第53話 魔物を調理して驚かれる



 大鉱山の近くにて、鉱山病にかかっていた人たち全員を治療した。

 これで安心……とはいかなかった。


「うう……腹減った……」「おかあちゃん……おなかすいたよぉう……」


 みなさん、どうやら空腹のようだ。


「……おそらく病気でまともに動けず、食料の確保も困難だったのね」


 宮廷医であるバーマンがそう彼らの状況を分析する。


「病気はなおったけど、このままじゃ全員栄養失調で死んでしまうわ」

「それはいけませんね」


 このまま彼らをほっとくのはあまりに不憫だ。

 ここはゲータ・ニィガとの国境。国内のトラブルではない。助ける義理はナイト言われるとそれまでだ。


 けれどゲータ・ニィガとネログーマは友好関係を築こうとしている。

 友好国の国民が困っているのだ。副王たる私が動くには十分過ぎる。


 それに……そもそも困っている人をほっとけない。


「わかりました。では、まずは食事ですね」


 彼らが高山病になった理由が気になるものの、それよりまずはご飯だ。

 皆さんが元気になってから事情を聞くとしよう。


「バーマン。適当に、周囲の森で魔物を狩っててください。ボア系の魔物だと助かります」

「OK。先生はどうする?」

「私は一度エヴァシマに戻り、野菜を取ってきます。エルザは、バーマンと行動を共にし、倒した魔物を魔法で凍らせていてください」


 バーマンたちは素直にうなずく。

 私は天王剣を使い、空間転移して、エヴァシマへ行く。


 ミーア姫に事情を話し、野菜を分けてもらった。

 ほどなくして、私はバーマンたちのもとへと戻ってきた。


「先生! 言われたとおり、魔物いっぱい狩っておいたぜ!」


 氷付けのイノシシ魔物を前に、バーマンが笑顔で言う。


「ありがとう、バーマン。助かりましたよ」

「えへへ♡ 先生に褒めてもらえてうれしいぜ~♡」


 一方でエルザが首をかしげながら言う。


「……ところでアル。魔物を狩ってきて、いったい何をするの?」

「? これでご飯を作るのですよ」

「「えええ!?」」


 おや? バーマンとエルザが驚いてる。どうしたのだろうか……。


「せ、先生……冗談きついぜ。魔物を食べる? 嘘だろ?」


 バーマンが戦慄の表情を浮かべていた。冗談でも嘘でもないのだが。


「……アル。知らないの? 魔物は瘴気がこもっていて、食べれないの」

「???? いえ、食べれますよ」


 瘴気とはなんだろうか。

 それにどうして二人は食べれないというのだろう。


 魔物は栄養素豊富な食材なのに。


「実践して見せましょう。エルザ、1体を解凍してください」


 不審がりながらも、エルザは私の言うとおり、魔法を解いてくれた。

 新鮮な魔物の肉を前に、私はファルを構える。


「ファル。使わせてもらいますね」

『うむ! よいぞー! アレクに使ってもらえるがうれしいのじゃっ!』


 私はファルを抜いて、そしてイノシシ魔物の前で構えを取る。


「極光剣。黄金の型。【浄化】」


 私はスパンッ! とイノシシめがけて剣を振る。

 キンッ、と納刀すると同時にイノシシがバラ……! とばらける。


「す、すげえ! 剣の一振りで、イノシシが完全に解体されてるぜ!」


 目の前には皮、牙、骨、そして肉と部位ごとに綺麗に分解された元イノシシの死骸がある。

「はぁ! やべえ……魔物をこんなに綺麗に解体できるだなんて! さすが先生だぜ!」

「……解体の腕が見事なのはわかったけども。魔物の肉が食べれないことには変わりないわよ?」


 おや、エルザは気づいていない様子だ。


「よく見てごらん、エルザ」

「???? !?」


 エルザはしゃがみ込んで、魔物の肉に対して鑑定魔法を使った。

 ぎょっ、とエルザが目をむいて言う。


「し、信じられない!? 魔物の瘴気だけが、中和されてるわ!?」

「お、おいエルザ。どーゆーこった!?」

「魔物の肉に含まれる毒がなくなったってことよ!」

「なんだって!?」


 おや、おや。魔物の肉に毒なんてあったのだろうか……?


「あり得ないわ。魔物の毒は絶対に中和できないはずなのに……」

「できますよ。黄金の型を使えばね」


 極光剣、黄金の型……つまり、黄金闘気は、呪いや毒を中和できるのだ。

 それを使って、魔物を消毒するのである。


「黄金闘気に浄化作用があるのがわかったけど……。アル、どうして? 魔物に毒が含まれてるって知らなかったのに、浄化なんてしてたの」

「食中毒予防ですね」


「しょ、食中毒……?」

「ええ。野生動物の肉には寄生虫などが含まれてますので」


 食品はよく消毒してから、調理をしないと。

 加熱調理(75度1分以上)で食中毒細菌は死ぬけれども、念には念を入れておくべきだろう。


 特にジビエはしっかり消毒しないと。


「…………」

「どうしました、エルザ?」

「いや……うん。改めてアルは規格外ねって思って」


 何はともあれ、食材はゲットした。 

 あとはこの肉を使って料理を作るだけだ。 

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