第56話 ミスリルくらい簡単に斬れるよね?



 私とバーマン、エルザの三人は大鉱山へと向かった。

 魔銀の粉塵が漂う中、ついに、鉱山の入り口に到着した……のだが。


「うぉ! なんじゃあありゃ! 入り口が塞がれてるじゃあねえか!」


 バーマンが指さす先は、大鉱山の入り口。

 しかしそこを、青みがかった、美しい鉱物が覆っていた。


「エルザ。もしかしてあれが……」

「ええ、魔銀ミスリルね」

「なるほど……なんと美しい……」


 入り口は完全に魔銀で覆われ、封鎖されていた。

 現場のリーダーさん曰く、この大鉱山の入り口はここしかないという。


「どうする、先生。入り口がこんな感じで塞がれてるけどさ」

「突破する他ないでしょう」

「ですよねー!」


 するとエルザが私達に言う。


「難しいと思うわ」

「おや、どうしてですか?」

「百聞は一見にしかずね。ちょっと下がってて」


 エルザは杖を取り出して、魔銀に向かって魔法を放つ。


火炎連弾バーニング・バレット


 杖先から発生されたのは、無数の火炎の弾丸だ。

 ズガッ! ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


「うお! やべえ……エルザなんか魔法の威力あがってねーか?」


 魔法には反動がある。魔法使い達は反動でダメージを負わないように、無意識に、魔法の威力を下げている。

 しかしエルザは闘気オーラで体が強化された。

 反動でのダメージがなくなったため、魔法の威力が以前よりも上がっているのだ。


 が。


「うぇ!? マジか! あんなやべえ魔法を受けても、傷一つついちゃいないなんて!」


 魔銀の表面には傷もひびも入っていなかった。

 これは……。


「魔法が魔銀に吸収されたんですね」

「……そのとおり。さすがアル。慧眼ね」


 私は魔法が魔銀表面にぶつかり、大爆発を起こした直後、すぐさま吸収されたのがわかった。 

 しかし、ううむ……。


「魔法は全部吸収されてしまうのですね」

「なら、闘気で強化して殴るしかないですね! アタシが行きますよ! 火炎の太刀!」


 バーマンが闘気オーラを炎に性質変化させる。

 炎を纏った大剣で斬りかかる。


「爆竜剣!!!!!!!!」


 バーマンの大剣に炎の竜がまとわりつく。

 彼女は渾身の力で魔銀をぶった切ろうとした。


 ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


「うげぁ……! か、ってぇえ……!」


 バーマンの剣は弾かれて、彼女ごと吹っ飛ばされる。

 私は空中で彼女をキャッチして、ふわっと着地する。


「せ、先生……好き……♡ 男らしい……♡ 好き……♡」


 ぱたぱた、と尻尾を振るうバーマンを、私は下ろしてあげる。

 

「アタシの剣も弾いちまった。なんつーかたい鉱石だ」

「……アルにベタベタくっつくんじゃないわよ」


 ぐいっ、とエルザがバーマンを私から引き剥がす。


「……おそらくだけど、闘気オーラを吸収する性質もあるみたいね、魔銀には。もっとも、魔力よりは吸収効率は悪いみたいだけど」


 ふむ……。

 つまり、魔銀ミスリルには魔力と闘気、どちらのエネルギーも吸収する性質があるようだ。

 闘気を込めた一撃を放っても、直前に闘気を座れてしまうため、物理攻撃力も半減してしまうと。


「どうしよう、先生。魔法も闘気の攻撃も効かないみたいです。困ったな……」

「おや? 簡単なことじゃないですか。魔法も闘気も使わず、魔銀を斬ってみせればいいのでしょう?」

「え……?」


 私は木刀を抜いて構える。


『われを使わないでよいのか、あれくよ?』


 聖剣ファルシオンが問うてくる。

 確かにファルのほうが切れ味が良い。だが。


「貴女を使ったら、斬れすぎてしまいます。すると、中にいる人を傷つける可能性がありますので」

『なるほど。何か意図があるのじゃな。わかったのじゃ』


 私は木刀を構え、呼吸を整える。


「せい」


 洞窟を覆っている魔銀めがけて、優しく、木刀を振り下ろす。

 ストン……。


「「な!? 魔銀を斬ったぁ!?」」


 すとんっ、すとんっ、と木刀を動かし……。

 ずずうぅん!


「す、すげえ……! すごすぎるぜ先生! 魔銀の塊に穴を開けちまった! しかも、闘気も使わずに!」


 洞窟入り口をおおっていた魔銀が、現在、一部分だけ切り取られている状態だ。

 エルザが震えながら尋ねる。


「あ、アル……? それ、ただの木刀……よね? 刃も何も付いてない」

「そうですね」

「……いや、そうですねって……。木刀で、鉱物を斬ったのよ? あり得ないでしょう!」


 いつも冷静沈着なエルザが動揺していた。

 ふむ、無理もないか。

 彼女は剣士じゃないわけだし。


「どうやって斬ったの?」

「簡単ですよ。ものの【呼吸】を読んだのです」

「も、ものの……呼吸?」


 私は説明する。


「人間、モノ、この世に存在するあらゆるものは、呼吸をしています。呼吸とは緊張と緩和の繰り返し。緩和してるときが、【モノ】は一番もろくなる。そこを狙って、斬るのです」


 さすれば、木刀で鉱物を切ることくらいたやすい。

 エルザは私の説明を聞いてもピント来ていない様子だ。無理も無い、彼女は剣を扱うプロでは無いから。


「ば、バーマンもこのこと知ってるの?」

「理論はよくわかんねーけど、アタシも相手を斬るとき、呼吸を見計らってるよ。でも、先生レベルでは無理。やっぱ先生はすげえわ!」


 剣士であるバーマン、そして弟子の勇者達には、呼吸のタイミングを見計らって斬るという、【モノを斬る極意】を伝授している。

 だから、私の説明、そして私が今魔銀を斬った理屈も理解してるようだ。


「……やっぱり、アルの剣はおかしいわ」

「おかしい? なにか、変なモノが付いてますか?」

「いや、強すぎて、おかしいって意味で言ってるのよ!」


 

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