第52話 鉱山病をなおす




 あくる日。

 私は守護神バーマン、エルザを連れ、ネログーマとゲータ・ニィガの国境付近へとやってきていた。


「先生。これからどこいくんです?」

「……あなた、それ知らずに付いてきたの?」


 エルザがため息をつくと、バーマンが鼻を鳴らす。


「別に良いだろ。今日は非番だしよぉ。先生とは片時も離れたくねーんだよ」


 バーマンは私の腕にひっついてる状態だ。

 天王剣を見せてから、特に、バーマンは私に甘えるようになった気がする。


「……発情獣」

「あ? なに。強いオスに引かれて何か問題あんのかよ」

「……別に」


 ふぅ、とエルザがため息交じりに言う。


「……アルは、こないだゲータ・ニィガからもらった大鉱山の様子を見に行くのよ」

「なるほど……。あのドワーフのおっさんは連れてこなくて良かったの?」


 私は答える。


「あくまで今日は様子見ですので」


 ネログーマから北西へ向かって歩いて行く。

 道中魔物が襲ってくるも……。


「おらぁ……!」


 バーマンが大剣でなぎ払っていく。


「へへっ。先生と毎日やってから、体が調子いいんだ~」

「……は、ハシタナイ」

「なんだよ。エルザ。おまえもそうなんだろ?」

「……そうね」


 そんなこんな私達は大鉱山の付近までやってきたのだが。


「誰かが襲われています」

「なんだって!? どこ?」

「鉱山付近の森の中ですね。二人はここで待っててください」


 私は軽身功で体を軽くし、高速で森の中を駆けていく。

 やがて、現場へと到着した。


「ギャアス!」

「ひいぃい! たすけてぇえ!」


 鳥の形をした大きな鳥(魔物)が、子供を襲っている。

 魔物のくちばしが子供の目をつく寸前。


「はっ……!」


 私は木刀を抜いて岩鳥の頭蓋骨を粉砕した。

 ずしゃり、と魔物が地面に落ちる。


「怪我はないですか?」


 私は子供に尋ねる。

 子供は痩せ細った体つきで、いかにも不健康そうだった。


「だ、大丈夫……あ、ありがとう、お兄さん」


 ……? お兄さん?

 どう見ても私はおじさんなのだが……まあ、それはさておき。


「怪我がなくてよかった。お嬢さん、どうしてこんな森の中にいたんですか?」

「おいしゃさんを呼びに……」

「ふむ。医者?」

「うん……みんな、苦しんでて……」


 どうやら知り合いが病気か怪我かを負っているのだろう。


「大丈夫。私の知り合いにお医者さんがいるんです。それに、私も多少なりとも医術の心得があります」

「ほんとっ? おねがい、皆を助けてっ!」


 少女は人間だ。つまり、このネログーマではなく、ゲータ・ニィガの人間だろう。

 だが、他国の人間だろうと、困っている人はほっとけない。


「わかりました。では、バーマンたちと合流し、向かいましょう」


 ほどなくして、私たちは森の中にある開けた場所までやってきた。

 敷物の上に、痩せ細った人たちが倒れている。


「ぜひゅー……ぜひゅー……」「く、くるしぃい……」「はぁ……はぁ……胸が痛いよぉ……」


 倒れている人たちの元へ、治癒神エルザが向かう。

 彼女が問診を行い、状態を調べる。


「鉱山病ね」

「なんだよ、こーざんびょーってよぉ」

「肺の中に石炭などの粉塵が蓄積することが起きる、肺疾患のことよ」


 ふむ……。


「もしかして、ここに居る人たちは、大鉱山で働いてる人たちなのでしょうか……?」


 だとしたら、鉱山から離れた場所で、どうして倒れているんだろうか……?

 まあ、それは後で考えよう。


「エルザ。彼らを治せますか?」

「できるけど、すぐには無理にね。肺の中にある粉塵を、薬を使って少しずつ除去しないといけないわ……」


 なるほど、すぐ治せるってわけではないのか。


「とりあえず、エヴァシマに皆運ぶかい? 先生」


 天王剣を使って、空間転移を行えば、エヴァシマへ一瞬で移動できる。

 王都で治療を行うのが一番だろう。が。


「この方たちは、今すぐ治療しないとまずいです」

「!? ど、どうしてわかるんです?」

「闘気が消えかけているからです」


 体内の闘気は生命力を表してる。

 闘気が消える=生命がつきるってことだ。


「お、おいバーマンやべえじゃないか! 早く直さないとさ!」

「……無理よ。肺の中にある粉塵を、外科的に取り出すことなんて不可能だし。薬を使ってちょっとずつ体外に放出する以外に方法はないわ」


 ……ふむ。

 なるほど。


 ようは、肺の中にある異物を取り除けばいい、ということか。

 私は倒れ居ている病人さんを抱き起こし、その胸に手をやる。


「大丈夫ですよ。すぐ、呼吸が楽になりますからね」


 私は闘気を、病人に流す。すると……。


「がはっ……!」


 病人の口から黒い靄のようなものが吐き出された。


「はぁ……はぁ……あ、あれ!? こ、呼吸が楽になった!?」

「ええええ!?」


 バーマンが驚愕の表情を浮かべる。

 エルザは病人に近づいて、体調をチェック。彼女も目を丸くしていた。


「……信じなれない。病気が治ってるわ」

「まじかよ!? え、え、ど、どうやったんです、先生……?」


 私はバーマンに説明する。


「闘気を肺の中に流し、異物を除去したのです」

「まじですか!? でも闘気って……外から流すと、体を傷つけちゃうんじゃ……?」


「ええ、ですから、体を傷つけないように、衝気を活気にかえました。あとは、闘気をコントロールして、肺の中にある異物だけをつつみこみ、体外に持ってきたのです」


「や、やべえ……そんな精密な闘気コントロール、難しくてアタシにゃできないよ……すげえぜ! さすが先生……!」


 さすがにこのレベルのことを、バーマンができるとは思えない。

 魔法使いであるエルザは言わずもがなだ。


「二人は手分けして私の前に患者をつれてきてください」

「「了解!」」


 

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