第57話 ドラゴンゾンビを相手に無双する
私たち三人は、ミスリル・ドラゴンがいる洞窟の中に入った。
「うぉ! なんじゃこりゃ! 洞窟が
バーマンが洞窟内を見渡して声を張り上げる。
確かに、四方の壁天井は、青みがかった銀の鉱石で覆われている。
「……こんな大量の魔銀、見たことないわ」
エルザもまた目の前の光景に驚いてる。
おや?
「ここは魔銀の鉱山ではないのですか?」
「……いいえ。魔銀が取れる場所は限られているわ。たとえば、最高難易度のダンジョン、その最下層、とかね」
なるほど。まぎんがこんなふつうの鉱山で取れるはずがない、ということらしい。
「でも現に魔銀あるじゃん。なんであるんだよ?」
バーマンの問いかけに、エルザは首を横にふる。
「わからないわ……」
エルザでもわからないのだ、いまここで色々考えてもしかたないだろう。
「先に進みましょう。この先にいる、ミスリル・ドラゴンを退治しないと」
わからないことに思索を巡らすのではなく、本来の依頼をこなすのほうが先決だ。
魔銀に覆われた洞窟を、奥へと進んでいく。
「いたぜ! 先生! 竜だ!」
巨大なドラゴンが、ぼりぼり、と何かを貪っていた。
鉱石でもくってるのだろうか。
……ふむ。それにしても、あのドラゴン。普通のドラゴンじゃないぞ。
「先手必勝! うぉおおおお!」
バーマンが大剣を手にドラゴンへと特攻していく。
「闘気を使わずに、相手を……斬る! ずぅええい!」
バーマンが体を回転させながら大剣を振るった。
刃は、鉱石をボリボリ食っていたドラゴンの首を、スパン! と切り落とした。
だくだくと、切断面から血が流れる。
「しゃあ! どうだい先生! 一撃で倒してみせたぜ!」
バーマンがこちらを向いて、ぶんぶんと手を振る。
が。
「逃げなさい、バーマン!」
「え?」
首を失ったドラゴンが、のそりと体を起こすと、尻尾を振るった。
私は闘気で体を強化し、バーマンを抱き抱えてその場から離脱。
さっきまで彼女がいた場所に、ドラゴンの尻尾が叩きつけられる。
床の魔銀がくだかれる。それほどまでに、強力な一撃だった。
「あ、ありがとう、先生……」
「いえ」
私はバーマンをおろし、首を失ったドラゴンを見やる。
落ちた首の切断面から、黒い煙が立ち上がる。
「なんだい、あの黒い煙?」
「!? 首が元に戻っていくわ!」
落ちた首は立ち上がり、もともとあった場所に戻って行った。
『オロロロロオォオオオオオオオ!!!!!』
ドラゴンが咆哮をあげる。
エルザはそれを見てつぶやく。
「まさか、ドラゴン・ゾンビ!」
「なんだよ、ドラゴンゾンビって?」
「強い恨みをもつドラゴンが、死後、ゾンビ化した姿よ。あれは生ける屍、殺しても……死なないわ」
「んな!? 殺しても死なないだって!?」
バーマンが驚愕してる。
なるほど、だから、バーマンが首を切っても生きていたのか。
『オロロぉおおおおお!』
ドラゴン・ゾンビが口を開く。
「逃げて! ドラゴンブレスがくるわ!」
ズドドドドドドドドド!
ドラゴン・ゾンビの口から吐き出されたのは、無数のミスリルの槍。
細く鋭く尖った、無数の槍の雨が、私たちめがけて殺到する。
「あ、あんな量の槍、回避も防御もできねえ!」
「しかもミスリルでできてるから、防御魔法で防ぐこともできないわ」
「大丈夫です」
私は木刀を片手にもち、自分の肉体を白色闘気で強化する。
「ふん!」
私は渾身の力をこめて、木刀を振るった。
ビョォオオオオオオオオオオ!
「うわ! すげえ突風!」
「なるほど、素振りで発生した突風で、ミスリルの槍を跳ね返したのね! さすがね、アル!」
「このまま自分の槍で串刺しになりな!」
だが。
槍は全て、ドラゴン・ゾンビを避けた。
「な!? 槍がドラゴンを避けた!? どうなってんだ!?」
「私があえて、当たらないようにしました」
「あ、当たらないようにした!? どういうことです!?」
私はバーマンに説明する。
「この子は、苦しんでいます。誰かに無理やりゾンビにされて、動かされてるのだと思われます」
「……なぜ、そう思うの?」
「闘気を見れば、心の動きがわかります。この子の闘気は、私たちを攻撃する際に、悲しい色をしていました」
この子は自分の意思で攻撃してきた訳じゃない。
つまり、誰かに操られてるということ。
「ドラゴンさん。私が、楽にしてあげます。だから、おとなしくしててください」
『お、ろ…………ろぉおお!』
ドラゴンさんが尻尾で薙ぎ払う攻撃をしてくる。
私はそれを軽く身を捩って、回避。
すたすたと歩きながらドラゴンさんに接近する。
「す、すげえ。ドラゴンのやつ、目にも止まらない速さで尻尾を振るってきてるのに、先生は全て見切ってギリギリで回避してやる!」
木刀で薙ぎ払うこと、尻尾を切断することは容易い。
だがそうすると、ドラゴンさんを傷つけることになる。
それはしたくなかった。
私は相手の攻撃を全て見切り、そして、ドラゴンさんの近くまでやってきた。
「少し、静かにしててくださいね」
私は木刀でドラゴンさんの首筋に打撃を与える。
ずずぅうん、とドラゴンさんんはその場に崩れ落ちた。
「……死んだの?」
エルザの問いかけに、私は首を横に振る。
「いえ、紫色闘気を相手に流し、ドラゴンさんを一時的に麻痺させてるだけです」
「ドラゴンすら圧倒するなんて、やっぱ先生はすげえぜ!」
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