第54話 美味い飯で皆を強化する



「さて、では調理を開始しましょうか」


 鉱山作業員たちの集落にて。

 空腹の彼らのために、料理を作ってあげることにした。


「……アル。火の用意しておいたわ」

「ありがとう、エルザ」


 エルザの魔法で火をたいてもらった。

 まな板や鍋と言った調理道具は、ネログーマから借りている。


 ベタリナリ城の厨房を借りれば良かったかもしれないが、熱々のうちにご飯を食べてもらいたいのだ。

 ……ふむ? 今少し、新しい剣術のアイディアが思い浮かびかけたが……まあそれは後で試すとしよう。


 さて。


「まずは肉を斬りました」

「斬りました!? え、いつの間に!?」


 バーマンが採ってきた魔物の肉をスライスした。

 ぎょっ、と彼女が目をむいてる。


「? 目で追えなかったのですか?」

「ああ、先生……最近どんどん強くなってますよ!」


 ふむ。そうなのだろうか。

 私はそんな自覚はないのだが。そういえば、村を追放され、こっちに来てから体の調子が良い気がする。


「……陰の【気】を、女から吸収してるからかもね」

「エルザ? どうしました?」

「いえ、何でも無いわ。続けて」


 私はスライスした魔物の肉を、フライパンの上にのせる。

 そして……。


「これを使います」


 私は革袋に入れておいた、小さな瓶を取り出す。


「先生、なんです、それ?」

「秘伝のタレですよ」


 こちらの世界に来てまず感じたのは、食事の質の低さだ。

 転生後、私はなんとかして日本食が食べられないものかと思い、修行の合間を縫って日本食を研究して【いた】のだ。


 このタレは、向こうの世界では凄いポピュラーな調味料から作ったタレである。


「肉にこのタレをかけます。あとは加熱するだけです」

「!? な、なんですか先生ぇ! なんか……めっちゃ良い匂いがする!」


 バーマンは獣人だ。人間よりも嗅覚に優れる。

 だから、この匂いにすぐに気づいたのだろう。


「な、なんだ……?」「すげえ芳ばしい匂い……」「嗅いでるだけで腹が空いてるくるぞ……」


 作業員さんたちもふらふら、と匂いにつられてやってくる。

 元日本人である私からすれば懐かしいにおいだ。


「せ、先生! や、やべえ……よだれが止まらねえです! は、早く食べさせておくれっ!」

「……あ、アル……わ、私も……」


 クールなエルザですら、瞳を潤ませながら、早く早くとせがんでくる。

 食の魔力とは恐ろしいものだ。


 ほどなくして、料理が完成する。


「できましたよ」

「「「おおおおおお! うまそぉお!」」」


 作業員たち、そして守護神たちが、完成品を見て目を輝かせている。

 魔物の肉にタレをかけてやいた……。


「これは、【生姜焼き】といいます」


 そう、私が作ってあったのは、生姜焼きのたれだ。

 前世では一人暮らしだったため、よく自炊していたのだ。タレのレシピも頭に入っていた。

 こちらに転生後、村長のつてを使ってしょう油に近いモノを手に入れ、その後いろいろ試してこの生姜焼きのタレを完成させたのである。


「あ、あの! た、食べてもよろしいでしょうかっ!」


 作業員さんがよだれをだらだら垂らしながら私に尋ねてくる。


「ええ、どうぞ」

「「「いただきまぁす!!!!!」」」


 作業員+嫁達が一斉に、生姜焼きにかぶりつく。


「う、うめええええええええ!」


 バーマンが真っ先に叫んで、涙を流していた。


「せ、せんせ……はぐはぐ……う、うま、うますぎる! こ、こんな美味いもの、初めてたべてたよぉお! うぉおおん!」


 バーマンが弟子としていたころには、まだタレが完成していなかったな、そういえば。

 だから日本食を食べるのはこれが初めてか。


「……涙がでてきちゃうわ。美味しすぎるよこれ」


 エルザも泣きながら食べている。

 もちろん、作業員さんたちもだ。


「おいしいです……副王様……こんなおいしいものを作ってくださり、ありがとうございます……ぐす……うう……」

「いえいえ。おかわりはたくさんありますよ。たくさん食べてくださいね」

「「「おかわりー!」」」


 ほどなくして、あんなにたくさんあった魔物の肉が、すべて消えてしまった。

 皆さん満足そうな顔をしておなかを押さえてる。


「なんだか力がわいてくるぜ!」「おれもだ!」「体がぽかぽかして、体に力がみなぎってくるぅ!」


 作業員さん達が立ち上がり、声を張り上げる。

 ……おや、おや?


「これは……どういうことでしょうか……?」

「……どうしたの、アル?」


 エルザが私に問うてくる。


「彼らの闘気オーラ量が……増えてるのです」


 先ほどまで、彼らが発する生命力おーらは、風前の灯火だった。

 それが今は、彼らの体から力強い闘気オーラの輝きを放っている。


 闘気オーラ使いとなったエルザもまた、それを観測できるようだ。

 しばし考えて言う。


「おそらくだけど、魔物に含まれてる闘気オーラを、吸収したのではないかしら?」

「魔物の闘気オーラ?」


「ええ。生物は皆、闘気オーラを持っているのでしょう? 魔物はより強い闘気オーラを持っている。それを経口摂取することで、さらに強い闘気オーラが手に入るのではにかしら?」


 ……なる、ほど。 

 確かに、そうかもしれない。


「私が闘気オーラを流すことで、闘気オーラ使いとして覚醒できるように、闘気オーラを持つ魔物を食うことで、闘気オーラを増やせる……と」


「……またしても、歴史的大発見ね、アル。本当にすごいわ」


 ふと、私はあるアイディアを思いついた。


「……エルザ。もしかしてだけど、私の闘気オーラ量が増えたのって……」


 かぁ、とエルザが頬を赤くする。


「そ、そうね……。女と性行為をすることで、【闘気オーラ】を吸収したんじゃないかしら。ほら……女と寝ることを、女を食う、というし」


 な、なるほど……。

 確かにこちらに来て、嫁ができてから、私は性行為をするようになった。それにより、女性から私は気を吸収していたわけか。


 そういえば、女性には陰の気を纏う、と前世で聞いたことがある。

 食事だけでなく、性行為でも、闘気オーラを吸収できるのか……。だから、強くなっているのか、私……。


「難しい理屈はわっかんないけどさ。ま、先生がすげえってことだけはわかったぜ! さすが先生だ!」


 バーマンは屈託のない笑顔でそういう。

 私は、知らずバーマンから闘気オーラをもらっていたのだと思うと……。


「すみませんね、バーマン」


 と申し訳なくて、頭を下げたのだった。

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