第59話 キスしてドラゴンげっと
私はミスリル・ドラゴンを元に戻した。
『ちゅき……ちゅき……♡』
すっかり元通りになったドラゴンは、私の頬にキスをしてくる。なんとも可愛い子だ。
『こ、これおまえ! あれくから離れろ!』
聖剣ファルが声を荒らげる。
ああ、なるほど。この子が私を食べてしまうかも、と思ってるのだろう。私の身を案じてくれてるわけだ。
「心配ないですよ、ファル。この子は私たちに敵意を抱いていません」
『ちゅき……♡』
「ほらね」
しかしファルは『そういうことではなくっ』と何やら怒ってる様子。
使い手たる私を、このドラゴンは傷つけた。だから、怒ってるのだろうか。
「ファル。この子はまだ子供、しかも操られていたのです。自分の意思で私を傷つけたのではありません。だから、この子が私を傷つけたことを許してあげましょ」
『…………もうよいわい。このお人好しめ!』
結局ファルが何に怒ってるのかさっぱりわからなかった。
ふーむ……。まあ、今は置いておきましょう。
「ドラゴンさん」
『きゅ……?』
「あなたは、どうしてここにいるのですか?」
『きゅ……わからない。ずっとひとりぼっち……そこに、へんなのきたの……そこから、記憶が無いの……こわいゆめ……ずっと見てたの……』
察するに、この子はだれ変わるやつに捕まり、ドラゴン・ゾンビにさせられ、ここへと無理矢理連れてこられたのだろう。
しかも、ひとりぼっちってことは……親が居ないのか。それは、寂しいな。
「君、名前は?」
『ないの……きづいたら、ひとりぼっち……ずっと……』
「そうですか……」
なんとも可愛そうな子だ。この子を一人にしておくのは、できない。
「よければ、私と一緒に来ますか?」
『いいのぉ!?』
「ええ」
『わぁい! うれしいー!』
巨大なドラゴンが私にくっついてくる。ごりごり、と頬ずりをしてきた。
「ということで、この子を連れて帰ります」
バーマンとエルザに言う。二人は微妙な顔をしていた。
「ちょっと……」
「あんまり……」
どうやらこの子を連れて行くことに、難色を示してるようだ。
それはまあ、わからないでもない。この子はドラゴンだ。それにこの巨体。獣人たちを傷つけるかもしれない。
「大丈夫ですよ。傷つけませんよね?」
『うんっ』
だがエルザは首を横にふる。
「この子は幼竜、言うことを守る保証はないわ」
「ふむ。では何かいい案はあるかい?」
「そうね、従魔にするのはどうかしら?」
「じゅーま? んだよそれ?」
バーマンが尋ねると、エルザが答える。
「使い魔のことよ。サーバントともいうわ。獣は人間と契約を結ぶことで、従魔となる。主人たる人間の言うことに絶対従うようになるわ」
なるほど。
正直この子の首に鎖を巻くようなことはしたくない。
が、現地の人たちからすればドラゴンは猛獣だ。
野放しにしたら危ない、と思う気持ちは理解できる。
「ドラゴンさん……いや、リルちゃん」
『りる?』
「君の名前です」
『すてき!』
気に入ってくれたようで何よりである。
「君を私の従魔にしたい。いいかい?」
『りるを、あなたのものにしてくれるのっ』
「え、ああ、そうですね」
『うれしいっ。おねがいっ。りるを、あなたのものにしてっ』
エルザがうなずく。
そしてパチンと指を鳴らす。
瞬間、私とリルの間に魔法陣が展開される。
「では、アル。この子にキスをしてあげて」
「ちょ!? エルザ!? キスって!」
「仕方ないのよ。契約にはキスが必要」
ぐぬぬ、とバーマンが不満顔。何が嫌なのだろうか。子供とのキスに、まさか嫉妬するとは思えないが。
「では、リル」
『はい♡』
リルの大きな口に、私が唇をかさねる。
カッ!
ゴォオオオオオオオオオオオ!
「な!? あのドラゴンが光ってる!? サイズも小さくなってないか!!」
バーマンが叫ぶ。
リルはどんどん小さくなっていく。
そして光が消える。
目の前には、小さな人間の女の子がいた。
「君は、まさか。リルですか?」
「うんっ。りる!」
にょき、とドラゴンの翼が背中から生えた。
しかし見た目は完全に人間。年齢は10歳くらいだろうか。
契約のせいで人間になった、ということだろうか。
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