていないようだ。

 一方……。


「トイプちゃん。常駐、ちゃんとできるようになってますね」


 この子にはこないだ、闘気を24時間吸収し続けるやり方を教えた。

 そしたら、モノの数日で、技術を習得して見せたのだ。本当に覚えが早い。これからもっともっと強くなっていくだろう。


「副王様、闘気で体を強化しないのは、どうしてですか?」

「魔銀には闘気と魔力を吸収する力があるのです。それゆえ、闘気で身体強化し攻撃を加えても、威力半減してしまうのです」


 なるほど……と皆が納得したようにうなずく。


「で、でも……じゃあ闘気も使わずどうやって?」

「そうじゃ! ありえんぞ!」


 我に返ったガンコジーさんが私に尋ねてくる。


「魔銀は、神威鉄オリハルコンほどではないにしても、かなり硬い鉱物じゃ。採掘は特殊な道具を使わないと不可能。木刀で切り取るなんて、あり得ないことじゃて」


 確かに、コツを知らない人たちからすれば、どうやったのか気になるだろう。


「モノを斬る極意を使うのです」

「「「モノを斬る極意?」」」


 私はエルザに説明した、極意について伝授する。

 森羅万象、あらゆるものは呼吸をしてる。そして、息を吐いた瞬間がもっともろい。そこを狙ってモノをきれば、万物を斬れる……と。


「モノの呼吸……? い、意味わかんねーっす。モノって呼吸してないっすよね……?」


 大半の兵士達は、私の言ったことを理解できていなかった。

 

「ちょっとわかった気がしますので、やってみます!」

「マジかよトイプ!」


 トイプちゃんが剣を持って、魔銀ミスリル鉱床の前までやってきた。

 目を閉じて、武器を振り上げる。


 彼女は絶気状態、すなわち、闘気をゼロの状態だ。

 ……嘘だろ。教えてないのに、この子は絶気を、習得していた。恐ろしい才能だ。


「ヤあッ……!」


 トイプちゃんが剣を振り下ろす。

 ごとん! と魔銀ミスリルが落ちた。


「うぉおおおお! と、トイプぅううう! おま……おまえ! すごすぎるっすよ!」


 なんて才能だ。一発でモノを斬る極意をみにつけ、魔銀を斬ってしまった。


「えへへっ♡ どうですか、副王様」

「素晴らしいです」

「やったー! 褒めてもらったー!」


 ぶんぶん! とトイプちゃんが尻尾をうれしそうにふる。


「見事じゃな……副王よ。まさか一度教えただけで、魔銀を斬れるようにしてしまうとは」

「いえ、私はなにもしてないです。この子の才能が半端じゃなかったのです」


 ガンコジーさんも驚いてるようだ。

 落ちた魔銀を、私は異空間にしまう。


「待て待て待つのじゃ副王よ!」

「どうしました?」


 ガンコジーさんが空間の裂け目を指さして言う。


「なんじゃそれ!? 魔銀をどこにしまった!?」

「? 空間の裂け目にですけど」


 おや?


「ガンコジーさん、天王剣……ファルを使って空間を切り裂く秘奥義を、知ってますよね?」


 確か、ゲータ・ニィガからネログーマへ来るときに、見せたようなきがする。


「う、うむ……じゃが、あのときは聖剣を使って空間を斬って、つなげただけだったような……」

「はい。そこから試行錯誤して、新しい剣を身につけたのです。空間を切り裂き、そこにものを収納しておく」


「アイテムボックスのスキルか!」

「? いえ、剣技ですけど」


 スキルでは無く、単なる剣の技のひとつだ。


「いやそれは、アイテムボックススキルじゃ! 超超レアなスキルで、いにしえの勇者しか使えないというものじゃ!」

「そんなスキルを剣技で再現してしまうなんて、さすが副王様っす!」


 いや、スキルじゃ無くて剣技なのですが……。

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